179. 瑠璃(リリィ)とライル
天使が住む場所で、自分たちを助けるために自らを犠牲にしたライルの魂の核を二人の天使は手に取り、たくさんの涙を流した。
小さな金色の核は、二人の涙を吸い込み、虹色の核へと変化した後、白い小鳥へと姿を変え、どこかに飛んで行った。
朝霧家では、窓のガラスを通り抜けて入ってきた白い小鳥に皆が注目する中、小鳥が『ピィー』と鳴き、瑠璃の胸元にとまると、小鳥からあふれ出た金色の光の粒子はやがて、ひどくやせ細っている翼を広げた少年天使のの姿へと変わっていく。
しかし、あくまでも光の粒子の集合体という感じだ。
黄金に輝く天使が瑠璃に馬乗りになった状態で静止した。
「瑠璃をお迎えに来たの?」
思わず留美が天使に問いかけた…。
『北山先生…。』
天使に旧姓で呼ばれ、気が動転する留美だった。私を知っている誰かなの?
次に徠夢が口を開いた。
「お前は誰だ、うちの娘、瑠璃をどうするつもりだ。」
天使は冷静に瑠璃の頬を撫で、答えた。
『もう、父様の犠牲にはなりたくないって言ってるよ。』
未徠は、半信半疑でこう言った。
「今、アンジェラ・アサギリ・ライエンが心肺停止で危篤になっているんだ。瑠璃と一緒に死ぬつもりで…。」
『アンジェラ…、僕はもう飛ぶ力も残っていないんだ。』
ライルは泣きながら、瑠璃の手を握った。その時、指輪に気づいた。
ライルは指輪を触ると、その物質から過去の記憶を取り入れた。
そして、とてもやさしい顔で、そっと瑠璃の頭の手術をした個所に手を当てた。
金色の光が手の先から出て瑠璃の頭を覆う。
次に瑠璃の心臓の辺りに手を当てて、小さく息を吐いた。
『皆に約束して欲しいんだ。彼女が行きたいと言えば、止めずに行かせてあげて。
彼女が嫌だと言えば、それ以上何も言わないで。僕と同じで彼女はとても弱いから。
約束が守れるなら、彼女がもう一度笑うところを見せてあげるよ。』
徠夢以外は皆頷いた。
『残念だよ。父様はちっとも変わらないんだね。』
その時、未徠が徠夢を殴った。
「馬鹿もん。神が与えてくれた機会をお前のねじれた心のために逃すのか…。」
徠夢が渋々「わかったよ、すまない。」と言った。
『いいかい、もし同じようなことが起こったら、彼女は一瞬で死ぬよ。絶対に約束は守ってね。』
金色に輝く天使はそう言うと白い小鳥に戻って、瑠璃の頭に向って突進した。
『パアッと』光の粒子が飛び散って消えた。
『ピーーーッ』と心停止の音を伝えていた生命維持装置の音が、『ピッ、ピッ』という心拍音に変わった時、瑠璃は両目をしっかり開け、上半身を起こした。
「なっ。」
驚いたのは皆だが、医師である未徠には完全に理解不能な出来事だった。
心停止して五分以上が過ぎ、脳も機能しているとは思えない状況で、自力で起き上がったのだ。
しかも、次の瞬間、首の呼吸器の管を左手で引き抜き、反対側の手で、傷を癒す。
両腕の点滴の管も引き抜いた。
「ぐへっ。」
気管に残っていた血が噴き出た。
近寄ろうとした徠夢を瑠璃は静止した。
瑠璃はふらふらと立ち上がり、大きな翼を出した。皆、目を疑って驚いていたが、そんなことはお構いなしに瑠璃は留美に「ポーチを取って」と言った。留美は瑠璃にポーチとスマホを渡した。
「行ってくる。」
それだけ言い残して、瑠璃は光の粒子になり消えて行った。




