173. 繰り返される悲劇
「おっとっと…。」
ホールに戻ってきた瑠璃は使い終わった消火器を父様のところに持って行って謝った。
「父様、ごめんなさい。消火器、使っちゃいました。だから新しいのを買ってください。」
そう言って、さっきの自撮り写真を見せる。
「瑠璃行っちゃいけないと言っただろう?どうして言うことを聞けないんだ。」
「父様、さっきも言ったけど、助けられるのに見殺しにしろっていうの?」
「仕方ないだろう、過去の事なんだから。」
「そんなことない、そこに行けるし、助けられるんだし、黙って放っておくほうがおかしいよ。」
「だが、お前が危険に、」
「もう、やめてよ。アンジェラ、王様役で劇場でお芝居に出てたよ。すごいはまり役、マジ美形、ほら見てよ。これ、王様コス、最強!!」
サンドウィッチを咥えている瑠璃を見て、がっくりすると同時に、本当に昔のどこかに行っているのだと実感せざるを得ない。
「瑠璃が危ない目に合ったら、私たちが辛いんだよ。」
「じゃあ、もう帰ってこないよ。」
「何を言ってるんだ。」
「ずっと、あっちに行って暮らせば、危険かどうかもわかんないし、私も文句言われなくて済むもん。」
バチーン。と徠夢のビンタが瑠璃の頬を叩いた。
瑠璃は両目からたくさんの涙があふれ、何も言わず、部屋にとぼとぼと歩き出した。
そして、バタンとそこに倒れた。
頬を叩いた衝撃で脳の手術をした個所に問題が生じたのだ。
全身けいれんし、呼びかけても反応しない状態になってしまった。
救急車で病院に搬送し、すぐに手術が行われた。
しかし、瑠璃は昏睡状態のまま目を覚ますことはなかった。
祖父・未徠が自宅で開業している医師ということもあって、瑠璃は三か月間総合病院で入院した後、昏睡状態のまま自宅の自室に生命維持装置を設置し、祖母と母親が交代で看護を続けた。




