195. 歩み寄り
子供達と未徠夫婦が裏庭で遊んでいる間、久しぶりに朝霧邸のサロンで徠神のお店でテイクアウトしたスィーツとお茶を飲んでいると、徠夢がやってきた。
「ライル、留学の話、私は聞いていないぞ、どういうことだ。」
「アンジェラがすばらしい提案をしてくれたんです。アメリカで飛び級制度を使えば、努力次第で、日本で学ぶより早く大学を出ることができて、さらに視野を広めることができると。僕もつまらない日常と簡単すぎる授業内容と、浮いている自分の容姿に違和感があるので、丁度良いかなと思いました。」
「費用はアンジェラが全て負担してくれます。全寮制のボーディングスクールに9月から編入できることになりました。何か問題がありますか?」
「そういうことを言っているんじゃない。」
「徠夢、やめろ。子供がやりたいようにやらせてあげるのも親の務めじゃないか。」
アンジェラが、父様を止める。
「しかし、こいつは勝手に家を出て半年も帰ってこなかったり…」
「徠夢、それは、お前に言っても理解できないかもしれないが、ライルは死にかけて別のところへ迷い込んでいたんだ。私とアンドレと子供達で、一緒に連れ戻しに行ったが、本当に死ぬ寸前だったんだよ。やっと帰ってこられたのに、そういう言い方はないだろ。」
アンジェラが反論してくれる。
僕は、父様の言い方に『また始まった』と思いはしたが、以前ほど胸が苦しくなることはなかった。思わず皮肉が口から出る。
「もう顔も見たくない、とかでしたら、来ないようにしますよ。基本的に家族がいるイタリアを拠点に暮らしますしね。」
少し笑みを浮かべて言ってしまった。アンジェラが『こほん』と咳払いをする。
そこで北山留美が質問をする。
「ライル君の家族って徠夢さんの事じゃないんですか?」
「僕はアンジェラと結婚して、子供も二人いてイタリアで暮らしています。」
「イタリアに留学ってそういうことだったの?でも、子供ってあなたまだ中学一年よね?」
僕はリリィの姿になった。年齢的には二十四歳程度の見かけのはず。
胸はつるペタだが、普通にアンジェラと釣り合うくらいの年齢に見えるはずだ。
「女性化したときの体の年齢は成人しています。」
「あなたが産んだってこと?」
僕が頷くと、北山留美が驚きの表情を見せる。
結局北山留美に状況の説明をする程度の会話に落ち着いた。
途中、泥んこ遊びに突入した子供たちを制止すべく、僕とリリアナが退場した。
リリアナが子供たちをシャワーで洗っている間に、イタリアから着替えを持ってきて着替えさせた。
着替えさせた後、サロンに戻り、子供たちに一応挨拶をさせた。
「マリアンジェラ、ミケーレ、おばあちゃんにご挨拶してください。」
マリアンジェラがキョトンとして首をかしげる。
「え?北山先生がおばあちゃんなの?」
「そうだったんだって。僕も知らなかったけど。」
「ふーん。似てないね。」
「ミケーレ、マリーご挨拶は?」
アンジェラが促すと、しぶしぶ二人でお辞儀をして言った。
「こんにちは。マリアンジェラ・アサギリ・ライエンです。」
「ミケーレでーす。」
ミケーレは挨拶もそこそこに、おやつの時間とばかりにスィーツを頬張る。
「ミケーレ、行儀がわる…。」
徠夢が文句を言おうとした時、マリアンジェラがスィーツを徠夢の口に二度目の投入。ナイス!
「お行儀が悪くてすみません。大きく見えますが、まだ二歳になっていないんです。」
マリアンジェラとミケーレは普通の子よりはるかに口が達者だ。
子供たちが疲れてきたようなので、僕たちは暗くなる前にと言って帰宅することにした。無視ばかりせず、向き合う必要があることもわかった一日だった。ある意味歩み寄りをしたと言うところだろうか。




