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241. マリーは誰の子?

 9月21日、月曜日。

 昨夜未来のアンジェラが元の時間に帰って、すっかりうちは通常通りである。

 しかし、そんな中でも色々と面倒な事はあるわけで…。

 早朝、マリアンジェラとライナがもめ始めた。

「うぇ~っ、えっ。えっ。びぇ~ん。」

 鼻水も涙もぐちゃぐちゃでマリアンジェラが僕とアンジェラの寝室に走ってきた。ぐちゃぐちゃの顔を僕に押し当てて泣き続ける。

「マリー、どうしたの?あらら、美人さんが台無し…。」

 起き上がって、鼻拭いたり、頭撫でたり、ご機嫌を取る。

「ぐっ、うっ。うぇっ。」

 言葉にならない様だ。額に手を乗せて記憶をチラ見する。

 どうやら、ライナが自分はお姉ちゃんだと言ったことが気に入らなかったらしい。

「マリーはライナがこのうちの子になるのが嫌なの?」

 首を小さく横に振る。

「じゃあ、マリーがお姉ちゃんになりたいの?」

 首をまた横に振る。

「んー…じゃあ、ライナのお母さんにでもなりたいのかな?」

「んぐ。」

 目をまん丸にして、首をぶんぶん横に振る。ちゃんと言ってくれないとわかんないなぁ…。

 困っていたら、アンジェラが助け船を出してくれた。

「マリー、マリーは頭がよくて、何でもできてすごい子だからな…。もし困ったことがあってもちゃんとママやパパに教えてくれて、一緒に解決方法を探してくれるだろ?ママはこう見えておっちょこちょいだから、わからないことが多いんだ。マリーが教えてやってくれ。」

 マリアンジェラがようやく口を開いた。

「ライナが…、マリーはパパにもママにも似てないから、ライナが、ミケーレのお姉ちゃんで、マリーはここのうちの子じゃないって…う、うぅ。」

 げ、ライナ、変なこと言うなよ、もう。

「あ~、それな、じゃあ、面白いもの見せてやろう。」

 アンジェラが、マリーをベッドの上に座らせて、僕の側にずずっと寄ってきた。

 そして、すごいいやらしいキスを…。ん?やだ、子供の前で…、舌とか入れ…。

 僕とアンジェラの体が金色の光の粒子で包まれて、合体した一人の人間になった。

 しばらくこの組み合わせでは合体していなかったけど、そう、薄い色の金髪の長髪に軽くウェーブがかかり、濃い海の様な碧眼に、まつ毛が長く、しなやかな長い手足の美女、女神アフロディーテの姿になった。以前合体した時より髪の色が銀髪に近くなっている。

「お、おお?ヒック。およ?わーー。」

 マリアンジェラが走ってどっかに行った。おいおい、置いてけぼりかよ。

 直後、マリアンジェラがライナを連れて戻ってきた。

 ライナ、完全に瞳孔が開いている。生きてるかーい?

「誰?マリーのお母さん?」

「ぷっ。」

 思わず笑っちゃった。

「そうだよね~、そっくりなんだよね。マリーとこの女神アフロディーテ…。」

「あふろでぃて?」

 ライナが繰り返した。マリーはパパのスマホで写真を撮りまくっている。

 僕とアンジェラは合体を解いた。

「どうだ?パパとママにそっくりだろ?」

「すごい、同じ顔だった。間違いなくパパとママの子供だね。」

 どうにか納得してくれたご様子で、鼻高々に帰って行った。

 そう言えば、未来のセキュリティカメラの映像にジュリアンにそっくりの子供が映っていた。

 もしかすると天使×天使の組み合わせの時にだけ、二人の遺伝子が組み合わさった子供が生まれるのかも…。


 マリアンジェラがアンジェラのスマホを持ってミケーレに写真を見せに行く。

 ミケーレがすごい勢いで寝室に入ってきた。

「あ、あれ?もういないのマリーのお母さん…。」

 どういう説明したんだろう?

