240. そして事の顛末
昼食の予定がすっかり遅くなり、マリアンジェラの捜索もあって結局食べ終えた時には夕方5時をとっくに過ぎていた。
子供たちをお風呂に入れ、少し早いが子供部屋に移動させる。
アンジェラが子供たちに倉庫の布がかかっているところは今日のように別の世界に繋がっていて危ないから行かないようにと注意をした。
子供たちは素直に返事をしていた。
本当にセキュリティカメラがあってよかった。危なく神隠しになっちゃうところだ。
子供たちにリリアナが絵本を読んであげるというので、お願いした。
アトリエにアンジェラ、徠牙、アンドレ、そしてリリィになっている僕の四人で集まり、先ほどアンドレと徠牙が10年後に行って保存してきたイタリアの家のセキュリティカメラのデータを皆で確認することにした。
10年後の今日の分を含め、それ以前の約一か月分を保存したらしい。
徠牙の記憶をなぞりながら日付を確認していく。
「ねぇ、9月11日に首刺そうとしてたじゃない…。あれは襲撃の何日後なの?」
僕が徠牙に問うと、徠牙がこぶしをぎゅっと握りしめながら話し始めた。
「襲撃は、あのリリィが来てくれた日の3日前だ。皆の葬儀を終え、埋葬するのに三日かかった。警察の事情聴取や現場検証もあった。」
「アンジェラやアンドレには興味が無さそうって言ってたじゃない?」
「そうなんだ、私は殴られて無様に気絶していたんだ。皆が殺された場所で。アンドレがマリアンジェラやリリアナを庇って斧でやられたのは見た。警察の話ではアンドレにはその一撃が致命傷だったそうだ。」
「ねぇ、一つ疑問なんだけど、僕たちの体って、死んだら死体になるの?」
僕が聞くと、アンドレが真顔で言った。
「死んで死体にならなくてどうするというのだ?」
「あ…うーん。今までに死んだのって、この世界では徠人だけじゃない?彼、死んだときに光の粒子になって消えて、核だけ自分の意思で飛んでたよね?」
「自然に死んだ場合と、殺された場合に違いがあるのだろうか?」
「はぁ、なるほど、そう言った違いくらいしか思い浮かばないな…。」
「あとは、核に傷をつけられたとか?」
僕も意見を出す。確かに、そうかも…。イマイチ定義がはっきりとしないが、何か秘密がありそうだ。アンジェラが口を開いた。
「そんなことより、映像を確認しよう。」
9月7日の映像から早送りで内容を確認する。
7日は日曜日だったようだ。早送りで再生されている映像を見ていると、ダラダラと9時過ぎに起きてきて、ダイニングに置かれている朝食をバラバラに食べる子供たちの様子が出てきた。えー、こんなんなっちゃうの?いくら12歳とはいえ、なんだか寂しすぎる…。
アンジェラと僕、アンドレとリリアナは朝7時には朝食を一緒にとり、その日のスケジュールを確認しているようだ…。
「ねぇ、徠牙。アンドレとリリアナのところの子供は?出てこないじゃない?」
「リリィ、何を言っているんだ。そもそも二人には子供はいなかった。妊娠もしたと聞いたことがない。」
「マジで?」
「マジだ。」
やはり、すでに何かしら変わっているのだ。
「リリアナ、妊娠したんだよ。来年春出産予定なの。」
徠牙が驚いている。映像が進んで、次の日の早朝になった。朝は、前日より少し早く起きた子供達、ミケーレ、ライナ、マリアンジェラの順でパジャマのままダイニングで朝食をとり、終わったら顔を洗い着替えた。
昼過ぎまで、家の中でダラダラ過ごした後、ランチのバッグを持ってどこかに転移して行く。
三人同時にマリアンジェラが転移して行った。
「え?どこに行ってるの?」
「あぁ、そうか知らないんだな…。ライルが行っていたボーディングスクールに行っているんだよ。姉弟ということで三人一部屋でライルと同じ部屋をそのまま使っている。通い始めて三年だが、もう三人とも高校生になったところだ。」
「飛び級しまくりってことか…。」
「そうだ。」
僕が聞くと、徠牙が答えた。
「夕方、三人が戻ってきた後だ。あいつが来たのは…。」
映像を早回しにする。サンルームの映像を見ていると…。
来た…。どこから持ってきたのか、斧を肩に乗せ、コウモリの翼を広げながらすーっと近づいてサンルームのガラスを壊そうとしている。
しかし、なかなか壊れない。傷もつかない…。
サンルームから入ることができず、玄関の方に回ったようだ。
ドアベルを鳴らし、対応したお手伝いさんを殴り飛ばし室内に入っている様子が見える。
ライラがダイニングを目指している、ダイニングのカメラに映像を切り替える。
そこには、小学生くらいの二人の子供がテーブルで夕食を食べていた。
「誰だ?」
言ったのは徠牙だ。
「これって、一人はジュリアンにそっくりだ。もう一人はミケーレ?」
「朝のミケーレより小さくないか?」
もしかして…リリアナが産む予定の子供達?また双子???
