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214. 学校初日

 学校が始まるまでの数日間は、イタリアの家に帰り必要なものを色々と購入したり、学校の寮の自室にセンサー付きのカメラを設置や、ドアにスコープカメラを設置したりするのに時間を割いた。部屋の前に誰かが来たり、室内に入った場合には自動でメッセージが届くようにした。

 もし、誰かが訪ねて来た場合、寝室の方に転移するしかない。

 自分でドアの外に近づき、カメラの動作確認をする。大丈夫そうだ。


 あとは時間の調整だ。時差があるので、間違えないようにしなければいけない。

 イタリアの午後2時は、学校のある地域の朝の8時だ。

 毎日イタリアの午後2時に寮に移動し授業に出る。学校では9時間活動し、家に戻って来られるのはイタリアでの午後11時だ。

 自学習とかに割り当てる時間をいつにするかが難しいな…。

 色々と思いを巡らせているうちにいよいよ登校日になった。


 その日は朝起きて食事を家族ととった後、アンジェラがクローゼットから紙袋を持ってきた。

「ライル、これが今日着ていく服だ。」

「そうなの?買ってくれたの?」

「あぁ、最近背が伸びてきただろ?それに、お前の雰囲気にはこういうのが合ってる。」

 そう言って、出してくれたのは、ネイビーのボタンダウンシャツと白いパンツだ。

 靴もスニーカーまで揃えてくれている。

「アンジェラ、ありがと。」

「クローゼットの中に一日分ずつ入っているから、必ずそこから出して着るようにな。」

 クローゼットに入ってみると、大量の紙袋が置いてあった。

 恐るべし、超過保護の保護者様…。

「それから、今晩から子供たちは子供部屋で寝ることになった。」

「え?そうなの?」

 もう自分たちだけで眠れるなんて、大きくなったなぁと思うのが半分…そして寂しさも半分。

 なんだかいつもと違って落ち着かず、子供たちがよじ登ってくるたびに抱っこしたり、遊んであげた。

 少し早いが、場所になれるためにもと思い、その日は正午に寮に転移した。

 現地の朝6時だ。そこでは、朝食の時間だった。

 まぁ、何があるのか見ておこう。そう思ってダイニングに行ったのだ。

 想像はしていたが、シリアルにリンゴにバナナに牛乳…。パンが少しと、チョコバーに、アイスクリーム…。やっぱり、家で食べてから来た方がよさそうだ。

 オレンジジュースだけ飲んで、一度寮の部屋に戻った。


 その日はオリエンテーションなどで一日が終わり、各施設の使い方や担当する教員の紹介などが行われた。各クラスは10人前後で円卓を囲み授業をするようだ。

 積極的に外国人を受け入れているらしく、アジア圏からも三人の学生が来ていた。

 僕は編入したが、皆中学に入るときからいたようで、慣れた感じがする。

 男女比は7:3、変わり者が多そう…。僕としては、なるべく他人に関わらないようにするのはもちろんなのだが、ここに来てよかったと思うのは、僕が目立たないことだ。

 金髪も碧眼も校内には何人もいて、どちらかと言うと黒髪の方が目立つほどだ。

 自分のクラスの生徒に自己紹介をするよう促され、「日本から来た、趣味はピアノを弾くことだ」とだけ話した。


 あまり他の者に関心を持たない種類の人間が集まっているのか、自分から話しかけなければ干渉されずに静かに過ごせそうだ。

 授業の時はある程度攻撃的に論破するような話し方をする生徒が多いが、それはあくまでも自己評価をよくするために教師にアピールしているのだろう。

 最初は周りをよく見て行動しよう。

 昼休み、ランチタイムだ。学校のカフェテリアで自由に取り分けられるブッフェスタイルの昼食をとる。と言っても、メニューはピザ、ナゲット、ハンバーガー、フレンチフライポテトなどファストフード店にあるようなものばかりだ。

