174. 追いついた過去
徠夢以外の家族は皆、瑠璃が昏睡状態のまま目を覚まさないことの原因は徠夢にあることはわかっていた。頬に叩かれた手の痕があったからだ。
脳の手術をした後でなければ大丈夫だったかもしれないが、相手は九歳の子供だ。
どんな言い訳もできないだろう。
瑠璃のスマホは彼女の部屋に置かれたまま、時々母の留美がチェックしていた。事故から半年ほど経ったある日、瑠璃のスマホにメッセージが来ていた。
『リリィ もう長い間来てくれないけれど、どうしているのか知らせてほしい。
会いに行ってもいいかい? アンジェラ・アサギリ・ライエン』
「これって、瑠璃が言ってた人じゃない?」
留美は慌てて、義父未徠にスマホを見せた。徠夢では取り合わないと思ったからだ。
「留美さん、アンジェラ・アサギリ・ライエンが生きていれば、今130歳なんだよ。ありえないだろう。きっと、誰かの悪ふざけだろう。」
未徠はそう言ったが、留美は確認したかった。
「お義父さん、私、確認してみます。何枚か写真を瑠璃が撮ってきているので、比較はできますから。」
「あぁ、期待はしていないが、気のすむようにやりなさい。」
「はい。」
留美は瑠璃のスマホから、そのメッセージに返信した。
「あなたが本物のアンジェラさんか確認したいので、写真を送ってください。」
すぐに返信が来た。保存されている写真より少し男らしくなってはいるものの、確かに同じ人物に見える。
留美は、どうして瑠璃を信じてあげなかったのかと、ひどく後悔をした。
そして、こう返したのだ。
『劇場の火災の後、家で事故にあい、瑠璃は脳に障害を負ってしまいました。現在自宅で介護中ですが、意識が戻る見込みはありません。このまま急に亡くなることもあると医師からは宣告されています。最後に一度会ってあげてください。 瑠璃の母より』
このメッセージの後に住所と電話番号を送った。




