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215. キスの力

 イタリアの家のバスルームに出た僕は、そのままシャワーを浴び、洗濯物を洗濯機に放り込み、バスローブを着てダイニングに直行した。

 アンジェラが一人でワインを飲んでいた。

「アンジェラ、ただいま~。」

「おかえり。どうだった、初日は…。」

 その時、お腹が鳴った。『ぎゅるる~。』

「お腹すいた。」

「ははは、それは大変だ。ほら、夕食のパエリアとチキンのグリルを取り分けておいたぞ。」

「神様~、アンジェラ様~。ありがたくいただきます。」

 少し温めてパクパク食べた。

「そんなにひどいのか、食事…。」

「夕食は見て来なかった。朝はシリアルとバナナとかだし。昼はハンバーガー、乾いたピザって感じだし。今度、夕食を見てみるよ。でも明日からはサンドウィッチとか作って持っていく。」

「あぁ、その方がいいな。」

 アンジェラと話をするだけで、心が安らぐのはなぜだろう…。僕、人見知りなのかな?

「あ、そうそう。謝らなくちゃいけないんだ。今日、話しかけられてさ、先に名前を聞かれて言ったら、空港でアンジェラと一緒にいただろって言われて、バレちゃったんだ。」

「仕方ないさ、目立つのが仕事みたいなものだからな。逆にお前にまで気をつかわせてしまうな。すまない。」

 そう言って、アンジェラは僕の横に立ち肩を優しく抱いてくれた。

「ライル、学校はどんな感じだ。」

「うーん、まだわかんないな。雰囲気は日本より子供っぽい感じもするし、不自由な感じもする。なんだかよく言えば少人数で手厚いケアをされているけど、悪い言い方をすれば、幼稚園みたいだよ。」

「なるほど…。宿題は出たのか?」

「あ、専用のWEBサイトに掲載されるって言われた。あとでチェックしてみる。」

 僕は食べ終わると、すぐにパジャマに着替え、宿題をチェックした。

 今日のところは宿題は一つだった。授業で出てきたことに自分の意見をレポートするものだ。

 10分ほどで終え、アンジェラがアトリエに移動してワインを飲んでいるそばに椅子を持って行って座った。


「ライル、宿題終わったのか?」

「うん、終わった。」

「そうか。」

「何考えてたの?」

「ん、なんだろうな…。昨日までと違うなって、ことだろうな。」

「アンジェラにとっては何が違うの?」

「お前が遠くに行ってしまったようで、寂しかったんだ。」

「…。ここにいるよ。」

「そうだな。だけど、何時間もの間、独占できないんだぞ。」

 恥ずかしい。けど、正直うれしい。

「そんなこと言ったら、僕だって、今日何回こっちに帰りたいって思ったかわかってる?」

 え?気づいたら、僕はアンジェラに担がれて移動中だった。

「いや、ちょっと待って、僕、今男だし、そういう新たな扉を開く気はないよ…。」

 アンジェラはずるい笑いを顔に張り付けて、僕にすごく小さい声で言った。

「見せたいものがあるんだよ。」


 寝室に入り、僕をベッドの上に下ろすと、アンジェラは僕の日記が入っている引き出しを開けた。そして、一冊の日記帳を取り出した。

「これに、今日から新しく書いてくれないか?」

 日記帳だった。少し硬い瑠璃色の表紙で、上質の紙で作られている。

「日記帳?」

「あぁ、前のはもう過去が変わってしまったから、ひどいことになっていただろう?

