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225. トラブル回避と我慢の限界

 学校の寮でギリギリまで時間をつぶす。

 今日はこの前宿題に出た先祖についてのエッセイを発表する予定だ。


 部屋を出ようとしてドアを開けた時、目の前にまたウィリアムが立っていた。

「ライル、頼む話を聞いてくれ。」

「…。元々僕とあなたは知り合いでもなんでもないですし、話を聞く理由もないですよね?

 僕は一人が好きなんです。放っておいてください。」

「う、家に、90年前に描かれた君の、天使の絵画あるんだ。」

 なるほど、それで興味を持ったのか…。

「へぇ、あの絵画はずいぶん高値で売れるらしいけど、そんなのが家にあるって裕福な家なんですね。」

「認めるんだな、あの絵は君を描いたものだと…。」

「僕が90年前に生きているわけないじゃないですか、うちの家系はみんな同じような顔をしているんです。アンジェラ・アサギリ・ライエンⅠ世は、彼の双子の兄を描いたんですよ。僕の四代前の直径の先祖だ。わかったら、もう話しかけないでくれ。」

「双子の兄?」

「もういいだろ。勘弁してくれよ。」

「は…ははは…。天使様は兄だったのか…。」

 よっぽど心酔していたのか、独り言が怖い。しかし、5億もする絵画を買う家ってどんな家だろう?僕は足早にその場を後にした。


 教室に入り、最初の授業で自分の先祖について書いたエッセイを読み上げ、説明しなければいけない。生徒の中には祖父母が奴隷としてアフリカから連れて来られたと言う人もいた。

 僕の発表には皆結構興味を持ってくれたようだった。

 僕の番が終わると女の子は皆声をそろえたように『すごい、リアル王子様じゃん。』と感心してくれた。僕は、少し補足した。

「現在、ユートレア小国はドイツに吸収され、王国としては残っていません。ですので、残念ながら、僕は王子様にはなれなかったんですよ。」

 無難に課題を終えられてほっとした。


 ランチタイムになり、家から持参したサンドウィッチを食べていると、また昨日の三人組が近づいてきた。最初に話しかけてきた同じ女が言った。

「ここ座っていい?」

 僕は無言で席を立った。女は続けた。

「昨日はごめん。ごめんなさい。怒らせようとか、嫌味とか言うつもりじゃなくて、友達になって欲しくて、声をかけたんだけど…。」

「もう、遅いんじゃないかな。昨日の態度を見て友達とか、無理だと思う。僕じゃなくても。」

「そうだよね…。」

 僕は少し離れた違う場所の空いた席目指して数歩進んだ。

 その時、後ろから肩を掴まれた。

「待てよ!」

 昨日、腕を掴んだやつだ。すごい力だ。暴力でなんでも解決しようとするやつなのか…。

「今すぐ、放せ。」

 僕は赤い目を使った。『二度と触るな』と心の中で念じた。暴力男が手を離した。

「や、やめてよ。ジュド。あんたのせいで昨日だって、話もできなくなったんだから。」

「で、でもメリッサが話しかけてるのに、こいつが無視するから…。」

「ライル君、ごめんなさい。先週から君のこと気になってて、君がCMに出てるって知ってCMを見たら、一緒に出演してる子と恋人なのかなって思って、気になって気になって…。」

 自分に関係のない人間のプライベートにまで干渉する気か?

「悪いけど、プライベートに関して話すつもりはないよ。」

 僕は、距離を取るために一番離れた席を探した。四人掛けの席に一人座っている人がいたが、そこに行き、座ってもいいか聞いた。同じクラスの女の子ベスだった。

「あ、ライル。どうぞ、座って。」

「ありがと。」

「ねぇ、聞こえちゃった。CMに出たの?」

「あぁ、断れなくてさ、義兄あにの頼みで。」

「ふぅん。カッコイイもんね。」

「あれは編集技術のたまものだと思う。」

「今度CM見てみるね。」

「はは、やめてよ。避けたい話題なんだ。」

「ふぅん。」

「ベスはこの学校で何年目なの?」

「今年で2年目。中学一年から入ってるよ。」

「飛び級している人ってたくさんいるの?」

「ほとんどいないよ。」

「全体で2人とかくらいかな。」

「そうなんだ…。」

 ちょっと考えが甘かったかなと思った。できれば3年で大学入学まで行きたいと思っていたのだ。

 飛び級の基準もよくわからないしな…。考え込んでたらベスが聞いてきた。

「飛び級したいの?」

「あ、うん。できれば早く大学に行きたいんだ。」

「へぇ、じゃうちのお兄ちゃんと話してみる?」

「お兄ちゃん?」

「そう、お兄ちゃんは今大学の教授をしてるけど、14歳で一回目の大学を卒業して、全部で三回大学に行って、今教える人になったんだ。きっとコツとか知ってると思うよ。」

「確かに、参考にしたいな…。じゃあ今度機会があったらお願いするよ。」

「わかった。」


 その後、午後の授業とスポーツを終えイタリアの家のクローゼットに転移する。

 なんとなくだが、ウィリアムとうるさい女どもの事が少し解決した気がして今日は気分がいい。

 それに飛び級の情報もそのうち聞けそうだ。

 洗濯ものを出して、自分もシャワーを浴びた。運動を強制的にやらされているせいか非常にお腹がすく。今までの生活が怠惰だっただけかもしれないが、運動は好きではない。パジャマに着替え、ヘロヘロになりながら冷蔵庫の中を物色していたらアンジェラが来た。

