181. 過去の記憶との違い
瑠璃はシャワーを浴びて、髪を乾かした後、部屋の電気を消し、ベッドに横たわると、色々と思いを巡らせた。
今日ライルに傷を癒され魂を揺り動かされ、アンジェラのために生きる事を選択した。その際、ライルの魂とそれに刻まれた記憶を自分の中に統合した。
ライルのアンジェラへの強い想いが悲しいほど瑠璃に生きて欲しいと訴えていた。
『ライルか…。私が男の子に生まれてたら、そういう運命になってたってことね。』
瑠璃はライルの記憶を辿っては、悲しい過去に胸が痛くなった。
『女の子に生まれてよかったわ。それと、北山先生がママでよかった。』
そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。
なつかしいような甘い香りで目が覚めた。
目の前にアンジェラがいて頭を撫でてくれてた。
「アンジェラ…会いたかった。」
「私もだよ。瑠璃。」
いつの間にかモニターの電源を抜いて、センサーを外して私のところへ来ていたアンジェラ。めちゃくちゃ顔が近い。つーか、抜いていいの?それ…。
「あ、そだ。私怒ってるんだからね。自分で死んだりしないって約束したのに、馬鹿なことして…。むぅ。」
「ごめんなさい。」
「もう、超ギリギリだったんだから。ライルが来なかったら絶対死んでた。
って、自分も死んでた。あはは。あれ?アンジェラのおかげで助かったのかな私?」
ぷんすかぷんすか怒ったかと思うとゲラゲラ笑う瑠璃の言葉に、アンジェラが不思議そうな顔をする。
「ライルが来たの?」
「アンジェラ、ライルのこと知ってるの?」
「小さいころ読んだ絵本には、ライルっていう天使が出てくるんだ。」
「ふーん。ライルは実在してたから、多分それとは違うと思うけど…。今度その絵本読ませて。」
「あぁ、探しておくよ。」
瑠璃は、アンジェラをイタリアの家に連れて行った。
もう、昨日までとは違い、どこでも自由に転移できる。
アンジェラがお風呂に入って身支度を整えた後、日本の朝霧邸に戻った。
お爺様とお婆さま、父様とママが起きてきたので一緒に朝食を食べた。
さすがの父様も昨日の天使の話を覚えているようで、余計なことは一切言わず、二人が回復したことを喜んでくれた。
私には昏睡状態から回復したことを証明する必要があると言うことで、後日病院に検査に行くことになった。
今夜はアンジェラのイベント出場について行くからと家族に言ったが、「気をつけなさい」と言われただけで、反対はされなかった。
お爺様はアンジェラに、彼のお父さんやお兄さんの事を色々と聞いていた。
「そっか、そうだよね…。親戚なんだ。不思議な縁だね…。」
朝食を終え、指輪を首にかけるためのチェーンを買いにアンジェラと出かけた。
出かけたと言っても、転移でイタリアのアンジェラがいつも使っているジュエリーデザイナーを訪ねたのだ。
日本に戻ると、スマホにアンジェラのスマホからメッセージが来ていた。
『リハ必要なため、午後四時には以下の場所に来てください。』
アンジェラにそれを伝える。アンジェラは昨日の騒動をどうやって解決するべきか思い悩んでいるようだった。
「アンジェラ、大丈夫よ。もう言ってあるから。あれは赤ワインをこぼしたのをスタッフが見誤って救急車を呼んだのよ。だから、実家で休んで今日は何も問題なくライブに行けるの。ね?わかった?」
「でも、病院や救急車は…。」
「それね、心配しないで。いい方法があるの。あ、じゃちょっと行ってくるわ。」
五分で帰ると言いながら、瑠璃は転移していなくなった。
瑠璃はアンジェラが昨夜搬送された病院へ来ていた。
昨日、対応していた看護師を探す。一人、発見。
「こんにちは。」
