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189. これから

 瑠璃リリィは自分の世界に戻ってこられたことに安堵した。

 やはり、こちらの世界にないはずのこの絵が二つの世界を繋いでいるのかも…。


 足早にクローゼットを抜け、アンジェラの寝室を通り、アトリエに行く。

 父様とママとアンジェラが雑談をしていた。

 さっき、別の世界であったことを三人に話しておこうと思った。

「あのね、ちょっといい?」

 そう話し始めた私の言葉に三人はしっかり耳を傾けてくれた。

 ライルはこことは別の並行した世界の人であったこと。

 さっき、そこに偶然行ってしまって、あっちの世界でライルとその分身たちが死にかけていたこと。

 そして、彼らを助けるために、自分の中にいたライルを返してきたことも話した。

 ライルが回復して、彼の世界で本当の幸せを手に入れて欲しいと皆で願った。


 一方で、ライルのいる世界では、ライルはイタリアの家で三日間眠り続けたあと、目を覚ました。ライルの顔に生暖かい風が吹きつける。ミケーレとマリアンジェラの鼻息だった。

「ぷっ、くくくくくっ。ぶはははっ。」

 爆笑して目を覚ましたライルは、逆に周りの者を驚かせた。

「うぉー、びっくりよ。」

「あせるわよ。」

 いきなりの至近距離の爆笑にのけぞってしまった二人だった。

「だって、鼻息がふんふん顔にかかって、くすぐったくて目が覚めたよ。」

「だから、それは近づきすぎだって言っただろう?」

 アンジェラが半笑いでマリアンジェラとミケーレを少し離す。

「だってぇ、心配だったから…。」

「そうだよ~」

 笑って話していたのもつかの間、ライルの表情が曇る。

「僕、いつからここにいるの?」

「三日前だ。六か月行方不明だったんだ。意外なところにいたんだけどな。」

「何も覚えてない…。」

「お前、この世界とは全く異なるところに行っちゃってたようだぞ。

 それに気づいたその世界の瑠璃リリィがお前を返しに来てくれた。」

 アンジェラの説明に、ポカンとしていると、マリアンジェラがライルの腕にしがみついて言った。

「間違えて行った世界でみんながいなくなったと思ったって言ってたよ。」

「どこまで覚えてる?アズラィールがドアの鍵を壊したのは?」

「あ、うん。そんなことあったかな…。」

「いつでも帰ってこいって言ってただろ。なんで引きこもってたんだ?」

「だって、もう僕の居場所なんか、ここにはないって…。」

「ばかだな。言っとくけど、その違う世界の瑠璃リリィが徠夢に喧嘩売ってきたから、日本にはもう帰れないぞ。」

「え?」

「もう、ずっとここにいないとダメだからな。」

 アンジェラが笑いながら言った。

「でも、リリィが…。」

「リリィはもう、お前の中に入ってしまったぞ。どっちの姿でいてもいいから、リラックスしろ、いいな。」

「ライル、髪の毛ボーボーだよ、ぎゃはは。」

「え?ほんと?」

「ほんとー。ボーボー。」

 そう言いながら二人がべたべたと体中に触ってくる。

 久しぶりに楽しい。不思議なことに、僕の中に入っているというリリィの気配は全く感じられなかった。


 三日前には別の世界の瑠璃リリィが僕に憑依し、いっぱい食事をとったらしい。

 負けないようにちゃんと食べろと言われ、食事をした。

「ライル、マリーが、あ~んしたげる。はい。あ~ん。」

 マリアンジェラが、スープをすくって食べさせてくれた。

「うれしい。ありがとう。」

「ミケーレはじゃあ、こっちのね。はい、あ~ん。」

 焼いた魚の丸ごとを手づかみでこっちに向けられ、思わず吹き出してしまった。

「ミケーレ、魚とキスさせようとしないでよ~。」

「あ、わかっちゃった?ぎゃはは。」

 アンジェラが笑いながらもミケーレに突っ込みを入れる。

「食べ物で遊ばない。」

「はーい。」

 こんな幸せを手放そうとしていたなんて、僕は本当の馬鹿だ。


 食事の後、マリアンジェラとミケーレを乳母たちに頼み、アンジェラとアンドレ、そしてリリアナと僕で話し合いをした。

 アンジェラは、アンドレとリリアナに僕はもう日本の家には帰らないことを告げ、翌月からアメリカの学校に編入しようと考えていることを伝えた。

 イタリアに住んではいるが、アメリカのプライベートスクールで寮の個室を借りて、毎日転移しながら通えばいいと言うのだ。

 アメリカの学校には飛び級制度があるから、今なら中学二年に編入して、短期間で大学まで卒業も可能だ。

 学校はあくまでもライルとして通う。

 目標は18歳で大学卒業だ。アンジェラは彼の意見を続けた。

 まだ中学一年だ。今はとにかく暇を作らず突っ走れという。家ではアンドレとリリアナがサポートしてくれるし、身の回りの世話は従者が行う。

 時差があるので、少し生活がずれるかもしれないが、みんなライルが健康で、プライベートの時間にそばにいてくれればそれが一番だと言ってくれた。


 僕も、今まで学校ではつまらなかったし、張り合いもなかった。家でも孤独だった。

 飛び級するとなれば、それなりに上を目指す必要がある。なんだか、いい方にプレッシャーがかかっている気がする。

「早速だが、明日、一度日本へ行ってライルはパスポートを作ってこい。出来上がるまでに一週間ほどかかるだろう。その間に学校のリサーチなどを行おう。

 うちの会社のスタッフにある程度任せていいと思う。だが、最初に入国するときと帰りに帰国するときだけは、飛行機を使わなければまずいからな。」

「うん、ありがとう。」

 アンドレとリリアナは最近では、ユートレアに行くことも少なくなり、ジュリアンでの仕事が増えているようだ。

 二人で独立してもいいとアンジェラが言ったらしいのだが、こんなに居心地のいい家を出る理由がわからないと言われたらしい。


 新しい生活に向けての準備が始まった。


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