その二人が、ライラを見るなり言った。
「ライル、ほら、来たよ。マリーちゃんの予想通り。」
キッチンの方に向かって何かしていたライルが振り返ってライラに手を振った。
「よっ。大きくなったな、ライラ。」
ん?どういう展開?
ライラの背後からマリアンジェラがヌッと現れて、斧をわし掴みにしむしり取る。
「危ないから、こんなもの持って歩かない!お手伝いさんが怪我しちゃうじゃない。もう、馬鹿ライラ。」
と怒鳴ったマリアンジェラの手から斧が消える。その途端、慌てふためくライラ。
直後、ライルがパンと手をたたいた。
そこにいたはずのライラが消えた。
そして、ライルが言った。
「朝霧の地下書庫の監禁部屋に入れたから、電話しておくね。」
「えー、それおじいちゃんに丸投げ?もういい加減強制的に暗示かけた方がいいんじゃないの?」
「わかったよ。後で行ってくるよ。」
そこにアンジェラもアンドレとリリアナも普通に夕食を食べに登場した。
「あいつ、また来たのか?」
「そう、今日は斧持ってたよ。結構ボロボロだったから、今回は日本からずっと飛んできたのかも…。」
そこにミケーレとライナが入ってきた。
「お腹すいちゃった。」
マリアンジェラが食事中の双子に聞いた。
「あ、オスカーとジュリアンはいつユートレアから帰ってきたの?」
「「さっき、ママと一緒に。」」
ライルがマリアンジェラ達に聞いた。
「あれ?そういえば、三人はなんで今日帰ってくるの早いんだっけ?」
「あ、ライラに埋め込んだGPSが家に近づいてきてたから、午後はサボって帰ってきちゃった。」
「ライルこそ、仕事はどうしたの?」
「あ、そうでした。戻らなきゃ…。料理作ってて忘れてた。マリー、これお皿にのせて。」
その後は皆普通に食事をしていた。
さて、映像を見終わった僕たちは…。
「うーん、どこでどう変わったのかね。」
アンジェラが首を捻る。もう一回朝霧の映像を確認しよう、とアンドレが言った。
そこには、由里杏子は映っていた、ライラは繭にもなっていた。
しかし、繭から出た直後のライラに近づいた者がいた。
「あ、あれって小さいライル?何かしゃべってる。」
「徠牙、もう多分戻っても大丈夫だ。リリィに連れて行ってもらえ。」
アンジェラが言った。徠牙がそれに答えた。
「ありがとう。」
何日に帰るべき?とりあえず、9月20日、今日と同じ日付にした。
墓石の前に出た…。墓石はなかった。
徠牙、いや、この未来の時間のアンジェラは、慌てて家に走って行った。
家に着いて、家の中に入り、10年後の僕と話をしているのを廊下に隠れて聞いた。
「アンジェラ、おかえり。突然地下二階の掃除している間に14日に消えちゃって、すごい心配だったけど、無事でよかった。昔の日記に書いてあった通りになったね。」
「リリィ、リリィ…。会いたかった、私のリリィ。」
アンジェラが泣きじゃくっている。多分鼻水も出てるよ。
「そうそう、またライラが来たんだよ。ここに一緒に住まわせて欲しいって。朝霧の家は嫌だって…。だから、朝霧の地下書庫の空きスペースに作った外から鍵のかかる部屋に転送したのよ。あんまり家出ばかりするから、GPSを埋め込んでおいてよかったって言ってたわ。」
僕は廊下でそれを聞いて安堵した。
震えるような未来は起こらなかったのだ。さあ、僕も自分の時間に帰ろう。




