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238. 異なる現実

 一方、二時間前の出来事…。

 マリアンジェラは『かくれんぼ』で隠れるところを探していた。

 普段、かくれんぼなどという子供っぽいことは殆どしない。どちらかと言うと、外でタコと格闘している方が楽しいからだ。でも今日はあいにくの雨だ。外に出て濡れたら面倒だ。

 家の中で遊べることとなるとなかなかできることが少ない。

 絵本に書いてあった『かくれんぼ』をやってみよう。

 そう思い、ミケーレとライナに提案した。

「いいよ。」

「うん」

 二人は快く応じた。じゃんけんしたらミケーレが負けて鬼になった。

「じゃあ、30数えて、終わったら探しに行くんだよ~!」大きな声で言いながらマリアンジェラが遠ざかっていく。

 ミケーレが子供部屋で数を数えている時、ライナは子供部屋のキャビネットのいつもの定位置に入った。

 マリアンジェラは、先ほどアンジェラとリリィが見たセキュリティカメラの映像の通り、別の世界へと行ってしまっていたのである。


「…28、29、30。これさ、僕だから数えられるんであって、他の二人じゃ鬼もできないんじゃないの?」

 とミケーレは独り言を言いながらキャビネットを開けてライナにタッチ。

「ライナ、見っけ。」

「ひゃっ。」

 その後、ミケーレはあちこち探し回ったが、30分探してもマリアンジェラは見つからなかった。ミケーレはもう飽きてしまい大きい声で言った。

「かくれんぼは時間切れにより、しゅうりょうとします。」

「あい。」

 ライナが返事をした。


 パラレルワールドの別の世界に来てしまったマリアンジェラは、布の内側に隠れた時に体が光の粒子になり、目の前がグニャリと変形したように思ったが、気づくと同じ場所に転がっていた。

「およ?」

 なんだか、同じ部屋だけどちょっと違う気がして、別の隠れ場所を探して倉庫を出ようとした時、いつも大量に置かれているライルの絵画が一枚もなく、全部リリィの絵画になっていることに気づいた。

「ふぇ?」

 さすがに何かがおかしいと感じたので、子供部屋に戻ることにした。

「え?部屋がない。」

 子供部屋は子供たちのために増設されたスペースだ。この世界ではそれは行われていなかった。少々パニックになりながら、アトリエに行った。

「ほえ?パパとママの結婚式の絵がない~。」

 おかしい、どう考えてもおかしい。ここって家じゃないのかな?

 ダイニングに行ってみる。

 ここは殆どいっしょだけど…ダイニングテーブルに椅子が四脚しかない。

 うちは7人家族で、時々ママとライルが別々になったりするから8脚の椅子が置かれているのに…。お腹が、ぎゅう~る~。と鳴った。

 冷蔵庫の中を物色する。

 お皿に乗ったサンドウィッチを見つけた。ラップがかかっている。

「とりあえず食べちゃうよ~。」

 サンドウィッチを秒で平らげ、アンジェラの書斎や、アンドレとリリアナの部屋をチェックする。アンジェラの書斎はいつもの雰囲気と変わらない。ん?数日前に取り付けられていたはずのセキュリティカメラがないみたい。

 次にアンドレとリリアナ部屋をチェックした。

「ほえ?何にもない…。」

 ベッドも何も置かれていない。その廊下の先に客間は2つあるようだ。

 もう一度、アトリエに戻った。

「あ、サンルームとピアノがない…。ここは、おうちじゃない…。」

 マリアンジェラはアンジェラとリリィの寝室のベッドにもぐりこんで泣きべそをかきながら寝落ちしてしまった。


 1時間ほど経っただろうか…『ピッピッピッピッ、ピー』と音がして玄関のセキュリティが解除され誰かが入ってきた。目を覚ましたマリアンジェラは飛び起きた。

「パパー」

 ものすごい勢いで走って階段を上り玄関に行く。

「パパ、お家が変だよ。みんないなくなって…て…。ほえ?」

 アンジェラだとは思うのだが、なんだか雰囲気の違うアンジェラが不思議そうな顔をして棒立ちだ。

「お嬢さんは、どこから入ったのかな?」

「え?パパ?じゃない?うぇ~ん。ママ~、パパ~、リリアナ~、アンドレ~、ライル~、ミケーレ、ライナ~…みんなどこ行っちゃったのぉ…。おじさんだあれ?パパにそっくりだけど、パパはそんな服着ないよぉ。」

