187. 夢の中で
眠りに落ちた瑠璃の首筋に手をあてたままもう片方の手でアンジェラとアンドレ、そしてマリアンジェラの手を握るミケーレ。
同じものが見えるようにしているのだ。
アンジェラがミケーレの手を通して瞼の裏に見えているもの…とりあえず、完全なる真っ暗闇だ。
アンジェラがミケーレを、アンドレがマリアンジェラを抱いて、手探りで四人が先に進んでいる。幸い自分たちの体はそれぞれの能力を表す光の粒子でうっすらと光を帯びており、見失うことは無さそうだ。
しばらく行くと、道端のベンチに、瑠璃が座って待っていた。
「君も一緒に行ってくれるかい?」
瑠璃は頷き、四人の後ろについてきた。
更に歩くと、わりと大きめのドールハウスが急に目の前に現れた。
イヤ、違う。これはユートレアの城を小さくしたもののようだ。
城の正面入り口を開けると、一瞬で私達全員がドールハウスの大きさに合わせたように小さくなった。
「わっ。すごいね。夢の中ってこんななの?」
マリアンジェラの質問にミケーレが答える。
「そうとも限らないよ。マリーの夢の中はいつも真っ白だ。」
「え?いつ覗いたのよ…。ぎゃはは。」
「てへへ。」
城に入った。通る通路の左右の部屋のドアを開けていくが、どこも真っ暗で何も見えない。
「やはり、王の間か?」
アンジェラは歩く速度をはやめ、王の間へと急いだ。瑠璃は初めてユートレアの城に来た。そして、そこがどんな場所かもわからずにいる。
アンジェラが王の間の扉を開けると、王のベッドの上に大きな鳥かごがあった。
それは、金色の光の粒子でできているようで輝いている。
その中に、翼をたたみ膝を抱えて座る一人の少年がいる。その姿は半分向こう側が透けて見えるほど弱々しく、息をしているのかもわからない。
目を伏せ、視点の合わない様子で、ボーッと何かを見つめている。
アンジェラが話しかけた。
「ライル、大丈夫か?聞こえるか?」
その声に少し反応して、顔を上げた少年は、もう目が見えないようで、瞳が曇っている。手探りで声のした方によろけながら近づいてくる。
「あ、…。」
「そうだ、アンジェラだ。ライル、どうしちゃったんだ。」
弱々しい声で、まともに話すこともできないようだ。その時瑠璃が思い出したように言った。
「もう、力がなくて飛べないって言ってた。」
「どうにかできないのか…。」
アンドレが悲しそうに言った。マリアンジェラとミケーレが鳥かごの隙間から鳥かごの中にするっと入り込んだ。二人はライルに抱きついた。
「ライル、ごめんね。気づいてあげられなくて。」
「ライル、ライルがいないと僕、また死にたくなっちゃうよ。」
ライルの指がビクッと動く…。そこで、瑠璃が泣きながら言った。
「ライル、あんた、間違えて違う世界に迷い込んだんだよ。おかげで、私と私の世界のアンジェラは助かったけど。勘違いしたんじゃない?みんながいない世界になっちゃった。とか…。」
ライルは口を小さく動かして、何か言おうとしている。
「ライルがいなくなった世界のリリィとリリアナが大変なことになってるんだよ。」
「…え?…」
ライルが、目を見開いた。マリアンジェラがライルにすがって泣きながら言った。
「リリアナもリリィも、もう自分で息ができないの。」
「もう、空っぽになってるの…。」
ミケーレも説明する。
「ライル、お前だけでも戻って来てくれ。私達にはライルが必要なんだよ。」
アンジェラが強い口調でライルに言った。
「ぼく、…もう、しんでる、ん、だ。」
ライルが声を振り絞ってそう言った。
「ねぇ、体が最後にあったのはどこ?それだけでも教えて。」
「じゅう、ねん、ごの ふう、い、んのま。」
「ライル、小鳥になれる?私の手にとまれる?」
ライルは少し考え込んでから、小さく頷くと白い半透明のちいさな小鳥になってマリアンジェラの手にとまった。
「よし、行こう。」
アンジェラの言葉と共に、皆で城の扉を出た。




