185. 予期せぬ出来事
その夜の遅い時間に、父様がアンジェラが描いた絵はもっとないのかと言いだした。
まぁ、単なる酔っ払いの駄々みたいなもんだけれど…。
アンジェラは、謙遜して言った。
「倉庫なので、床に立て掛けてある絵ならたくさんありますよ。見てみますか?」
父様は遠慮せず、倉庫に入って行った。照明をつけると、想像していなかったほどの大きな倉庫が、寝室のクローゼット内の隠し扉の先にあった。
そこには窓がなく、空調が付いており、掃除も行き届いている。
瑠璃の絵が、たくさんあった。大きい物から小さい物まで。
「すごいな。」
父様が、妙に感心していた。
絵の殆どが天使がテーマになっている。留美も瑠璃も絵の数に圧倒された。父様はどんどん奥へと進んで色々な絵を見ては感心している。
「こんなこと言っては変だが、本当に上手いな。」
「ははは、父様。当り前じゃないですか…プロですよ。」
「よかったら、一枚でも二枚でも持って行ってください。」
アンジェラが徠夢に声をかける。父様とってもうれしそうだ。
結局、アンジェラのお勧めの絵を二枚、小さめのものと、中くらいのを渡された。
父様は家に飾る気満々だ。
アンジェラは、一応説明しておかないといけませんと言いながら、話し始めた。
「私が画家として活動していたのは今から70年以上前の事です。当然ながら、年を取らないので、私は自分の息子として自分自身の出生を登録してきました。
そういうわけで、この絵は私の祖父として描いたものです。もし、売却する場合はこの絵を描いたのはアンジェラ・アサギリ・ライエン1世と記憶していてください。自分に財産を相続するのも変な話ですが、生きていくうえで必要だったもので…。」
父様が頷いて、言った。
「アンジェラ、苦労してきたんだな…。」
「いえ、瑠璃の生まれる時代までと思い生きてきました。苦労ではなかった。」
父様とママは顔面崩壊で泣き始めた。
そんなエピソードの後、瑠璃は布をかけられ、端に追いやられている数枚の絵に気が付いた。
父様たち三人は持ち帰る予定の絵を持って、早々に倉庫を後にした。
その後。その布で覆われた数枚の絵を、瑠璃は興味本位で布を外して見たのだった。
「え?誰これ?」
そこには、アンジェラに似ている、いやそっくりの男性が王様の衣装で描かれている肖像画があった。そして、その後ろに置いてある絵は、アンジェラと瑠璃…いやもう少し年が上の誰かの結婚式の絵、そしてさらにその後ろには、銀髪のとても可愛らしい赤ちゃんと黒髪のあかちゃんが籠に入っている絵だった。
「え?誰?これ…。」
そして、いちばん最後に、とても背が高い金髪の色白で美しい男の絵。
「嘘…でしょ…。違う世界の話じゃなかったの?」
赤ちゃんたちの絵を手に取って、そう思った瞬間、瑠璃の目の前の景色がぐにゃりと変形した。




