231. 襲撃の真相
未来のアンジェラを連れて、僕は自宅のクローゼットの中に転移した。着替えを見繕って、浴室に連れて行く。
「アンジェラ、とりあえずシャワーでも浴びて、これに着替えてね。タオル、ここに置いておくね。終わったら、こっちのアンジェラと一緒に話そう。いい?」
「あぁ、すまない。」
「何言ってんの、自分の家じゃん。それに自分の奥さんじゃん。へへ」
言っててちょっと恥ずかしい。
僕は、すぐにダイニングに行ってアンジェラに報告した。
「未来のアンジェラ、連れてきた。」
「え?どうしたんだ。」
「また襲われて、地下に逃げてた。で、リリィ2号は危なく死ぬとこだった。
ぎりぎり封印の間に逃げてて大丈夫だったから、現在体に取り込んでいて回復中…。」
シャワーを浴び終えたら、話を聞くことにしたと伝えた。
ニュースや日本のセキュリティカメラの映像もダウンロードしてきたことも知らせた。
「それでね、アンジェラにお願い…。うちのガラスの部分を全部防弾ガラスとかにしてくれる?あとね、セキュリティカメラをこの家の中にもつけて。そして、地下でもインターネットにつながるようにして欲しいんだ。」
アンジェラは首肯して、すぐさま業者に手配をしていた。
十分ほどして、未来のアンジェラがシャワーを終え、ダイニングにやってきた。
子供たちが驚きのあまり、フォークを落っことしている。
「あ、あれ?パパぁ、パパがもう一人きた~。」
「え?でもなんだかヨレッとしてるね、こっちのパパは…。」
おいおい、ダメージ与えるなよ…。かわいそうに。
未来から来たアンジェラは幼い二人の子供を見て、目に涙を浮かべた。
子供たちを乳母たちに頼んで、外に散歩に行かせた。
二人のアンジェラ…本人同士が一番気まずい。
「なんだか、不思議な感じだな…。自分と対面するのは。」
「そうだな。どう呼んでいいかもわからないな…。」
「そうだよね~…どっちもアンジェラだもんね。」
そこに、アンドレとリリアナが来た。
「わわわぁぁぁぁ…。誰?誰?」
はい、いいリアクションでしたよぉ。アンドレさん。リリアナは無言のまま、大口を開けている。
「2036年の9月14日から来た、アンジェラだ。」
未来から来たアンジェラが自分で言った。僕もそれに補足した。
「アンドレ、驚かせてごめんね。ライラに襲われちゃってたし、放っておいたら餓死しそうだったから、こっちの方が安全だと思って連れて来ちゃった。じゃあ、さっそくダウンロードしてきた朝霧の家での事件の様子を見せてもらってもいい?」
「今、リリィ宛に送ったよ。」
僕は自分のタブレットを開いて、皆に見えるように動画を再生した。
最初は、子供部屋?小学生くらいの大きさの女の子が勉強している、多分これが、ライラだろう。
画面を二つに分割して別のカメラの映像を同時に再生しはじめた。
玄関の映像だ。誰か来客があり、かえでさんがドアを開けた。そこへ少し背の高い女がかえでさんを突き飛ばし、中に入ってきた。女は階段を駆け上がり、二階の部屋、さっきの女の子の部屋にノックもせず、いきなり入った。
女は懐から何かを取り出し、ライラに見せ何かを言っている様だ。
急にライラがふらつき、床に倒れこんだ。直後、女は走って家から出て行った。
僕は、その映像の女の手元を拡大してもう一度見た。
「これは、赤い目の蛇だ。」
そして、女が振り返ってドアを出る時の映像に顔がはっきりと写っていた。
「この女、川上このみだ。」
ライラに蛇の赤い目を使って何か命令したのだと想定できる。
映像は長い、ライラの部屋の床に横たわるライラ、そして、そのライラの周りに黒い血管が張り始め、それが繭の形に変貌していく。
最初にそれに気づいたのはお婆様だった。慌てて、電話をかけ、父様とお爺様と留美が出かけた先から帰ってきた。未来からきたアンジェラが口を開いた。
「この時、徠夢から電話がきたんだ。ライラが繭の様なものに包まれてしまったと。」
現在のアンジェラがそれに続いた。
「これは、過去が変わる前に徠人がおかしくなった時の繭と同じじゃないか?」
そうだ、黒い血管が体の外側を覆い、脈打ったまま中の様子がわからなくなった。あの時は結構長い期間、中に入ったままだった。確か、出てきたときに徠人がアンジェラとそっくりに変化していたんだった。
未来のアンジェラが映像を早送りした。一週間後、繭を破いて女の子が出てきた。
背格好は変わっていないが、髪に赤い筋がいくつも入り、チリチリのウェーブがかかっている。服が無くなっている。ライラはクローゼットの中から黒いワンピースを取り出し着た。
ライラが机の引き出しを開けた。そこに未徠が気付いて駆け寄る。
一瞬だった。ライラはカッターで未来ののどを切った。未徠が倒れ、目撃したお婆様が床に座り込む、同じようにのどを切られ、その場に倒れた。ライラはその時、翼を出した。
コウモリの様な黒い、ゴムでできたような翼だ。
その後、かえでさんが気付いて徠夢と救急車を呼んだ。その間、ライラは未徠の部屋でドイツやイタリアの親戚の家の住所がわかるものを探していたようだ。
徠夢と留美もカッターで首を切られ、そこにい合わせた救急隊員が目撃者となった。
サロンのガラス戸をあけ、外に出るところまでが写っていた。
「多分、この後、徠神の店に行ったのだと思う。そこでは、調理場にあった刺身包丁で襲われたそうだ。その後一週間ほどして、ドイツのマルクス達が襲われ、その二日後にイタリアに来たんだ。」
「ねぇ、川上このみが来るまではどんな感じだったの?ライラは…。」
「普通の子供だったさ。覚醒もしていなかった。」
「これは、ライラをどうこうするってことじゃなく、川上このみを何とかすれば起きないのかな?」
「そうかもしれないな…。」
これからするべきことの方向性は決まった。
僕は学校に行く時間となり、リリィ2号を外に出し、ライルになった。
リリィ2号は一度体内に取り込んだおかげか、ほぼ回復していた。




