224. アンジェラが見た予知夢
9月10日、木曜日。
朝、5時。いつもより早く目覚めた。
僕は、顔を洗ってから倉庫の中に行った。別世界の瑠璃から手紙がきていないか確認するためだ。
手紙があった。その場で開いて読んでみた。この前僕が書いたことへの返信が主な内容だった。
『大きくなったマリアンジェラを見てみたいな~。今、ライルはどんな姿なの?私が行った時にはすごく痩せてたけど。』
ははっ、確かに見てみたいよね、大きくなったマリアンジェラの姿。
僕はアトリエに置いてあるタブレットであのブランドのCMを撮影したときにスタッフが送ってきた映像を開き、マリアンジェラと僕が映っている部分をいくつかキャプチャして印刷した。
そして、また便せんに手紙を書いた。
『CM撮影したときの映像から印刷したものを送るよ。マリーはすごく美人になりそうだ。
自分が親なのを忘れてちょっとドキドキしちゃったよ。(^^)
あと、北山先生はこちらでも妊娠したそうだ。せっかくライナが慣れてきていたのに少し残念な気がするよ。』
僕は手紙と印刷したハガキサイズの画像を3枚封筒に入れ、この前と同じように宛名と日付を
書いた。倉庫に入り、手紙を置く。布を元に戻し、倉庫から出た。
クローゼットでついでにパジャマから服に着替えていたらアンジェラが入ってきた。
「ライル…。」
「どうしたの、アンジェラ…。」
ずいぶんと暗い顔をしてアンジェラが僕に近づいてくる。倒れ掛かるように僕に抱きつくと涙まで流している…。どうしたのだろう…。様子が変だ。
「何もかも失う夢を見た。おまえも、子供達も、父上や兄上も…。」
何の話か分からないまま、アンジェラの頬に手を添えたら、夢で見たことが一気に僕の頭に入ってきた。
僕が、ライナの今後を悲観して、起こしてしまう行動についての夢だ。
え?僕がまだ行動してはいないけど、考えていたことをアンジェラが予知夢として見たと言うことか?
そうだ、僕は北山留美が今回妊娠したことで、これ以上ライナが徠夢と留美に深く関わっていくのは難しくなると考えていた。そこで、できることなら、ちゃんと両親が揃ったところで生まれるべく、出産前に戻り、留美を徠夢のところに連れて行き、強制的でも親らしいことをするようにさせようと考えていたのだ。しかし、いつ行動を起こすか、アンジェラに相談しようと思いつつも、留美の妊娠を知ってからまだそんなに日も経っていないし、CMの件でアンジェラも忙しかったから、相談もできていなかった。
そして、この予知夢を見たと言うのか…アンジェラの夢の中で僕は、出産間際の留美を眠らせて転移をし、日本の朝霧邸に連れて行った。そして、徠夢に留美も徠夢同様に、薬を盛られて意識のないまま妊娠していたことを告げ、二人の子供である以上、責任を取るべきだと説得をした。
徠夢は他人事の様だったが、未徠も同席したため、未徠夫婦がサポートしてくれることで同意し、二人は即座に入籍し、留美は双子を出産した。
未徠夫婦が守ってくれたこともあり、女児は体は小さかったが、ライナではなく徠紗と名付けられた。男児は徠流僕である。
その夢の中でのライルは、おとなしく、人前に出るのが苦手で、徠紗の陰に隠れているような子だった。覚醒はしていたが、その能力を何かに使いたいという気持ちも持ち合わせることなく、アズラィールを助けるような事実も発生しなかった。
夢の中でアンジェラはアズラィールが魔女狩りの火で焼け死ぬところを見たのだそうだ。
そして、日本の朝霧邸には、結局、僕や未徠、徠夢、誰も生まれることなく、死に絶える様子が映画のように再生されたのだ。
その時のアンジェラの喪失感、絶望感、それは例えようのない悲しみだった。
夢で良かった。もし、そのようなことが事実であれば、皆、生まれてくることもない。
アンジェラは心の底から安堵した。
そして、そのようなことが起きてはいけないと思い僕に真っ先に話したのだ。
「アンジェラ、ごめん。危なく僕が馬鹿なことをしてしまうところだった。」
「そうなのか?」
「アンジェラに予知の能力が発現したんだと思う。よかった、未然に防ぐことができて。」
「ライル…。」
「僕さ、ライナが可哀そうで、でもここでは本当の子供としては今更生きられない。
そのせいか、馴染めてないだろ?父様たちのところでも新しい子供が生まれたら、ライナの事に割く時間が少なくなって、関係が悪化すると思うんだ。」
「そうだな…。また、そのことはじっくり考えるとしよう。」
「うん。ありがと、アンジェラ。さぁ、子供たちを起こして、朝食を食べよう。」
そう言って、二人で子供たちを起こしに行った。
僕はライナを抱っこして、アンジェラはミケーレとマリアンジェラを連れてダイニングへ。
毎朝の儀式のように朝食を終え、アンジェラと乳母たちが子供達に付き添って朝の散策に出かけた。今日は途中で写真付きのメッセージが来た。
大きなイセエビみたいなエビを一人一匹ずつ頭に乗せている。すごいな…。こんなのも獲れるんだ。僕はほっこりした気分のまま学校の寮に転移した。




