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193. 矛盾だらけの現状

 一週間ほど経ち、お爺様からパスポートが出来上がったようだから自分でとりに行くようにと、自室の机の中に引き取りに必要なハガキを入れたとメッセージが来た。

 ハガキを取りに部屋に寄ったときだった。

 そういえば、僕の日記に書かれていたことが現実の事となっているならば、僕の母親は北山先生なのかな?しかも、産んだのに育てないで、置いて行ったって、なかなかすごい話だ。それはそれで、内心、複雑だった。

 彼女と僕の間に関係があったから、彼女を助けることになったのかな?

 まぁ、あまり深く考えても意味がない気もする。


 パスポートを無事取得し、一度家に戻った。

 アンジェラが調べてくれたアメリカ東海岸のボーディングスクールに申し込みの手続きをすることになった。学生ビザの発行等もあり、結局は9月の新学年からの入学になる。

 半年間、何をして過ごそうか…。


 そこへ、アンジェラがジュリアンとして活動中のアンドレとリリアナに同行して外出していた先から帰ってきた。

「あれ?子供たちは?」

「今日は仕事が入っていたから、乳母たちに頼んであるんだ。」

「仕事順調なの?」

「まぁ、暇つぶしにやっている程度だから、丁度いいくらいの仕事量だよ。」

「そうなんだね。僕の方は半年暇になっちゃったんだ。」

「何もしないのは良くないな。ライルもいっそデビューするか?」

「え?ヤダよ。注目されるのは嫌いだ。」

「言うと思ったよ。」

 二人でじゃれ合っていると、乳母が子供たちを連れて散歩から帰ってきた。

 ミケーレとマリアンジェラの二重奏。

「「おやつーーー」」

「あ、パパとライル。おやつ、一緒に食べようよ。」

「そうだ、今日は、日本の徠神叔父さんのお店に行ってみないか?」

 アンジェラが僕たちに提案した。

「え?そんなお店あったっけ?」

 マリアンジェラは不思議そうな顔をする。

 どうやらマリアンジェラも過去の記憶の書き換えがされていないようだ。

「マリー、徠神のことは覚えてる?」

 僕は、マリアンジェラがどのくらいわかっているのか知りたくて質問した。

「うん、畑耕しながら、動物病院手伝ってるパパのお兄ちゃんだよね?」

「そうだったんだけど、どうも僕のせいで過去が変わっちゃったらしくて、今はお店をやってるんだって。もう動物病院はないらしいんだ。」

「え?そうなの…。」

「パパも覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。不思議だな。」

 マリアンジェラの記憶はほぼ元のままだ。本当に過去が変わっているのか、と思うほどだ。ミケーレはそんなことはどうでもいいらしく、「なんでもいいからおやつ食べたい」と言っている。

「じゃ、行ってみようか?城跡なんだよね?一度家に出てから、歩いて行こう。」

 四人で日本の家の自室に転移した。


「ひさしぶりぶり~。」

 ミケーレがふざけて言った。

「そうだね、二人はしばらく来てなかったよね。」

「ドア、直ってるんだな。」

 アンジェラがそう言ったけど、僕はそもそもドアが壊れていたことが実際どうだったのかもわからないなと思った。

「混乱しそうだよね。」

 僕はドアを触った。ドアから情報が流れ込んできた。

「あっ。」

 ドアは壊れていた。でも、どうやら引きこもっていた原因が父徠夢が結婚した相手が自分を捨てた実の母だったことにショックを受けたことの様だ。

 それは、普通ショックだよな…。

 ドアを壊したのは引きこもりの原因を知らないアズラィールだ。

 その時、急にドアが開いて、おっとっと状態になってしまった。

「あぶないっ。」

 アンジェラが僕を支えて転倒は免れた。

 ドアを開けたのは北山留美だった。

「あっ。ごめんなさい。誰もいないと思ったから…。」

「ノックぐらいするべきでしょう。失礼な人だ。」

 アンジェラが珍しくきつい言葉で返した。

 僕は、無言で子供たちを抱っこすると、マリアンジェラをアンジェラに渡して、部屋から出ようとした。その僕の腕を、北山留美が掴んだ。

 改変されたであろう彼女の記憶が僕に流れ込む…。嫌悪感があふれて、言葉を止められなかった。

「北山先生、離して下さい。」

「あっ、ごめんなさい。」

 手を伸ばして僕に触れたマリアンジェラに僕の感情が伝わっているようで、顔に出さないようにしている僕の代わりにマリアンジェラの顔がわなわなと歪む…。見たことのない迫力だ。

