表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/696

219. スペインにて

 朝、少し早く起きて支度をした。

 それでも時間に余裕があったので、日記を書いた。

 今日は9月5日、土曜日朝5時半。

 学校は休み。午前10時からスペインでCMの撮影だ。初めての体験にかなりの緊張を覚える。


 朝食の用意もしておこう。ここ数日、平日はサボってしまったので、出来るときにやりたい。

 と言っても、お手伝いさんが用意してくれているものを出すだけなんだけれど…。

 今朝は、まだ調理が終わっていないみたいだ。

 落ち着きなくウロウロしていると、気づかれたみたいで次々と用意されて、目の前に置かれる。

「グラッツェ。」

 とりあえず、お礼だけ言って、結局アンジェラの寝ているベッドのところに戻ってきた。

 あ、そうだ、別世界の瑠璃リリィにでも手紙を書こう。

 ベッドのサイドボードの下の方の引き出しから、便せんを取り出す。

 ボーディングスクールに行き始めたこと。そして、変な上級生がしつこいこと。

 実は今日、CMの撮影に参加することなどを書いた。あと、マリアンジェラが大きく変身できるようになって、一番大きい時は180cmにもなって、プロレスラー並みにヤバい力があるってことも書いた。

 封筒の表に『瑠璃リリィへ』、裏に『ライル』2026年9月5日と書いた。

 倉庫に行って、布を慎重にめくると、そこには手紙があった。瑠璃リリィからのものだ。

 いつ来ていたのか、気づかなかった。

 絵に触らないように、慎重に手紙を取り、同じように自分の手紙を置く。

 布をかぶせて、倉庫を出た。


 ベッドに座り、瑠璃リリィからの手紙を出して読んだ。日付は、一週間ほど前だった。

「え?マジ?ははは。そういうことってあるんだ…。」

 思わず、読んで独り言を言ってしまった。

 手紙には、瑠璃リリィの母、北山留美が妊娠して、来年出産予定だと書かれていた。

 こちらの世界とは違うことも少しずつ増えている気がする。父様の弟が生まれていたり、その家に女の子の従妹がいたり…。

 徠神や、徠央、それ以外の先祖はアンジェラ以外誰もいなかったんだよね…。

 手紙を封筒に戻し、引き出しに入れようとした時、後ろからアンジェラが覗き込んできた。

「何してるんだ?」

「あ、別世界の瑠璃リリィからの手紙が来てたんだよ。さっき、時間があったから、こっちも近況を書いて置きに行ったら、あっちからも来ていて…。」

「何か面白いことでも書いてあったのか?」

「うん、北山先生が妊娠したんだって。」

「ほぉ、それはもしかすると、こっちの彼女も妊娠しているかもしれないな…。」

「あ~、あり得るかもね。さすがになんて聞いていいかわかんないけど。」

 そんなやり取りをしつつ、朝食ができていることを伝える。


 ぼちぼち起きてマリアンジェラにも支度をしてもらわないといけない時間になってきた。

「今日は、マリーと私とライルだけで行くからな、ミケーレとライナはリリアナとアンドレが徠夢のところに連れて行くそうだ。」

「わかった…。」

 子供たちを起こしに子供部屋に行った。

 ミケーレを寝たまんま抱っこして、次にマリアンジェラに声をかける。

「マリー、早く起きてごはん食べないと一緒に行けないよ…。」

「ふぇ~、ぬぇみゅい。」

「ほら、抱っこしてあげるから、起きて。」

 半目のままふらふら立ち上がったところをキャッチする。なんだかミケーレの倍くらいの重さがあるのはなぜだろう…。身長も肉付きも同じくらいに見えるんだけど…。

 エネルギーが詰まっているのか???