 これを毎日続けていたら味音痴になりそうだな…。家に帰って家族と夕飯を食べたいな…。

 仕方なく、チーズバーガーを食べ、すぐに食べ終わって読書をしていたら、同じクラスにいた生徒に話しかけられた。

「君、日本から来たのに日本人とは違う容姿をしているね。」

「…。ドイツ人の血が入っているからね。」

「へぇ、そうなんだ。」

 僕がその場を去ろうとしたら、呼び止められた。

「ピアノ弾いてみてくれよ。」

「いやだよ。人に聞かせるほどのものじゃないからね。」

 正直、ウザい。他にもピアノを弾く人ぐらいたくさんいるだろう…。

「え?ピアノ弾けるの?」

 全く関係ないクラスのやつらまで集まってきた。しまいに、教師まで話に加わる。

「一曲だけ弾いてみてくれないかな?」

 教師にまで言われ引けなくなった。僕は一曲だけだと念を押して弾くことにした。

 カフェテリアの中央に置かれているグランドピアノを使って、いつものテンペストを弾いたのだ。キラキラが出ないように気を付けて弾いた。妙に緊張する。

 弾き始めるとカフェテリアの雑音が消えた。

 皆手を止めてこちらを見ている。嫌な感じだ。値踏みされているようだ。

 元々長い曲だが、皆固まったまま最後まで静かに聞いていた。

 僕は弾き終わったら振り返りもせず、さっさと自分の教室に向かった。

 後ろがものすごくざわめいているのが聞こえたが、こういう場合は逃げた方がいい。

 とにかく関わりたくないのだ。


 一人で先に教室にいたら、今度は違う男に話しかけられた。

「君、ピアノ上手だね。」

 同じクラスの人ではなさそうだ。もっと上の年齢の学年か…。

「どうも。」

「あれくらい弾けたらプロになれるんじゃない?」

「ただの趣味ですから。」

 それだけ言って避けるように、窓辺に行ってスマホを取り出し、アンジェラに電話をかけた。

「あ、僕だけど…。」

「どうした?」

「もう夕飯終わった?」

「今、食べてるところだ。」

「そっか…予想してたけど、ジャンクフードばっかりでさ、結構辛いかも。」

「明日から何か家から持って行けばいいんじゃないか?」

「うん、そうする。ありがと。じゃーね。」

「じゃ、またあとでな。」

 電話を切り、席に戻ろうとしたら、さっきの男がまだいた。

『げげっ、早くどっかに行ってくれないかな…』心の中でそう願う。

「君、名前なんていうの?教えてくれないかな…。僕はウィリアム・サンダース。」

「僕はライル・アサギリ。」

「ライルか、よろしくね。」

「あ、あぁ。よろしく…。」

「どこかで君のこと見たと思ったんだけど、思い出したよ。アンジェラ・アサギリ・ライエンと一緒にいただろ?」

 げげっ、いきなりきた。なんでそんなことしっているのか…。

「ど、どうしてそんなこと…。」

「あ、ごめん。内緒だった?ネットでアンジェラが数年ぶりにアメリカに来たってニュースになってたからさ、しかも同行している金髪の少年は誰か?って話題になってたんだ。空港での動画も載ってたし。」

 ガーン…。すでにバレてる…。

「で、どういう関係なの?」

「どういうって…。なんか感じ悪いな。

 僕の姉がアンジェラの妻なんだ。だから、彼は僕の義兄だよ。でも、やめてくれよ、他の人に言ったりするのは…。僕は、今、君と会話したことをものすごく後悔している。」

「あ、ごめん。結構前からアンジェラのファンなもので…。誰にも言わないよ。」

 そう言って、ウィリアムは去っていった。


 なんだかゲンナリした。

 こんなことなら変装でもしておくんだった。

 アメリカなら目立たないと思ったのにな。

 そのタイミングで教室にクラスメートが入ってきて、午後の授業が始まった。


 当然のことながら、授業も会話も全て英語である。

 授業の内容の難易度は高くないが、授業でやったことについて自分で調べレポートを出す課題などが異常に多い。この調子では時間が足りなくなりそうだ。

 最後に選択スポーツを終え、寮の部屋に戻った。

 スポーツウェアなどは寮で働く洗濯係が回収して洗濯してくれるらしい。

 スポーツウェアを指定のカゴに放り込み、その日着ていたものを持って、イタリアの家のバスルームに転移した。

 長いアメリカでの一日がようやく終わった。



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