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213. アリバイ工作

 まだ朝の九時過ぎであるというのに、騒がしい一日となった。

 ホテルのロビーで待っていた刑事が二名、支配人の案内で最上階の部屋へ通された。


 ドアがノックされ、アンジェラが中からドアを開けると、ガタイの大きな男と小柄でやせた男が立っていた。リリィになっている僕はドア一枚を隔てたベッドルームで控える。

「朝からすみません。アンジェラさんのお部屋でよろしいですか?」

「そうですが、どういったご用件ですか?」

 アンジェラが質問すると、刑事たちは、昨日の船上パーティーの件で聞きたいと言ってきた。

「さっきテレビで見て驚いていたんです。」

 アンジェラが全く知らなかったという演技をしつつ、受け身で待つ。

 昨夜の行動を詳しく聞かれた。

 アンジェラは、義弟のライルと一緒による5時過ぎにタクシーに乗り、船着き場まで行き、

 船上パーティーに参加したこと、元々友人と途中の会場で合流し船上パーティーの終了まえに帰るつもりでいたこと、そして午後8時前には、友人のロビン・マクネリアのクルーザーに義弟と共に乗り、船を後にしていたことを話した。

 そして、詳しく言うならば、下船の少し前に、女優のキャサリン・ダイナスがアンジェラに渡した飲み物を飲んで体調が悪くなり、一時船室に下がっていたこと、ロビンのクルーザーに乗り換えてからも体調が悪く、船着き場に着いてからは足早にタクシーでホテルに帰り、ホテルにいた妻の要請で医師を呼んで診察を受けたことを話した。

 アンジェラは知らなかったが、義弟がキャサリンが男と合流し小さなボートでひっそりと下船していくのを見た。と言っていたと付け足した。


 刑事たちは、メモをとり、次は質問に答えてくれと言いだした。

「船で爆発があったんですが、知っていますか?」

「少し揺れた気がしますが、花火も上がっていたので、正直なところ爆発か、花火かはわかりませんでした。」

義弟おとうとさん、今日はどちらに?」

「来週から始まる学校の寮に備品を買って持っていくと言って今朝少し早く出ました。」

「奥様は昨日どうされてましたか?」

「あぁ、妻は昨日旅の疲れが出たのか体調が悪く、本来なら船上パーティーも彼女を連れて行くのですが、ホテルに残ることにして、義弟を連れて行ったんです。」

「なるほど…。」

「奥様のお話を聞くことはできますか?」

「妻ですか?昨日の船上パーティーには参加していませんが、何を聞きたいのか先に教えてください。」

「まぁ、昨夜の行動についてですかね。」

 アンジェラは寝室からリリィを呼んだ。

 ジーンズにブラウスを着た若い女性がひょっこりと顔を出し、ドアから出てきた。

「こんにちは。」

 刑事から見ると奥様というより、なりたての女子大生だ。

「リリィ、昨日はどこかに出かけたか?」

「ううん。お金持ってないし、道わかんないからずっとホテルにいたよ。その前の夜にかなり疲れちゃったから…。ねっ。うふふ。」

 意味ありげにアンジェラを見上げる。アンジェラがリリィの腰に手を回し、べったりとくっつき始めた。

「ありがとうございます。では、この写真を見てください。これ、誰だと思いますか?」

「「あっ!」」

 思いっきり、リリィが空中で翼を広げて金色のキラキラが渦巻いている写真だった。

「すごい!そっくりですね、私に…。」

 リリィが白々しい棒読みのセリフを言った。アンジェラはおかしくて、笑いを堪えるのに必死だ。白々しいセリフはまだまだ続く…。

「これ、何かの特撮ですか?どうやったらこんなの撮れるんだろう…。ねー。すごいね…。」

 シーンと静かな時間が少し流れた…。

 そして刑事さんが口を開いた。

「正直に言ってもらえませんかね。」

「自分の不利益になるようなことは言いません。」

 僕は、演技はなしで、正直に言った。刑事はしつこかった。

「わかりました。では、こうしましょう。今からあの時に戻って何もしないように過去を変えてきます。全員死ぬことになりますが、私は何もしていないことになります。それでもいいですか?」

 刑事二人は何を訳の分からないことを言っているのかと笑っていたが、僕が一瞬で着替え、一瞬で翼を出し、一瞬で彼らの前から消えた時には、パニックになったようだ。

 刑事二人はアンジェラに泣きつき、リリィをなだめてくれと懇願した。

 もう直接話すことはできないと伝え、学校の寮に転移したまま戻らなかった。

 僕は、ライルになり、タクシーでホテルに戻った。

 ホテルの部屋に入るとまだ刑事がいた。

 僕は、刑事たちに赤い目を使い、僕達は一切事件には無関係で、爆発事故キャサリンが犯人だから、そいつを捕まえろと命令し、ここにはもう訪ねて来ないように促した。

 なんだか疲れた…。アリバイ工作が見事に無駄になった一件だった。


 ワイドショーの様な番組では、モザイクがかかってはいるものの、リリィが光の粒子を操作している様子が、動画でも出回っていた。恐るべし、SNS。いつの間に撮られたんだろう。


 アンジェラが、5年前にライブで発砲されたり、刃物で殺されそうになった時の動画まで引っ張り出してきて比較されてた。アンジェラがいないのにアンジェラに関連付けされているのが腑に落ちない。

 しばらく周りがうるさくなりそうである。


 この日、結局楽しいことは全くなく。

 アンジェラとリリィとしてイタリア行の飛行機に乗った。

 無事、ローマに到着し、お迎えの車に乗り込んで、二人でため息をついた。

 家に着いたら、今度は転移でホテルに戻り、学校の寮にタクシーで移動しなければいけない。

 疲れがどっとでた。

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