180. 命を救え
息を吹き返した瑠璃は、瑠璃として生きた記憶と、核に刻まれたライルとして生きた記憶を両方持ち合わせていた。
能力も以前より数段高い。
転移で向かった先は、現在のアンジェラの場所だ。
心肺蘇生を続けていた医師も、もう見込みがないと、手を止めた時だった。
医師が脈を取り、死亡宣告しようとしたときだ。
目の前に、翼の生えた女の子出てきて言った。
「あんた、邪魔。さっさと輸血の血液持ってきてよ。」
赤い目でそこにいた人たちに命令する。
そして、アンジェラの心臓の辺りに手を当てた。
「大丈夫、大丈夫だよ。アンジェラ…もう私が来たからね。」
もう片方の手で頭を触る。
「よし、安心してよ。もうどこにも行かないから。」
そして、手首の傷を触る。
「もう、馬鹿なんだから。自分では死なないって約束したのに。」
胃の中を手をかざして視る。幸い、もう薬物は除去されているようだ。
「輸血して。」
看護師に命令し、輸血が始まって少しした時、瑠璃はアンジェラの顔に自分の顔を近づけて唇に口づけをした。
「フィアンセが来てるんだから、早く目を覚まして。」
もう一度、心臓の辺りに手を当てる。
「アンジェラ、アンジェラ…。ほら、見て指輪してきたよ。でかくて落っこちそう。
明日、首にかけるためのチェーン買ってくれる?」
『ぴくっ』とアンジェラの指が動いた。
停止していた心臓が動き出し、呼吸が再開した。
瑠璃はアンジェラの脳をくまなくチェックし、呟いた。
「さぁ、どうやってスキャンダルをもみ消そうか…。」
輸血量が失血した分を補えるほどに達したとき、瑠璃はアンジェラを連れ、自宅の自分の部屋のベッドの上に転移した。
すぐに、未徠の部屋に行き、未徠を呼んだ。
「お爺様、ちょっと診てもらえますか?」
「なっ、瑠璃どこに行っていたんだい?」
「アンジェラを連れてきたの。どんな具合か診て欲しいの。」
未徠がアンジェラを診察する。
少し熱があるが、呼吸も心拍も問題は無さそうだ。詳しく聞くと、先ほどまで心肺停止状態だったと言うではないか…。
先ほどまで瑠璃が使っていたモニターを使い、心拍数や血圧などを測りながら様子をうかがうことにした。
「お爺様、ありがとう。」
そこへ、瑠璃の母、留美が走ってきた。
「瑠璃どこへ行ってたの?」
「アンジェラのところ。連れてきた。」
部屋のベッドで横たわるアンジェラを見て、ドキリとした。
「ねぇ、母様。アンジェラの電話番号知ってる?」
「瑠璃、あなたのスマホにその番号からメッセージが来てたわよ。」
「え、そうなの?」
そう言うと、瑠璃はスマホを取り出し、その番号に電話をかけた。
「もしもーし。アンジェラさんの携帯電話でよかったですか?」
そう話し始めた瑠璃は、電話に出たのがアンジェラの会社で日本事務所の責任者をしている人物だと確認し、言った。
「あ、私はアンジェラのフィアンセで、朝霧瑠璃です。
アンジェラは今日、うちに泊まるから。え?スキャンダル?
大丈夫。うちはアンジェラの実家でもあるから、実家に行ってただけだと言って。
そして、事務所から、今夜の騒ぎはワインをこぼしたのを見たスタッフが勘違いして救急車を呼んでしまった。と明日の夜のライブが終わった後に事務所から発表して。ライブには必ず行くから、この番号に場所と時間を送って。衣装はそっちで用意しておいてください。何かわかんないことあったら言って。まだ、アンジェラは寝ているから、すぐには無理よ。じゃ、よろしくお願いします。」
瑠璃が電話を切るのを見ていた留美が、瑠璃に話しかける。
「瑠璃思い出したの?」
「あん?あぁ、北山先生が母親だってこと?そこら辺の物に残ってる記憶でわかったわ。ごめんなさい。私の頭の中にはその記憶は欠如しているみたい。でも大丈夫、母様って呼んでたかしら?それともお母さん?」
「ママって呼んでたわ。」
「え?マジ?徠夢のこと、父様って呼んでなかった?」
「呼んでたわ。」
「統一性がないのね。まぁいいわ、ママが良ければそう呼ぶわ。」
留美は複雑な顔をしたが、頷いた。
「えっと、じゃあママ。どっかに余ってるベッドあるわよね?それ、ここに運ぶからどれ使ったらいいか教えて。」
「誰かお父様にでも頼みましょう。」
という留美に、瑠璃は首を横に振った。
「私、すごい技を使えること、思い出したの。大丈夫だから場所だけ教えて。」
通常、客間として使用している部屋にある普段はソファとして使えるベッドを使うことにした。そのベッドのホコリを払い、指先でチョンと触った。
ベッドがその場から消え、瑠璃の部屋の開いてるスペースに収まった。
リリアナが使っていた物質移動の能力だ。
「ママ、シーツとブランケット用意してくれる?」
留美が用意したシーツを広げてベッドにセットした。
すぐに食べられるものも用意してもらい、留美を部屋から追い出した。
「ありがとう、とりあえず寝るから、おやすみ。」