「ミケーレ、あれはマリーのお母さんではないぞ。」

「じゃあ、誰なの?」

「パパとママの合体した姿だ。」

「僕も見たい…。」

 えー?また?アンジェラはやる気満々でまたずりずり寄ってきた。

 あぁ、恥ずかしいんだけど…。子供の前でいやらしいチューするの…。

 アンジェラはそんなことお構いなしで、キスを始めた。

 ミケーレが「ヤダー」と言って両手で目を覆っている。そりゃそうだ。

 そして二人は金色の光の粒子に包まれ一人の人間に実体化した。

「うわぁ、すごいね~。マリーを大きくしたみたいだ。」

 マリアンジェラが寄ってきて、ミケーレにスマホを渡した。

「ミケーレ、写真撮って~。」

「いいよ。」

 マリアンジェラを抱っこして写真をとってもらう。

「ミケーレも撮って。」

「おっけー。」

 次はミケーレだ。ライナがこっちを見ている…。

「ライナはどうする?」

 もじもじしているライナをマリアンジェラが引っ張ってきた。

「一緒にね。」

 朝から撮影会?な、お騒がせであった。


 そんな騒動があったせいで、朝食の始まりが少し遅くなってしまった。

 ダイニングに移動してもマリアンジェラの興奮はおさまらず、リリアナにもさっきの写真を見せている。

「え?マリー、誰?これ?マリーの分身?」

「むふふっ、パパとママが合体したらこうなるのよ~。だからマリーは二人にそっくりな美人さんに生まれたのだわ。むふふぅ。」

 底なしの自画自賛である。

 アンジェラがスマホを取り返した後、朝食はようやく終わり、着替えて散策に行くらしい。

「今日は僕も行きたいな。右の海岸の方へ。」

 皆揃って海岸へ行った。


 今日はアンドレとリリアナも一緒だ。

 マリアンジェラがリクエストを受け付けると言ってリリアナに聞いていた。

 リリアナが『じゃ、タコで。』と言うと、マリアンジェラは口を尖らせて言った。

「にゅにゅ~、了解なのれす~。」空中に翼を広げてふわっと上がったかと思うとくるくると回転しながら海の中へどぽーんというすごい音と共に消えて行った。

「マジ?」

「大丈夫だ、いつものことだ…。」

「うぅ、胃が痛くなるよ…。」

 一分ほどで、海の中からザッザッと歩いてくる巨大なタコを頭に乗せたマリアンジェラ。

「すごいおっきいの獲れた。」

「マリー、食べられているようにしか見えないんだけど。」

「だいじょび~。タコちゃん、麻痺中だよ。リリアナ、これ今日のお土産にする?」

「それ、いいね。今日ユートレアに行く予定だから、喜ぶと思う。」

 昔のドイツ圏でタコ食べられる人いるのかな?と疑問に思いつつも、魚介類は冷蔵庫のない時代に喜ばれるらしく、クーラーボックスに入れて氷と一緒に持っていくらしい。

「マリー、イセエビも欲しいな。」

 アンドレが言うと、マリアンジェラが頭に乗っかってたタコをべりっと引きはがし、僕に渡す。ひぇ~。動いてるよ~。

 そのまま空中に飛び立ったかと思いきや、両手を広げて手首をクイッと上げたすると、少し沖の方の海の底が切り取られたようにそこだけ持ち上がった。

 海の水だけ下にざざっと流れていく…。

 すかさずミケーレとライナが砂の上で水が無くなって泳げなくなったイセエビを網に入れていく。10匹くらい獲ったところで、「もういいだろう」とアンジェラに声をかけられ、マリアンジェラが腕を下ろすと砂がそのまま海の底へと戻って行った。

 これか…噂の海の底を持ち上げて…ってやつは。

 その他にもアサリやタイをたくさん獲って、今日の散策は終了した。

 リリアナとアンドレは大きなクーラーボックス2つに海の幸を入れ、500年前のユートレアに里帰りしに行った。

 今日、リリアナの妊娠を祝うパーティーがあるんだとか…。

 今日から三日ほど向こうに泊ると言っていた。


 びちょびちょになった子供たちはシャワーを浴びて、着替えを済ませた。

 僕はタコでぬるぬるになったので、やはりシャワーを浴びて、ライルになり学校に行く準備をした。月曜日か…一日が長いんだよね。

 着替えて、ランチを持ち、アンジェラにもう行くと伝えた。

 アンジェラは仕事の電話中だった。


 学校の寮に着き、寮のドアを開けて外に出ると、5人の生徒が立っていた。

「うわっ。」

 驚いて、声をあげてしまった。

 足早に通り過ぎようとしたが、やはり僕に用があるようだ。

「ライル・アサギリ君ですか?」

「そうですけど…、何か?」

「来月、10月にホームカミングっていうイベントがあって、その時に色々な出し物をするんだけど、ライル君がピアノを上手に弾けるって聞いて、お願いできないかと思って…。」

