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22. 覚醒と幸福

 アズラィールは、ライルに体を癒された後、三日間意識がないまま体を布団に横たえていた。

 傍らには緑次郎とその妻が控え、彼らはアズラィールの汗を拭き、手を握り必死で励ましていたのだ。


 アズラィールは意識の奥深くで夢を見た。

 同じ顔、同じ声の少年が優しく抱きしめてくれる夢だ。

 とても幸せだった。

「大好きだよ。」

 少年はそう言った。

 アズラィールはまた暗い闇の中に漂い、ゆっくりと流れに体をまかせる。


「天使様。お願いです。目を開けてください。」

 そんな声が聞こえた。

「あ…。」

 僕、アズラィールが目を覚ましたのは、見たことのない場所だった。僕の傍にいた変わった髪型の大人二人が、僕が目を覚ましたことで大騒ぎをしている。

 ここが、昔の日本なのかな?昨日までいた世界とはまるで違うな。体は重い、頭は痛い。喉がかわいた。

「あ、あの…。水…。」

 大人達はあわてて僕を少し起こすと、水を湯呑で飲ませてくれる。

 ライルから分け与えられた知識や言語の能力は今でも生きているのだろう

 意思の疎通はどうにかできそうだ。

「こ、ここは、どこ?」

「ここは、私の、朝霧緑次郎の家でございます。」

「あ、女の子は?」

 僕は、ここの娘を助けるためにこの家に来たことを思い出した。

「はい、あなたさまに助けて頂いたおかげで、もう起き上がれるほどに回復いたしました。」

 僕、何もしてないけどなぁ。

「そう、よかった。」

「天使様、ありがとうございました。これからは、なんでもおっしゃる通りに従いますゆえ、何なりと申しつけ下さい。」

 え?よくわかんないね。

「僕、天使様ではないよ。アズラィールっていうんだ。」

「あ、あず、あずらい様?ですか?」

 あ、しまった。ここの人たちには難しくて言えないってライルに言われてたんだっけ。

「あ、ちょっと待って。」

 ポケットからお守りを取り出し、中の付箋を出す。

「亜津、徠竜。です。」

 緑次郎達はひれ伏しながらも名前を連呼している。

「徠竜様、徠竜様。ありがとうございます。二度もお助け下さいまして、本当にありがとうございます。」

 ん?わかんないけど、ここでお世話になれって言われてるし。

 とりあえず言っておかないと、後で聞いてないとか言われたら困るしね。

「ここにずっと置いてもらっていいですか?もう帰るところがないんです。」

 緑次郎とその妻は、アズラィールの滞在を当然のことと受け止め、逆にずっとここでお世話をさせて欲しいと申し出た。


 その後、アズラィールは緑次郎の営む商家の奥の離れで、人目に触れず日々を過ごした。

 何か僕にもこの人たちに役立てることがあうだろうか。

 意識が戻って以来、アズラィールはいつもそう考えていた。

 日々過ごす中で、ふとライルの事を思い出す。

 何か、忘れてはいけないことを忘れている気がする。

 アズラィールはその日、緑次郎に自分が意識不明の間に起きたことを初めて詳しく尋ねたのだ。

 緑次郎は記憶をたどりながら話してくれた。

 鈴が病になり、ずっと天使様が来てくれることを待ち望んでいたこと。

 緑次郎は幼少の頃、家に火を放たれ瀕死の状態の時にアズラィールの姿をした天使様に一度助けられていること。

 やっと現れた天使様は稲妻と共に現れたが意識を失っており、意識のないまま一日経ったところへ天使様がもう一人現れたこと。

 そこで緑次郎が思い出して話し出す。

「その時に、そういえば、目が覚めたら首飾りを外して力を試すように言ってくれとおっしゃっていたような気がします。」

 それ、結構重要だったんじゃないかな。

 もう一人の天使様はすぐに消えてしまったが、数分後には横たわるアズラィールの体が光り輝き立ち上がり、鈴の腹から腐肉の塊を取り出し、鈴の体を癒し、その後に考え込むように顔を手で覆ったあとまた倒れて、光が消え、そのまま三日間意識が戻らずにいたこと。


 あぁ、鈴を癒し、僕を助けたのはライルだったんだね。

 アズラィールは真実に行きついたのだ。

 この首飾りを外して力を試す、とはどういうことだ。

 父の形見と思い身に着けてきたが、そういえば一度も外したことがなかった。

 アズラィールは、緑次郎に、もし自分がおかしな行動を取るようなら拘束するように

 頼み、緑次郎とその妻、そして鈴が見守る中、首飾りを外す。


 その時だ、アズラィールの碧眼が赤く燃えるように輝いた。

 そして、両手から赤い光があふれ出た。

「徠竜様、大丈夫ですか?どうされました?目が赤く光っておられます。」

 アズラィールは、その言葉に答えず、大きく目を見開く、そして自分の意志ではない何かの力を感じた。

 そしてその力がアズラィールに命令を下す。

「支配するのだ」と。

 異常を感じた緑次郎は床に置かれた首飾りをアズラィールの首に後ろからかけた。

 アズラィールは一瞬目の前が暗くなるのを感じたが、すぐに我を取り戻した。

 そして、緑次郎に言ったのだ。

「ありがとう。止めてくれて助かった。僕は癒しの能力は持ち合わせていないようだよ。力を使えば皆を不幸にしてしまうかもしれない。僕は自分の力を封印するよ。どうしても使わなければいけない時が来ない限りはね。」

 緑次郎は恐れを抱きながらも、アズラィールの意思を尊重したのだ。


 緑次郎の娘、鈴はとても美しい娘だった。

 三歳年下の鈴といつも共に過ごし、成長していく中でアズラィールはその子に恋をした。

 緑次郎達も献身的に尽くしてくれた。

 本当に心根の優しい人たちだった。

 緑次郎は商売で成功をおさめ、家族は何不自由のない暮らしを送るのである。

 アズラィールはライルから分け与えられた知識と自分の生家の稼業であった薬草を薬として生成することで、陰ながら緑次郎の商売を支えていく。

 これは、アズラィールの朝霧家での新しい人生のほんの始まりである。

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