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175. 悲しみの中の再会

 翌日になっても留美の送ったメッセージには返信がなかった。

『まぁ、そんなもんですかね、どこか遠い国にいるような話だったし、わざわざ来るとかないよね。』そう考えながら、日常的に行っている瑠璃リリィの体を拭き、指先や足にボディクリームを塗る。

 歯磨きをして、口の中を拭く。

 唇はピンク色で、今にも目を覚ましそうなのに、結局一度も目覚めることは無かった。

 神様のくれたチャンスを、父である徠夢が壊したのだ。脳腫瘍もかなり大きく深刻な状態だった。手術後目が覚めない可能性も大きかった。

 それでも、一度は目を覚まし、元気に動き回ったり、素敵な男性と婚約したなんてことまで話してくれたのに。

 もう、娘がお嫁に行く姿を見ることも叶わない。そう考えると悲しみが込み上げてくるのだった。


 午後になり、自分の昼食を済ませ、瑠璃リリィの部屋に戻るときに、玄関のドアベルが鳴った。

 玄関のドアを開けると、190センチはあろうかと思うほど背の高い、青く光るような黒髪の碧眼の男性がピンクの薔薇の花束を持って立っていた。

「突然お邪魔して申し訳ありません。アンジェラ・アサギリ・ライエンです。

 瑠璃リリィに会わせていただけますか?」

 彼は、そう言うとお辞儀をし花束を留美に渡した。

 留美はアンジェラを案内し、瑠璃リリィの部屋に入った。

 喉には呼吸器の管が取り付けられ、生命維持装置が取り付けられている。


 アンジェラは瑠璃リリィの姿を見た瞬間、両ひざを床についてベッドの脇に寄り添うと、声を殺して泣き始めた。

「どうしてこんなことに…。」

 愛おしそうに瑠璃リリィの髪をなで、頬を触り、動かない娘をじっと見つめる彼に留美は圧倒された。留美は、そんな雰囲気を少し変えたいという気持ちもあり突然アンジェラに質問を始めた。

「アンジェラさん、あなたは何者なんですか?」

「あ、失礼しました。」

 アンジェラが、涙をぬぐい、一度立ち上がって名刺を差し出した。

『AARエンターティンメント株式会社 CEO アンジェラ・アサギリ・ライエン』

 芸能プロダクションのCEOのようだ。

 名詞の裏にはグループ企業の名前も20以上書かれていた。

「多分もうご存じかと思いますが、アズラィール・ライエンとリン・アサギリの息子で、ライディーン・アサギリ・ライエンの弟です。」

「し、しかし、その方たちは100年も前に…。」

「はい、わかっています。生きている年数で言うと、私も今年で128歳です。」

 信じられないかもしれませんが、と前置きしたうえで、不老長寿の血筋であること、もちろん病気や怪我で命をお落とすことはあること、瑠璃リリィに何度も命を救われてきたことを話した。

 90年ほど前に瑠璃リリィに、劇場火災で助けられた後も5回助けられたが、瑠璃リリィの姿がだんだんと透けて見えるようになり、言葉を発しなくなってしまったので心配していたのだと教えてくれた。

 本人がアンジェラを知らない次元で訪ねても意味がない思い今日まで、待っていたというのだ。アンジェラは瑠璃りりぃの書いたメモを見せた。

『アンジェラさんへ 朝霧 瑠璃リリィ・アサギリは ここにいます。

 XX県○○市XX町XX-XX TEL:090-XXXX-XXXX 2021.8.20』

「彼女は時間を超えて私を助けに来てくれていたんです。これは1920年に渡されたメモです。」

 そういいながら、アンジェラはまた涙を流す。


「あの、瑠璃リリィは、その…婚約したとかって言っていたんですが、まさかですよね?」

「いいえ、約束しました。」

 そう言ってポケットから指輪のケースを取り出した。

 彼女に会えたら渡そうと思っていたといい、アンジェラはまたベッドの横に跪き、瑠璃リリィの指に指輪をはめた。

 アンジェラの口から嗚咽が漏れる。

瑠璃リリィ、ずっと君のためにがんばってきたんだよ。会える日を夢見て…。」

 アンジェラは一時間ほど瑠璃リリィのそばで泣いた後、『これ以上長居するとご迷惑になるかもしれませんので。』と言って朝霧家を後にした。

 留美は、運転手付きの立派な車で走り去るアンジェラを見た。

 アンジェラが帰ってから、なんとなく『アンジェラ・アサギリ・ライエン』をスマホで検索してみた。瑠璃リリィがやっていたように…。

 そこには意外な結果が表示された。

『アンジェラ・アサギリ・ライエン=経歴を公表していない、世界的に有名なアーティスト。芸能プロダクションを経営していると噂されている資産家。』

「アーティスト?」

 検索結果の中には動画のサイトもあった。世界でヒットしている曲だと書かれている。留美は瑠璃リリィのベッドの横で、椅子に腰かけたまま、動画を再生した。

 留美には、その曲が瑠璃リリィへと捧げられているものだとすぐにわかった。


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