 ギャン泣きするマリアンジェラにこの家のあるじであるアンジェラは困ってしまった。

 彼は、どこかに電話をかけ始めた。

「あ、もしもし。家に変な子がいてね。パパって聞かれたんだけど…ライルって前に瑠璃リリィの脳のダメージを治してくれた子だろ?あぁ、やっぱりそうか…。悪いけど、今すぐこっちに来てくれないか?私にはちょっと無理だよ。」

 そう言って電話を切った後で、そのアンジェラっぽいおじさんが言った。

「おじょうさん、すぐに瑠璃リリィが来るから、ちょっとダイニングでココアでも飲みながら待ってもらえるかな?」

「ココア?」

「そう、嫌いじゃなければ、だけどね。」

 マリアンジェラはコックリと頷き、アンジェラっぽいおじさんの後についてダイニングに行った。おじさんは、クッキーとココアを出してくれた。

「熱いから、気を付けて飲むんだよ。」

 なんだか、パパとはずいぶん話し方が違う。パパはまるで王様みたいに強くてカッコイイ。でも、このおじさんはふわふわした感じの話し方だ。

「おじさん、名前なんていうの?」

「私はアンジェラ・アサギリ・ライエンだよ。」

「え?えぇー?」

 マリアンジェラは目の前にヒヨコが飛んでるくらいの衝撃を受けた。

「うちのパパも、アンジェラ・アサギリ・ライエンだよ。ここ、どこ?」

 涙目になり、悲しみが押し寄せる。

「あ、お嬢さん…。お名前は?」

「マリアンジェラ・アサギリ・ライエン。みんな、家族はマリーって呼ぶの。」

 そこへ、子供と大人の中間くらいの女の子が寝室の方から走ってきた。

「アンジェラ、お待たせ…。おぉ、これはこれは…マリアンジェラだっけ?」

「お姉ちゃん、2月にライルを連れてきた人?」

「そう、正解。瑠璃リリィだよ。」

「マリー、お家に帰りたい。」

「そうだね、きっと皆心配してるから、それ飲んだら帰ろうか?」

「うん、帰り方わかるの?」

「大丈夫だよ、わかってるから。」

 マリアンジェラが熱いココアをちびちび飲んでいると、瑠璃リリィと名乗るお姉ちゃんはスマホを出し、パパに似ているおじさんに色々説明をしてた。

「へぇ、お嬢さんは別の世界の私の娘さんなんだね。」

「別の世界?」

 意味が解らず、とりあえず繰り返す…。

「おぉ、CMに出たのか?すごいな、大きくなれるのかい?」

「うん、一番大きくて180cm。」

 そこは、聞かれていない…。瑠璃リリィがスマホに保存されている画像を見せてくれた。

「ライルからお手紙もらって、マリーちゃんがCMにライルと出た時の画像を写真でもらったんだよ。ほら、きれいだし、かっこいいね。」

「うん、ライルとチューしたんだよ。へへ。」

「ライル君はお兄ちゃん?」

「おじさん、違うよ、ライルはね、ママなんだよ。」

「え???」

 どう聞いても男の子のライルがママと言うのがよくわかんないらしい。


 その時、寝室からバタバタと音がして、ライルが走ってきた。

「マリー、マリー、いたら返事をしなさい。」

「あ、ライルだ。ライル~、ここ、ダイニングだよ~。」

 マリアンジェラが返事をしたのが聞こえてライルが駆け込んできた。

「わっ。あ、ごめん。瑠璃リリィとアンジェラ?僕、ライル・アサギリ・ライエンです。マリアンジェラの…母親です。」

 失敗した。リリィで来ればよかった。男で母親って変だよな…。

 ぷしゅ~と恥ずかしくなったら、そのままリリィになった。

「えっ?」

 ここのアンジェラが目を点にして驚く。

