192. 二人だけの時間
日記を読み終え、僕は一緒に日記を覗き込んでいたアンジェラの顔を見上げた。
アンジェラは少し安堵した様な顔で僕を後ろから抱きしめてくれた。
「ライル、安心したか?」
「うん、左徠のことは残念だけど。あと、ライラが出てこなかった。
徠人は生きているときに僕に出会わなかったってことかな…。ちょっと寂しいな。」
「いい方に考えてみろ。一回人生をリセットして、大好きなライルの子供に生まれたんだ。辛いことも何も経験しなかった。いや、たとえ経験していても、夢で見た程度のことになってるさ。」
「そうかな…。」
「あぁ。私は全部覚えているぞ。変わる前の過去も、変わってしまった後の過去も。
ずっとずっと前から、お前をどれだけ愛しているかも…。」
後ろから抱きしめられる腕に力がこもる。
「アンジェラ…、うれしいけど、今、僕…男だから、かなり恥ずかしい。」
「そ、そうか…。」
アンジェラが顔を赤くして少し力を緩めた。
「アンジェラ、あのさ…、できればそういうのは誰もいない所でしてもらえると…。」
「んっ、そうだな。」
僕は、日記を引き出しにしまうと、アンジェラの同意を得ずに、彼の手を取り二人でユートレアの王の間に転移した。
真っ暗な室内で、僕はいつの間にかリリィの姿になっていた。自分から変わろうと思ったわけではない。多分、アンジェラが求めているのだと思う。
二人がキスするのには理由なんかいらなかった。
一緒に過ごせる夜を、こんなにうれしく思うとは思っていなかった。なぜ、こんな幸せを手放そうとしていたんだろう…。何度も同じ疑問が頭をよぎった。
「アンジェラ、あったかい…。」
ベッドの中でぴったりくっついて抱き合っていたのに、ベッドの中で何かモゾモゾと動く…。
既視感のあるホラーな出現をするのは、間違いなくうちの子達である。
二人の間に無理やり割り込んで顔の方に出てきたのは、ミケーレ。
「ぶーー、パパずるい。」
マリアンジェラは、ミケーレの後ろからミケーレの上に出てきた。
「ぷはっ。ふー。パパ、もう、お風呂から出たよ。何してんの?こんなところで…。」
アンジェラ、キョドって変な言い訳をする。
「あー、ほら、あれだ。お風呂の前に寒いから、ちょっとベッドに入って温まってたんだ。」
「えー、なんで家のベッドじゃなくて、ユートレアに来てるの?」
「こっちのベッドの方が広いじゃないか?」
「むぅ。」
「ねぇ、次はパパとママのお風呂の時間だって、アンドレが言ってたから、言いに来たんだよ。早く戻ってね。じゃ、先に帰るよ。ほら、ミケーレ、行こう。」
二人は転移して帰って行った。
「うち、お風呂はそれぞれの部屋にあるから、次とか関係ないよね…。ははは」
僕は思わず苦笑いをし、慌てて服を拾って着た。
最後にもう一度キスをして、転移して家にもどった。家に着いた時にはライルの姿に戻っていた。
「変な汗が出たね。」
「そうだな。ははは」
二人でおかしくて笑いだしてしまった。
アンジェラは子供部屋を別に作ることにしたらしく、次の日には業者を呼んでいた。
二人だけの時間はなかなか作れそうにない。




