235. アンジェラの杞憂
リリアナと僕が病院から戻ってきたら、ちょうど皆で外に出てランチを食べようとしていた。
「ただいま~。今日は外でランチなの?いいね。」
「リリィも食べてから行ったらどうだ?」
アンジェラが誘ってくれたが、本当に時間がない。
「微妙に間に合わないから、ここにあるの持って行っていい?」
「こっちに作ってあるぞ。」
徠牙が包んであるものを渡してくれた。
「ありがと。」
ランチをもらってライルに戻り着替えるためにクローゼットへと向かおうとした時、アンジェラが僕の後をついてきた。
「ん?」
クローゼットに入るなり、アンジェラが僕を抱きしめて何度もキスをする。
あぁ、ダメダメ…やっぱり変な能力を使ってるんだわ、これは…。拒否できないというより、ずっとこうしていたい。
「アンジェラ、ずっとこうしていたい…。だけど、遅刻しちゃう…。」
「あっ、すまない。私は何をしているんだ…。どうも、お前がどこかに行っちゃいそうで不安になるんだ。」
「やだぁ、アンジェラったら、そんなこと絶対ないから、安心して。」
どうにかアンジェラをクローゼットから出してライルになり、今日の服を着て寮に転移する。
「あ、ランチ忘れた。」
慌ててクローゼットに戻ると、アンジェラがしゃがみこんで泣いていた。
「アンジェラ…。」
僕がアンジェラを抱きしめて頭を撫でてあげると、下から見上げるようにこちらを見る。
あぁ、やっぱりダメだ、キスしたくなる。でも、ダメダメ、今、僕、男だし。
「泣き虫だな。今日、昼休みに一回戻ってくるから、泣かないで。」
アンジェラが頷いたので、ランチを持ってまた寮に転移した。
あっと言う間に午前中の授業が終わりランチタイムになった。アンジェラに電話をかけて、今どこにいるか聞く。サンルームにいるらしい。
僕はランチに持参したタコスをかじりながら、一旦学校の寮の自室に足早に戻った。
部屋に入った直後に自宅のサンルームに転移する。
アンジェラがマリアンジェラ一緒にサンルームのソファに座り、ボーッとしていた。
「マリー、ミケーレは?」
「あ、ライル。ミケーレはお父上と砂浜に行ったよ。アサリ獲るって言ってた。」
「マリーは何してるの?」
「パパがね、ちょっと変だから監視してるの。」
「ははは、監視かぁ…。」
ボーッとしていたアンジェラが急に立ち上がった。
「あ、ライル。いつ戻って来てた?」
「え、ちょっと前だけど…。」
「マリー、僕ちょっとアンジェラと話があるから、リリアナたちと一緒にいてくれる?」
「うん。わかった。」
僕はアンジェラを連れてユートレアの王の間に転移した。
「アンジェラ…、最近変だよ。」
「わかってる。自分ではコントロールできないんだ。嫉妬と欲望が私の中で大きくなって…。」
「アンジェラ、男の姿でこれ言うの恥ずかしいけどさ、僕も同じだよ。リリィの姿とライルの姿に分離したときに、どっちも自分自身なのに、リリィだけがアンジェラのそばで幸せでものすごい嫉妬した。辛くて辛くて死にたかった。どっちも自分だとわかっていても、触れられないのが耐えられなかった。アンジェラの場合は分離ではないけど、同じ時間に二人存在しているから、似たような心境になっているのかもしれないね。」
「…。」
「早く解決して、皆を助けて徠牙を未来に返そう。」
アンジェラが小さく頷いた。僕はアンジェラの頭を撫でて、涙を拭いてあげた。
すぐに家のクローゼットに転移し、アンドレ達のところにアンジェラを連れて行った。
「アンドレ、アンジェラをお願い。」
アンドレは黙って頷き、アンジェラの手を引いてダイニングの方へ連れて行った。
僕はもう学校へ戻る時間になっていた。
学校に戻ってもアンジェラが心配で頭に何も入ってこなかった。
全てがアンジェラの杞憂であることを祈る。