「マリー、大丈夫だから。いい子にして。ね。」

「う、うん。わかった。」

 目を瞑って、手を握って堪えているようだ。かわいいな、マリアンジェラ。

 そう思った瞬間、僕はリリィの姿になっていた。母性が働いたからなのか…。

 外でちょくちょく変わるのはマズイが、家族で外に行くときにはリリィでいる方が都合がいい。

「い、今のはなんなの?」

 北山留美が驚いた様子で声をあげた。え?この人は知らなかったのか?これを説明するのはとても面倒だ。アンジェラがそこで口をはさんだ。

「私の妻に何か文句でもあるんですか?」

「え?妻?」

「リリィ、急ごう。」

「あ、うん。アンジェラ、ごめんね。」

 二人で空いている方の手を繋ぎ足早に下の階に進む私たちの背後で聞こえた。

「えー?アンジェラ・アサギリ?うそでしょ…。」

 きっと、改変された過去にはアンジェラと北山留美の接点がなかったのだろう。

 玄関を出る前にキスをしている僕たちを見て、ますますショックを受けているようだ。


 アンジェラは、歩きながら未徠に電話をかけ始めた。

 どうやら、僕とアンジェラの事は北山留美には伝わっていないどころか、僕がイタリアに住んでいることなども知らないようだ。僕はどこかに家出したまま行方不明だとでも言っていたのだろうか…。8月に消えてからもう7か月だ。

 改変される前の過去では、北山先生は決して悪い人ではなかったし、父様とくっつけようとしていた僕の意思が働いてこんな状況になったんだとしたら、逆に申し訳ないけど…。対応の仕方が難しい。

 後でアンジェラに相談してみよう。

 ゆっくり歩いて十分ほどで、城跡に着いた。

「わぁ、結構立派な建物だね。これって、ユートレアの城のレプリカ?」

『Château des Anges』=天使の城とフランス語の看板が出ている。スィーツと軽食のレストランだ。

「そうなんだよ。徠神ライディーンがせっせと過去に薬草を運んで儲けたお金をつぎ込んで建てたんだよ。まだオープンして三か月なんだが、アズラィールから城跡に城建てるのも面白いとか言われたらしく…のりのりで建てたらしい。」

 入口付近には中に入るのを待っている人たちの行列ができていた。

「なんだかすごい混んでるんだけど。」

「あぁ、私たちはこちらから入るぞ。」

 アンジェラはそう言って建物横の入り口に指紋認証での開錠をして、通路へと進んだ。

「え?どうなってるの?」

「私も少し投資したんだよ。その見返りにVIPルームを作らせた。」

 中に入るとガラス張りの個室に、スイッチで曇りガラスにできる装置が付いたガラスで囲まれているようだ。

 アンジェラはそのスイッチを入れ曇りガラスにすると、子供たちをソファに座らせた。

「もう注文はしてあるから、少し待っててくれ。」

 そう言うと、また裏の通路へ戻って行った。

 子供たちはVIPルーム内の備品のおもちゃで遊び始めた。

「ここに、来たことある?」

「わかんない。」

 マリアンジェラが言うと、ミケーレがフォローした。

「ママは寝てたし、ライルはいなかったから…。パパとアンドレが合体して連れてきてくれたの。一回だけ。」

「そっか…。」

 アンジェラが戻ってきた。徠神がシェフの格好をしている。

「ぶはははっ。すごい似合ってる。」

 思わず、リリィの姿で馬鹿笑いをしてしまった。

「笑いすぎですよ、天使様。」

「やめてよ、それ。」

 どうやら徠神は、ただ長生きをしたわけではなく、ちょくちょくアズラィールが過去に帰る手助けを僕がしている中で、戦争が起こることを予想して、城跡の所有地に大きな防空壕を作ったようだ。

 当然、一人も戦争で死ぬことはなかった。緑次郎夫妻は寿命で死んだが、『天使様』という呼び名は彼が僕をそう呼んでいたせいだ。

「昔食べたドーナツが忘れられなくて、スィーツとパスタなどのイタリアンをメインにしてお店を開くことにしたんだ。時々こっちに連れてきてもらうようになってからは、薬草の栽培も順調になったし、財産もそれなりに蓄えたしね。」

「すごいじゃないか、徠神。」

「アンジェラにも投資してもらったんだけど、結構繁盛してるんだよ。」

 そこに、アンジェラがワゴンで食べ物を運んできた。

「おまたせしました。うちのお姫様と王子様と奥様。」

 たくさんのお料理とスィーツがのっていた。

「ひゃっほーい。僕ね、ピザとカルパッチョ。」

「マリーはね、チーズのパスタとパエーリャ。」

「すごいね、食べきれないよ。」

「あとで、みんな来るから大丈夫だ。」

 アンジェラはそう言って、食べ物を大きなテーブルの上に並べた。

「もしかして、お店忙しかったんじゃない?」

「昨日から予約してたから大丈夫だよ。それに今日は父上もバイトで入っているらしいし。」

 マジな家族経営みたいだ。

 結局、次から次と家族が訪れ、食べ物も完食し、楽しい時を過ごした。

 途中、アンドレとリリアナも合流した。

 マリアンジェラが僕のスマホで食べ物と家族の写真を撮りまくっている。

 そして、SNSにアップした。

「うひょ~、イイねがいっぱいだよ。」

 もうすぐ二歳でスマホを使いこなしているのが怖い。しかも僕のアカウントでアップしている。おいおい。アンジェラが食べに来ているお店というだけで、客が増えるらしい。

「ねぇ、未徠おじいちゃん達にお土産買って行ってもいい?」

 ミケーレがアンジェラに聞いた。

「もちろん。どれにするか決めて言いなさい。」

 ミケーレはお持ち帰りできるスィーツを選んで、アンジェラに注文してもらった。





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