21. どっちがどっち?
僕は自分のベッドで目を覚ました。
とても気分が悪い。外が暗いから夜の様だ。
手にぬくもりを感じる。
誰かが手を握っている様だ。
「父様…。」
ライルの父徠夢がライルの手を握ったままベッドの脇で寝落ちしている。
「よかった。僕たち生きてるね。」
そう独り言を言った時、父様は目を覚ました。
「ライル、ライル。大丈夫か?どうなっちゃうかと思ったよ。いくら僕が癒そうとしても、体のどこにも問題がないのに、おまえは目を覚まさなかったんだ。」
父様の目から涙があふれる。僕も涙を堪えられなかった。
「能力をすごく使ったので、激しく疲労していたのかもしれません。」
もう大丈夫だと言うと父様は僕を強く抱きしめてくれた。
ぎゅっとされると体の中が熱くなる。
僕は三日間以上眠っていたそうだ。
母様と交代でつきっきりで看病してくれたらしい。
アズラィールの血を触って意識を失った後、三十分ほど僕の体は光っていたと父様は教えてくれた。
そして、もうこんな危ないことはしないようにときつく言われた。
僕もこういう経験はあまりしたくない。
父様にすべてを話した。
何かの物質を触って転移するときは僕そのものがその場所へ行き、その物質を掴んだ状態でいること。
そして、その物質を離すと元の場所のどこかに戻るということ。
三分、三時間という仮説は間違っていたと思われ、物質を手放したことがたまたまその時だったのだと僕の意見も伝える。
血液に触れたときには、その人物の中に入った状態で目が覚めること。
本人の意識がない場合には、その体を自分のものとしてコントロールできたこと。
いずれの場合も、その現象が起きるトリガーは転移先の本人が命の危機に直面している時であったことも忘れず伝える。
しかし、不可思議なこともあった。
父様のスマホを触ったときには、血液なんかはついていなかった。
それを父様に言うと、真面目な顔で父様が僕に言った。
「ライル、血液に限らないってことじゃないか?僕はよくスマホをいじりながら寝落ちして、よだれがスマホについてしまうこともあるよ。」
「え、まじ?父様汚い~。」
「そういえば、あの日もよだれでびちょびちょになったスマホを乾かしていて家に忘れた気がするよ。」
真顔で言うなよ。
なるべく他人の血とか、古いいわくつきの物には触らないように気を付けよう。
さて、少し落ち着いたところで、父様が僕に伝えたいことがあるという。
アズラィールが書き残していた文書=日記の内容が、僕が眠っている間にすこしずつ変わっているというのだ。
ん?これはやはり、過去を変えたら未来も変わるよ系?
ファンタジーの世界だ。
父様はそこで気になることを言った。
日記には、鈴を治したのはアズラィールだと書かれていたはずだったが、天から降り立った天使様が鈴を治し、天使は力を失い一人の少年=朝霧徠竜として生きることになったという話に変わっていたというのだ。
「そういえば、僕が行った時にも天使様と呼ばれました。
緑次郎さんは、ずっと待ってました。とも言っていました。」
「待っていたということは、以前にも会ったことがあるということか?」
「そこまではわかりません。でも、考えられるとしたら、僕が首飾りを触って転移した時に別の人間として目の当たりにしてしまったからかもしれませんね。力を失ったというのは、アズラィールは覚醒しなかったのでしょうか。」
「さぁ、それはわからないね。徠竜ってかっこいい名前ついてるし。ちょっとずつ話が変わっているんだよ。」
「ははは…。」
僕が考えた名前だということは伏せておこう。
アズラィールが覚醒したかどうかについては、少し疑問は残るが、調べることも難しいところだ。
もしかしたら、元々僕が鈴を治すという話だったのだろうか?