199. どろぼうの正体
翌日、朝起きるとマリアンジェラは寝室にいなかった。慌ててあちこち探す。
浴室、倉庫、そして見つかった彼女は、リビングにあるダイニングテーブルの真ん中で、顔も手も胸元も真っ赤に染まって横たわっていた。
「マリー、どうしてこんな…。」
「あーあ、マリーったら、またやっちゃった。」
ミケーレが呆れてマリアンジェラをつつく。
マリアンジェラの目がパチッと開いて、上半身を起こし、キョロキョロ…。
自分の手や胸元の赤いのを見てから僕の方を見つめる。
「イチゴがね、マリーに食べて欲しいって夜中に訴えてきたのよ。」
「イチゴはしゃべらないよね、ライル?」
「僕は聞いたことないね。」
「だよね。」
シンクの中にはイチゴが入っていた大きなボールが空になって置かれていた。
「マリー、さすがに食べ過ぎだと思うよ。お腹痛くなるよ。」
僕が嗜めると、少しシュンとしてしまった。
そこへ、アンジェラが来て、目をまん丸くして言った。
「出たな妖怪、ブラッディ・マリアンジェラ~。」
そう言って真っ赤になっているパジャマをくすぐりながら脱がせている。
「ギャハハ、ぷひゃー。」
どうやらよくある事らしい。顔はアンジェラに舐められて「ギャハギャハ」大喜びだ。
ミケーレは、その様子には一切興味を示さず、アトリエに置いてある小さな飲み物用の冷蔵庫から別容器でよけておいたイチゴを出してきてモグモグ食べ始めた。
「あー、おいちかった。」
ミケーレはお行儀良く容器を下げると、僕の所に来て抱っこしてと手を広げる。
抱き上げて頬にチューしたら、首にしがみついてきた。
「ミケーレね、またイチゴ狩り行きたいな。」
「じゃあ、週末に未徠おじいちゃん達と行ったら?」
「いいの?」
「マリーも一緒にね。」
「やった~」
喜んで翼を出し、ピューと飛んでマリアンジェラに伝えに行く。二人ともイチゴがすごく好きだとは言ってたけど、イチゴの果汁まみれはちょっと困る。
お爺様にイチゴ狩りに子供たちを連れて行って欲しいとメッセージを送っておく。
そういえば、ケーキ泥棒はイチゴは食べないのだろうか?
ミケーレの話では、フルーツは減らないらしい。いつもケーキやクッキーなどのお菓子が消えるんだとか…。
この前は冷蔵庫を開けて物色していたよね…。
これは、罠を仕掛けてみるしかないね。
ミケーレ情報では、ケーキがあると必ず現れると言うことなので、どこかで見ている可能性もある。
ミケーレに協力を頼み、キッチンの冷蔵庫にケーキを入れて、わざと大げさにマリアンジェラとアンジェラに「おやつが冷蔵庫に入っているよ」と知らせた。
今のところ気配はない。
マリアンジェラとミケーレはアンドレとリリアナに連れられて散歩に行くと言う。
「行ってらっしゃーい」
そう言った後で、アンジェラと作戦通りの行動に出る。
「じゃ、僕達もユートレアで用事を済まそう。」
そう言って二人、ユートレアに転移した。
ユートレアでセキュリティカメラをライブで観ながらお茶をして様子を探る。
三十分ほど経ったところで、急に変化があった。
「アンジェラ、見て、ほら。」
シンク下の扉が開いて、小さい女の子が出てきた。
冷蔵庫の中のケーキを一個取り出し、シンクの下に戻って行った。
「あそこに住んでるっぽいね。」
「誰なんだろう…。」
「あの容姿で女の子と言えば、ライラかリリィしかいないよ。」
「ライラか…。ライラは転移できなかったよな?」
「あ、家の中限定って言ってたかも…。」
「それに今の世界では発生していないはずだ。」
「…そうかも…。じゃリリィ?」
「なんだか、嫌な感じするな…。」
「うん。でも捕まえないと。」
捕まえて記憶を見れば、誰だかわかるかも…と思ったのだ。
二人で音を立てずにイタリアの自宅の寝室へ転移した。
懐中電灯を手に持って、シンク下の扉を二か所同時にフルオープンする。
驚きのあまり目が点になって固まっている。
洋服の背中の部分を猫みたいにひょいとつまみ上げ、外に出した。
ジタバタジタバタと手足を動かして逃げようとする。
どこからどう見てもうちの系統である。
しかし、誰だかわからない。リリィでもライラでもない。
僕は、その子のおでこに手をあて、記憶を読み取った。
「え?」
思わず、僕は顔面蒼白になる…。
「アンジェラ…この子…。」
「お前の子か?」
「違うよ、ひどいな。浮気とか疑ってるんじゃないよね?」
「冗談だって…。それで…?」
「僕の妹、みたいだ…。名前はライナ。僕の双子の妹…。」
「おいおい、双子がどうしてこんなに小さいんだ?」
僕は、その子の記憶をアンジェラの頬に手をあてて見せた。




