24. 燃える瞳の色
北山先生が帰った後、僕は父様に時間を作ってもらい、地下の書庫で話したいと伝えた。
父様は、僕に先に行くように促すと、一度動物病院へ寄ってから追いかけるという。
僕は一旦自室に戻り、日記のノートを持ってから地下の書庫に移動した。
父様が来るまでの間に、さっきの北山先生の目が緑色に光った事を日記に書き込む。
十分ほどして、父様が書庫にやってきた。
「ライル、話っていうのはなんだい?」
僕は、さっきの北山先生の目が緑色に光ったのを父様も見たかをまず確認した。
「あぁ、僕も見たよ。」
「どうして目が光ったんでしょう?」
「さぁ、ああいうのは僕は初めて見たよ、僕の手を当てたところが白く明るく光るのはいつも見ているけどね。瞳が色を変えて燃えるように見えたのは初めてだ。
ライルは見たことあるのかい?」
「はい。何度か。父様とアダムは白銀色に。母様は緑色に。イブは赤色に燃えるような目に一瞬なりました。」
「僕もなのかい?」
「はい。」
アダムはそれをギフトだと言ったことを父様に説明する。。
今回、北山先生と母様が同じ色だったことで、色により何か共通点があるのではないかと思っていることも伝えた。
「なるほど。では、金色はアダムと僕なんだね、それも何かの共通点があるということかもしれないね。
蒼い目が白銀色になるとか?黒い目が赤になるとか、そういうことなのかな?」
「その色の炎の様な揺らめきが出てるというか…。あと、アダムとイヴとアズラィールの目の中に金色の輪が一瞬出た気がしたんです。」
「不思議なことばかり起こるね。」
「なるべく忘れないように、恥ずかしいけど日記に書こうと思って。」
僕は父様に日記を見せた。
父様は僕から日記を受け取り、一通り日記を読み終わると、少し困惑気味に言った。
「ライル、おまえ…。北山先生を助けたのかい?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「あぁ、ライル。僕はてっきりおまえの転移は血縁のある者にのみ使える能力だと思っていたよ。下手に他人の物に触ると大変なことになりそうだ。」
父様は僕が北山先生の犬バロンに着いた血を見てただ気絶したと思っていたようだ。
「北山先生も瞳が光っていたのは、おまえが助けたことに関係あるのかもしれないね。ライル、ちょっと実験してみないか?」
「実験ですか?」
「誰かに触ってみてどうなるかを見てみよう。例えば、かえでさん。彼女は危険な状況にはないと思うから、やってみても平気だと思うのだけれどね。」
「そうですね。父様の言う通りにします。」
父様はスマホを取り出し、かえでさんにお茶とジュースを書庫まで持ってくるように言った。
少しして、かえでさんがお茶とジュースを持ってきた。
テーブルの上に飲み物を置き終わったとき、僕はわざと自分のノートをかえでさんのすぐそばの床に落とした。
「あ。」
と、わざとらしく言ってかえでさんの側に寄る。
かえでさんがノートを拾い上げようとかがみ、ノートを掴んだかえでさんの手を僕がノートごと掴む。
かえでさんの体から緑の光が出るが、目は光らなかった。
同時にかえでさんの記憶、知識が僕の中に流れ込んできた。
「あ、ありがと。かえでさん。」
僕は白々しくお礼を言ってノートを受け取った。
かえでさんが下がって、僕と父様は先ほどの実験の結果を確認する。
「目は光りませんでしたね。」
「あぁ、光ってなかった。」
「体は緑に光ってましたね。」
「あの時は何が起きているんだい?」
「あれは、記憶とか、知識とでも言うんでしょうか、そういったものが流れてくる感じがします。」
「例えば、どんなものだい?」
僕は目をつぶって少し集中してみる。
かえでさんの記憶には、とても悲しいものが含まれていた。
かえでさんは子供の頃、いつも金髪で碧眼の子供二人、多分おじい様と双子の弟と一緒にこの家で過ごしていたみたいだ。
ん?おじい様達はやはり僕と父様にそっくりだな。
かえでさんの両親だろうか、かえでさんが子供の時に離婚して母親が去ってしまった様だ。
そして、かえでさんは若いときに結婚したことがあるようだった。
え?子供も産んでいる。女の子だ。
夫は子供を連れて出て行ってしまった様だ。
そこまでのざっくりと出てきたイメージを父様に話す。
「すごいな、ライル。そして、それってちょっとこわいよ。僕のも見たんだね?」
「あ、あ、う~ん。そんなに細かくは見てないというか、見ようと思わなきゃ見えないというか。ははは。」
「なんだか、恥ずかしいな。」
「父様。仕方ないじゃないか。自分じゃ止められないんだから。」
こっちも恥ずかしくなっちゃうよ。何を想像してるのか…。
「ライル。それで、本題だ。目が光った時と何が違うと思う?」
「うーん。かえでさんに触ったときに感じたのは、バロンや物に触ったときと同じ感覚だった。」
「物からも記憶が入ってくるのか?」
「はい。記憶なのか、情報なのかわからないけど、誰が持ってたものなのかとか、その物に起きたこととかかな。」
「探偵業ができそうな能力だね。人探しとか。」
「やめてよ、父様。またどっかに飛ばされて帰って来られなくなったら困るよ。」
僕と父様は結局、明確な説明がつけられないままでいた。
「とりあえず、何かあったら必ず日記に書き込んで情報共有するようにしよう。」
「はい。父様。」
そこで、父様はアズラィールの残した文書の箱を開ける。
度々その文書の内容が変わることに気づいた父様は、何か更新されていないかを確認しているのだ。
「ん?おっ。変わっているよ。というかページが増えてるよ。見てごらん。」
父様に促され文書の二枚目を見ると、気になる記述が書き加えられていることがわかった。
「これって、首飾りを外したら、徠竜ことアズラィールの眼が赤く輝いた。ってことですね?」
「そうだね。そして悪しき心に支配されそうになったから、また首飾りを着けた。となってる。」
「えー、赤い目ってやばいってこと?イヴは赤くなってたのに。」
「このページの最後にこうあるよ。その能力が使われないことを願う。か。」
「どういうことなんでしょう?」
「何か破壊的、あるいは攻撃的な能力だったりするのかもしれないね。僕やライルのような能力は、悪いものではない気がするだろう?」
「確かに…。僕の場合は自分で制御できないので、困ってますけど。人を害するようなことは出来ないです。」
「制御か…。あの首飾りは能力の封印をするものって言ってたね。」
「はい。」
「どうやら、僕たちの祖先は、全く同じ能力を持っているとは限らない。ということかな。」
アズラィールが言っていた様に、動物を操る者、占いや未来の預言を行い人間を懐柔する者など能力は様々だということか。
僕たちは何も解決には至らず、その場を後にした。