 ようやく二人を確保した。次はライナだ…。

「ライナ~、おいで~。みんな今日は忙しいから、ちゃんと起きて~。」

「おきた。」

「よし、えらい。ライナだけだな、ちゃんと起きれたの…。」

 三人を連れダイニングへ移動し、朝食を食べさせる。ミケーレは皿に顔を突っ込みそうだ。

 マリアンジェラはどう見ても寝たまま口を動かしている。

 そこへアンジェラが濡れたタオルを持ってきて、ガシガシ子供たちの顔を拭き始めた。

「ふぇ。」

「むむぅ。」

「つべたい。」

 どうにか、目は開いたようだ。

 オムレツとベーコンをのせたプレートと白パンであとはミルクとフルーツとブロッコリーだ。

 ミケーレは目を瞑ったままブロッコリーを他の人のプレートにポイポイと入れている。

 30分かかってもプレートの上の食べ物は全然減っていない。

「マリー、ちゃんと食べてよ~。」

「ふぉ~い。」

 返事をするために開けた口にアンジェラがブロッコリーを突っ込む。

 すごいな、おかん度がアップしている。

 パパパッとミケーレが他の子のプレートにのせたブロッコリーをミケーレのプレートに戻して、ミケーレのフォークにブロッコリーをぶっ刺している。

 そして、トドメの一言を発する。

「30分以内に食べ終わらないと、明日遊園地に連れて行かないぞ。」

 三人の目がパチクリと開いて無言でパクパク食べ始めた。

 すごいな、さすがアンジェラ…いつも有言実行だけあって、子供達も言うことをきく。

 きっちり30分で食事を終え、歯磨きをさせて服に着替えさせる。


「マリーはこれ着て。」

 アンジェラが用意してあったよそ行きのワンピースとカーデガンを着せて準備をする。

 マリアンジェラの服はブルー系が多い。アンジェラがブルーとマリアンジェラの髪色が合うと言うからだ。

 ミケーレは黒のパーカーとジーンズだ。ミケーレは最近とても大人しい。

 やんちゃなことは一切せず、じっくりと観察して他の子や家族との調和を大切にする。

 それに比べてマリアンジェラは激しい。喧嘩をしたりはしないが、カーテンによじ登る、棚やキャビネットもよじ登る、そして飛び降りる。

 容姿の可愛さからは想像を絶するやんちゃぶりだ。

 ライナはいつも陰に隠れて様子を見ている。

 うちに来てからずいぶん落ち着いて、ちゃんとベッドで眠るようになった。

 少しずつだが、精神年齢も上がってきている気がする。あと、身長も少しずつ伸び始めた。


 リリアナとアンドレが、少し早いが日本の朝霧邸にミケーレとライナを連れて行った。

 僕の祖父の未徠が子供たちを連れて、今日はブドウ狩りに行くらしい。

 マリアンジェラが行かなくて良かった。ブドウの汁ですごいことになりそうだ。


 午前9時、僕達もスペインのアンジェラの所有するホテルに転移した。

 先に送られていた機材が置かれた部屋に移動した。

 スタッフとプロデューサーもあと少しで到着するようだ。

 マリアンジェラに僕の肩ぐらいの大きさになるようにアンジェラがお願いした。

「ねぇ、パパ。うまくできたらご褒美が欲しいな~。」

「あぁ、いいよ。パパに買えるものなら、買ってあげよう。」

「うっひょ~。パパ大ちゅき。ちゅ。」

 小さいマリアンジェラにタコチューをされてうれしそうなアンジェラ…。

 見事な親ばかっぷりである。何を買ってもらおうとしているのやら…。

 直後、マリアンジェラが本当に僕の肩ぐらいの身長の少女になった。


 衣装を持ったスタッフが到着した。

 僕とマリアンジェラにそれぞれ衣装を渡してくれた。

 マリアンジェラには白いワンピース、僕には白いTシャツとジャケットとジーンズ。

 普通っぽい。靴もそれぞれ用意された。

 他のスタッフも到着した。

 着替え終わっていた僕たちのヘアメイクをしてくれるらしい。