 だから、新しい門出の日に新しい日記帳をと思ってな。」

 僕は無言で、アンジェラの方を見た。僕を信じ切っている美しい瞳で見つめられた。

「やだ、もう。その目、反則だろ!」

 何回見たっていつも同じ気持ちになるんだ。

 一瞬で、僕はリリィになっていた。家にいるときはリリィでいるのがいいのかもしれない…。

 そう思ったのも事実…。アンジェラは熱い体で僕を抱きしめる。

「アンジェラ、あったかい…。いつも思ってたけど、熱あるんじゃないの?」

「そんなことはない。お前が冷え切っているだけだ。」

「そうかな?」

 僕は、アンジェラの熱い体に触られているせいか、急な眠気に耐えられず一気に意識を手放した。アンジェラの腕の中で安堵しているせいもあるだろう。


 その夜は、奇妙な夢を見た。

 僕はアンジェラの熱い体にしがみついていた。

 熱い、熱いのだ。火傷をしそうなくらい…。僕は目を開けた。

 横たわるアンジェラ、両手は胸元で組まれ、神に祈るように握られている。

 アンジェラは真っ白な絹でできている服を着せられていた。

 目を半分開き、その目には光はなく、口元も力なく少し開いていた。

 まつ毛はいつものように長く、美しい。しかし、色白の顔には、全く血の気を感じない。

 まるで、生きてはいないように…。

 僕は泣き叫んだ、「アンジェラ、アンジェラ…。うそだ…どうしてこんな…。僕を置いて行かないで。」

 僕は、もう一度周りを見た。ここは、どこだ?

 僕がいたのは、火葬されている棺桶の中だった。棺桶の外側に炎が吹き付け、箱の中の温度を上げている。

 アンジェラの体を焼くなんてこと、僕にはできない。

 夢の中とはいえ、僕は狂気のなかにいた。

 アンジェラの体を掴み、ユートレアの王の間に転移した。

 ベッドにアンジェラを寝かせ、僕も横になった。

 アンジェラの体を触った。さっきまでの熱い熱はやはり外からの炎のせいだったようだ。

 すっかり熱を失ったその体は、青白く、冷たかった。

 僕はリリィの姿だった。夢だからか、寝た時に着ていた少し大きいライルのパジャマを着ている。

「僕、この夢、すごく嫌だよ。」

 涙が出て、止まらない。

「こんな悲しい夢、見たくなかったよ。」

 アンジェラの唇に口づけをした。

「アンジェラの目が覚めないなら、僕もこのまま目を覚まさないでいるね。

 愛しているんだ、心から。君がいないと僕は生きていけないから、だからここにいる。」

 何度もキスをした。そのうち自分を抑えられなくなった。

 舌もからめるような激しいキスをした。

『僕の気持ちが伝わるように』

 急に目の前が真っ白になった。光がおさまると、まだ目の前にアンジェラが横たわっていた。

 僕はあきらめが悪い人だ、動かないアンジェラの唇を舌で割ってキスをした。

「ん…あっ、ん…」

 舌が、アンジェラの舌が僕に絡んでくる…。


「ん、あっ、あっ、ん…んぐ。」

 僕は目を覚ました。ピンピンしているアンジェラが僕に超いやらしいキスをしていた。

「あ、僕…寝てた。夢の中で自分からいやらしいチューをしちゃって…。」

「あぁ、わかってるよ。」

 めちゃくちゃ赤面…。

「リリィ、それは、夢じゃなかったんだよ。」

「え?」

「お前が私を火葬されている最中に助け出し、何度もキスしてくれただろ…。」

「え?」

「私は毒で仮死状態だったんだ。もう死んだものとされ、焼かれているときにお前が救ってくれた。そして、マリーのあの毒を浄化する能力で、私の毒を消したんだ。」

「どく?」

「あぁ、心から愛していると言ってくれただろ?」

「え?あれ、夢じゃないの?」

「さっき、はっきりと思い出したよ。」

 考えてみたら、死体の口に舌入れてキスするとか、マジ狂気だと思うけど…。

 きっと、愛がそうさせてくれたんだと思うことにしよう。

 ちなみに浄化は額に手をあてるだけで能力が使える…。

 毒ってわからなかったからね。ちょっぴり反省の後、今夜も仲良くしてしまったのだった。





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