「あ、あの元々は男なんですけど、リリィになって戻れなくなった時に僕の世界のアンジェラと結婚しまして、双子を産んだもので…。ハハッ…」

 なんだか恥ずかしい。

「マリー、帰ろう。パパもミケーレもライナも心配してるよ。」

「ねぇ、ママ、ここ何なの?パパに似てるけど変な服着てるグニャグニャしたおじさんと、こどもみたいなリリィがいるよ。」

 僕はライルに戻った。

「あはは、すみません。こら、グニャグニャとか言わない。ここはね、マリーの住んでいる世界とは違うもう一つの世界だと思う。だから少しずつ違うんだよ。」

「アンドレとリリアナはいないの?お部屋がなかった。」

「誰ですかそれ?」

 瑠璃リリィがライルに聞いた。

「あぁ、アンドレはアンジェラと同じ天使の魂の核を持つ500年前の王子様です。ユートレア小国の城って持ってますか?そこの王子ですよ。うちで、一緒に暮らしてるんです。リリアナは僕の分身体で、アンドレと結婚したんです。瑠璃リリィは過去や未来にいけないんだったっけ?」

「うん、一回行った場所は行けるけど、時間は変わらないのよ。アンジェラを助けた時だけかな、時間が違う場所に行ったのは…。」

「そうか…。実は手紙に書いたんだけど、10年後に北山留美がこれから産む女の子が僕達全員を斧で惨殺することがわかったんだ。それで、かろうじて生き残ったアンジェラをうちに連れ帰り、対策を練っているところだ。」

「手紙と動画見たよ。でも、こっちでは、どうにも未来へは行けないから確認できなくて。」

「そうか、どこか新聞記事を検索できる図書館とか、近くにあるかな?あったら、その中で10年後に行き、検索してみるのがいいと思う。下手に家に行って、まだ殺人鬼が潜んでいたら話にならないからね。あまり長くこっちにいると家族が心配するから、30分くらいなら付き合うよ。マリー、おいで。」

 僕はマリーを抱っこして、片手で二人の手を取った。

 知っている図書館、日本の地元の図書館だ。ギリギリ開いている時間帯に転移した。

瑠璃リリィ、あそこの端末で検索してみてくれ。」

「あぁ、うん。」

 アンジェラは、何が起きたか理解できていないようで、焦っている。

 5分ほどで朝霧の家で惨殺事件が起きたという記事が見つかった。

 印刷をして記事を持ってきた。また二人の手を握り、今度はイタリアの家の墓石の前に転移する。墓石は3つ。アンジェラ、瑠璃リリィ、そしてミカエル。

 それだけ確認して、元の時間のダイニングに戻った。


「足早でごめん。とにかく、あのセキュリティカメラに写っていた女が要注意だ。

 あちらの世界では、『由里杏子』または『由里このみ』、あるいは『川上このみ』を名乗っていた。調べるなら、その三つだ。」

 この女が持っている蛇の頭の入った複数のびんをたたき割った方がいい。

 さあ、もう行くよと言って、もっといろいろと知りたそうな瑠璃リリィを遠ざける。

「質問は手紙で頼むよ。リスクが高いからそうそう来れないとは思うけどね。

 マリー、さあ行こう。パパが泣いてるかもしれない。」

 そう言って、マリアンジェラをだっこしたまま倉庫の中へ移動し、白い布をよけ、マリアンジェラとミケーレの絵を触った。

 僕達の体が光の粒子になり霧散する。

 それを見ていたアンジェラと瑠璃リリィはため息を漏らした。

 僕達は無事に自分たちの世界に帰ったのである。



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