 マリアンジェラを見たヘアメイクさんが「オーマイガー」と叫んでいる。

「どうした?」

 アンジェラが心配して声をかけると、スタッフが涙目で言った。

「社長、こんな子どこで見つけてきたのですか?きれいすぎて、爆死しそう。」

「死なないで、さっさと準備してくれ。」

 マリアンジェラはサイドを編み込んで後ろで束ね、瞳の色に合わせた濃いブルーの細いリボンで束ねた。

 唇にうっすら桜色のリップをつけて、それ以外は顔は触らない方がいいとヘアメイクさんが主張していた。

 僕は、ボサボサの髪を後ろの方で軽く束ねて、少しところどころルーズに垂らし、顔があまり隠れないようにされた。

 ヘアメイクさんに、「ひげが一本もない!」と驚かれ…そう言えば、ひげもワキ毛も生えてないな…。あれ?アンジェラだって生えてないじゃん。これは、遺伝か?

 確かに、毛深い天使って気持ち悪いな。ははは。


 準備ができたところで、プロデューサーと対面した。

 プロデューサーは、ものすごく、ハイテンションで喜んでいた。僕のことも気に入っていたようだが、マリアンジェラを見てさらに興奮状態になっている様子だ。

「どこで見つけてきたんだ?」とさっき聞いたのと同じことを言っていた。

「うちの親戚の子だけど、あまり顔を撮らないでくれ、今回だけ特別に頼んだんだ。」

 と、アンジェラは言った。


 撮影が始まった。

 海沿いの道を手を繋いで歩いたり、お店のある辺りを覗きながら散策したり、途中でジェラートを食べて、鼻についたのを舐めろと指示された。

「どっちの鼻につけるの?」

 マリアンジェラが聞いた。

「さぁ?」

『べちょ』とライルの顔にマリアンジェラがつけた。

「せんてひっしょー、きゃははは~。」

 マリアンジェラが暴走を始めた。僕の顔を舐めまくる。

「もういい、もういいって。」

 ピタッと舐めるのをやめたら、急にすました顔をして、顔を近づけてきた。

「何?」

「いつもパパからママにチューしてるよね?」

「そうかな…。」

 ちょっと赤面する。

「じゃあ、今日はライルからマリーにしてみて。」

「え?まだキスするところじゃないんじゃないの?」

「じゃ、練習だとおもって、やってみて。」

「うん、じゃあ、練習ってことで…。」

 内心、すごい変な感じがしつつ、目を瞑ってるマリアンジェラを見ていると、段々アンジェラに見えてきて…。キスしてしまった。

『ドッキン』って心臓が跳ねた気がした。

 マリアンジェラも少し赤くなってる。

「パパとママみたいだったね。」

 ひぇ~、恥ずかしい…。

 後ろで、『オッケー、カットー。』って声が聞こえた。

 最後にマリアンジェラの首にかわいいジュエリーをつけてあげるシーンを撮ったりして撮影は終了した。

 マリアンジェラはどこにいてもみんなの注目を集めた。

 家から着てきた服に着替えてから、アンジェラのホテルのレストランで食事をした。

 スタッフやプロデューサーにもふるまって、豪華な昼食となった。

 スタッフを見送って、僕たちも家に戻った。

 朝早かったせいもあり、家に着いたらアトリエのソファで寝てしまった。

 小さくなったマリアンジェラも一緒に…。


 少し経った後で、アンジェラがオンラインミーティングを終えてアトリエに来た。

「そんなところで寝たら風邪ひくぞ。」

 と言って、マリアンジェラを子供部屋に連れて行った。

 そして戻って来て、僕の事も抱っこしてベッドに連れて行った。

 僕はそれなりにでかいので抱っこなんていうかわいい感じではないけど…。

 アンジェラに抱きかかえられてると思ったら、僕はリリィになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