「それって生徒以外にも来るんですよね?」

「そうね。卒業生とか、保護者とか…。」

「僕のピアノって習ってもいない独学だし、上手くもないですよ。

 それと、ごめんなさい、事務所に聞かないとわからないんです。契約違反になるかもしれないので…。」

「そ、そうなの?」

「はい、すみません。聞いて返事します。」

「お、お願いします。」

「誰に言えばいいんですか?」

「あ、私、高校二年のBクラスのサマンサ・ホワイト。よろしく。」

「わかりました。」

 目立ちたくないのに、こういう話は次から次と来るんだろうな…。

 アンジェラにメッセージを送っておく。

 すぐに返事が来た。

『慈善活動への寄付を募るボランティア以外は却下。』

 なるほど、ボランティアは大学に入るときにもポイント稼ぎになるものだし、ただ弾かされるよりは数段いいよね。


 午後、授業の合間に高校二年のBの教室を訪ねた。

「サマンサ・ホワイトさんいますか?」

「あー、ちょっと待ってね。」

 そう言って奥の準備室に探しに行ってくれたが、出てきたときにはサマンサとウィリアムが一緒だった。

 げっ、こいつがグルなんだな。

「また、君か…。」

「天使様、今日も綺麗だ…。」

 言動がイカレている。

「あ、ライル君とウィリアムって知り合いなの?」

「いいえ。知り合いではありません。」

 僕ははっきり言ったのだが…そんなことはお構いなしで、ウィリアムがしゃべりまくる。

「その後、CMのオファーを受けてもらえてないんだけど、何がダメなんだい?

 教えて欲しいんだよ。」

「…。サマンサ、事務所に確認したら、慈善活動への寄付を募るボランティア以外はダメだと言われました。以上です。では。」

 僕はその場から逃げた。


 午後の授業を終え、午後のスポーツでサッカーを終えた頃、サッカーを見ている人がやたらと増えたと感じた。

 僕がボールを蹴るたびにキャーキャーと歓声も聞こえる。

 何だか、嫌な予感がする。

 こっちに向けてスマホで写真を撮っている奴が何人もいた。

 うぅ、胃が痛い。

 寮の部屋に戻り、スマホでエゴサーチをする。

 ライル・アサギリで検索すると、出るわ出るわ、学校のいたるところで撮られた僕の写真が…。

 一度、学校に相談してみようかな…。


 スポーツの時間を終え、寮に戻る。

 寮の部屋に入った途端、ドアをノックする音が聞こえた。

 面倒だな…とりあえず無視しよう。汗でギトギトで、もう上を脱いでいて、汗で濡れたシャツを着るのも嫌だ。

 しかし、急にドアをたたく音が激しくなり、ドアを壊さんとする勢いに変わった。

 仕方なく、ドアを開ける。

「なんですか、いったい…。」

 上半身裸のままドアを開けると、知らない男が立っていた。

「?誰?」

「?あれ?」

「何の用ですか?ドアが壊れそうですよ。」

 僕がけん制するように言うと、その男は申し訳なさそうに頭を下げて言った。

「ここに天使様がいると聞いて急いできたんです。何かの間違いだったようで、すみません。」

「ウィリアムに関係あるんですか?」

「え?どうしてそれを?」

「勘弁してください、ウィリアムの夢物語に付き合う気はない。二度とこないでくれ。」

 バンッとドア閉め、二重にロックする。

 普通はこういう反応だよ、と自分で納得しつつ、シャワーを浴びる。

 そうだよ、僕は14歳といえども、背も高く、9歳の頃の僕とはかなりかけ離れた容貌をしている。同じ人物だとわかる方がおかしい。


 僕はシャワーを浴びた後、洗濯物を持って即座に自宅に戻った。


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