「おかえり。」

「ただいま。」

「ライルの分は、こっちの冷蔵庫にとってあるんだ。」

 パントリーの中の冷蔵庫から大きなプレートに取り分けてラップしてあるものと別の皿に乗ったイセエビを取り出してくれた。

「おぉ、これは、今朝のイセエビ?」

「そうだ。大きいだろ?」

「こんなでかいの、一匹は食べられないよ。」

「じゃあ、私といっしょに食べよう。」

「うん。」

 ちょっと久しぶりなシチュエーションだ。アンジェラが殻をむいて食べさせてくれる。

 いわゆる、赤ちゃん扱い的な…。わざわざ僕が口を開けるのを待ってる…。

「アンジェラ、僕もう赤ちゃんじゃないから自分で食べられるよ。」

「そうか…。」

 なんだか残念そう。

「うまっ。このイセエビ美味しいね。」

「そうだろ。これはマリアンジェラが海の底を持ち上げて…」

「え?」

「ははは、今日のはすごかったぞ。ちゃんと戻したから安心しろ。」

「楽しそうだね。」

「あぁ、朝時間があったらお前も一緒に来たらいい。」

「うん、そうする。」

 食事を終え、アンジェラはワインを持ってアトリエに移動してしまった。

 僕は、特にすることもなかったけれど、なんとなく最近ピアノを弾いていなかったのを思い出し、

 アトリエの横のサンルームでピアノを弾いた。

 キラキラを抑えずにピアノを弾けるのは気分がいい。

 アンジェラもアトリエからピアノを聴いてくれている。アンジェラがニヤニヤして見ている。

 三曲弾き終わってアトリエに入る。

「なんでニヤニヤしてるの?」

「いや、今日何かいいことあったのか?」

「え?そんな大したことないけど、飛び級の参考になりそうな知り合いができたんだよ。」

「ほぉ、そうか。」

「あと、あのストーカーを撃退できたと思う。」

「どうしたんだ?」

「いやね、その男の家にアンジェラが描いた天使の絵があるっていうんだ。それを僕だろうっていうからさ、90年前のアンジェラ・アサギリ・ライエンⅠ世の描いたのは、彼の双子の兄だと言っておいたんだよ。」

「ははは、考えたな。確かに顔はそっくりだからな。その頃の写真などはほぼないだろうが、確認することは難しいしな。」

「それで少し気が晴れたんだ。」

「そうか…。」

 僕は、もうそろそろ寝るね、と言ってその場を離れようとした。

 アンジェラは僕の方を見ずに小さく頷いた。少し寂しそうだった。もっとここにいた方がいいのかな…。

 そう思いながらアンジェラの方を見た。アンジェラは薄暗いサンルームの方を見ていた。何かあるのかと思い僕もそっちの方を見た。え?アンジェラはガラスに写った僕を見て寂しそうにしていたんだ。言葉をかけるきっかけを失って、洗面台で歯を磨いていると、アンジェラが上の階下りてきた。

「ライル、ちょっと話があるんだけど、いいか?」

 慌てて歯磨きを終わらせた。

「うん、大丈夫だよ…。どんな話?」

「ちょっとこっちに来てくれないか?」

 アンジェラが暗い寝室で、間接照明だけつけて、ソファに座るように僕を促した。

 僕が座ると、アンジェラも少し離れてソファに座った。

「何?どうかしたの?」

「CMの件はすまなかったな。あれはやるべきではなかった。私は後悔しているよ。」

「あ、気にしなくていいよ。きっとすぐに収まると思うし。」

「そう言ってもらえると、ありがたい。」

「うん。大丈夫だよ。」

 僕が立ち上がろうとしたら、アンジェラが僕を止めた。

「ライル、正直に言って欲しいんだ。お前は、私の事をどう思っている?」

「え?何?どうって…。」

「この前マリアンジェラに言われたんだ。パパの方からしかママにキスしていないって。

 もしかしたら、お前は私に触れられるのが嫌なんじゃないか…?」

 僕は、その時、頭を殴られたみたいな気分だった。僕はうつむいた。

 僕の表情を見て、アンジェラの顔が曇った。

「アンジェラ、目瞑って。」

 目を瞑ったアンジェラに、僕はできる限りの気持ちを込めていやらしいキスをした。姿は自然にリリィに変わった。

「…。」

「僕、すごく、我慢してただけだよ。アンジェラがいないと僕ダメなんだ。」

 アンジェラが目を開けた。

「私も我慢してた。私もお前がいないとダメだ。」

「今度から、家ではなるべくリリィになっていてもいい?ライルでキスしているところを誰かに見られたら困るからさ…。」

「あぁ。わかった。」

 アンジェラが顔を赤らめて言った。

 変なすれ違いをしてしまったが、二人はお互いを必要としていると再確認したのだ。



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