その看護師に話しかけると、瑠璃は赤い目を使って、命令した。
「今すぐ、昨夜アンジェラの搬送に対応した者を全員集めなさい。」
看護師の目に赤い輪が浮き上がる。
夜勤明けの担当者が八名、瑠璃の前に集まった。
「昨日はありがとう。もし、アンジェラの事で問い合わせがあったり報告が必要な場合、あれは、赤ワインがこぼれたのを血液と間違えてただけで、ただの過労だった。栄養剤を注射して帰ってもらった・。と説明してください。」
瑠璃は再度赤い目を使って言った。
家に戻るとアンジェラが心配そうに瑠璃を見つめる。
「アンジェラ、いいこと教えてあげる。」
アンジェラをベッドに座らせ、その膝の上に向かい合わせで瑠璃は座った。
「こんな風に座ったときにね、アンジェラが後ろに倒れたら、私は路地裏でボコボコにされてるアンジェラのところに飛んじゃうんだよ。そして、死にそうになってるアンジェラを助けるの。試してみる?」
「え?」
アンジェラがバランスを崩して後ろに倒れた。
「あっ。」
バランスを崩して自分も前のめりになる。勢い余ってアンジェラの顔と自分の顔が重なった。ゴチンと音がして、頭突きみたいになっちゃった。
「イテテ~っ。アンジェラ、大丈夫?」
やっぱり、前にライルが経験しているのと同じだ。
死にかけて気絶していたアンジェラのところへ出ていた。彼を担いで、イタリアの家に移動して癒した。
癒さなければいけないところが山ほどあった。
でも、ここでいくら時間がかかっても、戻るときには元の時間に戻るのだ。
大丈夫、ゆっくり丁寧に治してあげよう。
数日かけて、アンジェラを癒し、アンジェラが意識を取り戻したところで、瑠璃は元の場所へ帰ってきた。
『ゴツン』と音がして、戻ってきたときに頭突きをしてしまっていた。
「あははっははは…ごめん。痛かったね。」
「瑠璃、今のは…。」
「ねぇ、思い出したんじゃない?いつだかわかんないくらい前のどっかで拷問かなにかされたときのこと。アンジェラ、路地裏に捨てられてたよ。死にかけてた。」
「瑠璃が助けてくれたんだね。」
「私が最初じゃないよ。うまく言えないけど、私の中のもう一人が全部の記憶を持てってるの。いつ、どうしたらアンジェラを助けられるかって事ばっかり考えてる誰かが。」
そう言った時に、急にアンジェラが瑠璃の唇にキスをした。
ん???なんだかこういう感じが初めてではないのも思い出しつつあるのだけれど…。ライルって男の子だったよね?男の子とこんなチューする???
瑠璃は混乱しつつ、頭の中を冷静に保つよう努力するのであった。
「あ、今日のライブ、一緒に行くね。指定の時間に送って行くから。帰りも一緒に転移して抜けたかったらできるよ。パッと現れてパッと消える。とかね。」
「いいね。」
いいんかい…。
昼間、家の裏庭をうろうろしたり、家の中を案内しているうちにあっという間に午後四時少し前となった。
瑠璃は、学校の発表会の時に着た白いふわふわのワンピースと金色のシューズを履いて、アンジェラの横に立った。転移の前には翼が出る。
「じゃあ、指定された会議室に行くね。」
「あぁ、お願いするよ。」
一瞬で会議室に着いたが、誤算があった。そこにはスタッフがすでに何人かいた。
転移するところを思いっきり見られた。
「げっ。」
ヤバいと思い警戒して周りを見回すと、みんなニコニコしながら話しかけてきた。
「この方ですね。アンジェラ社長の婚約者さんは。」
「すごい、本当に翼が生えた天使です~。」
「この方が傷も治してくださったんですか?」
矢継ぎ早に話しかけられ圧倒していると、アンジェラが口を開いた。
「瑠璃、この者達は私の従者だ、気にすることはないよ。」
周りの人たちをガン無視で、チュとかされて、顔面が真っ赤になった。




