表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/696

172. 瑠璃(リリィ)のやり方

「あ、アンジェラお兄ちゃん。次いつ来られるかわかんないけど、帰るね。」

「あ、待って。アンジェラって呼んで。」

 ちょっと、赤面しながらアンジェラが言った。

「あ、アンジェラ…。瑠璃リリィ、おなかすいちゃったから、帰るね。」

 バットを手に取って、バイバイする。

 アンジェラの悲しそうな顔が辛い。

 瑠璃リリィは金色の光の粒子になって、その場から消えた。


 家に戻った瑠璃リリィは声をあげながらも今度はうまく着地した。

「うおっと…。」

 椅子に座ったまま、寝ていた父様が驚いて同じように「うわっ」と声をあげる。

瑠璃リリィ、外泊とはどういうことだ!」

「むぅ。だって、お兄さんすごい怪我してて、死にそうだったんだよ。黙って死ぬの見捨てろって言うの?かわいそうな人なのに…。」

 服についた血もかなりひどい、そして金属バッドについた傷も痛々しかった。

 徠夢は、父親の言葉を思い出し、なるべくやさしい口調で言った。

「そ、それで、その人はどうだった?」

「え?アンジェラ?怪我とか打撲と骨折が治ったから目が覚めたよ。

 ひどいよね、大きな剣で襲われてたんだよ。超あぶなかった。金属バットで正解よ~。」

「そ、そうか…。」

「あ、あとね。びっくりしちゃうのが、西暦1920年だって言うんだよ。

 百年も前だよ。さすがに百歳超えたら生きてないよね、生きててもヨボヨボ…。」

 徠夢はその後で、父の祖父の弟が『アンジェラ・アサギリ・ライエン』だと言うことを教えてくれた。

「そっか…ひいひいお爺ちゃんの弟…。ってどんだけ…。」

 はぁ…。とため息をついて、とりあえず着替え、ダイニングへ走る。

「お腹すいた。死ぬ。」

 父様もダイニングについてきた。

「それで、その、結婚がどうとかっていうのは、諦めたんだよな?」

「え?あきらめてはないよ。だって、父様、アンジェラは世の中で一番の美形だと思う。あれ、超えられる人いないから。マジで。瑠璃リリィがあっちに行っちゃえばヨボヨボは回避できるかな?」

「何言ってるんだ…。」

「だって、27歳って言ってたけど、どう見ても高校生くらいだったし。あと数年待ってもらえれば、瑠璃リリィももうちょっと大きくなれるでしょ。」

 用意されていたサンドウィッチをもぐもぐ食べながら、父様に思っていることを本気で話す。

「いや、そのわけのわからない理屈は何だよ…。」

「あ、そだ。検索しなきゃ。」

 サンドウィッチを口にくわえてスマホを取り出し、再度検索…。

「うそ、オペラの劇場火災で焼死だって。火事ってどうやったら助けられるかな?」

「そんな危ないところに行くのは許可できません。」

「そうだよね、火事はちょっと怖いよね~。うちに消火器ってあったっけ?」

 サンドウィッチを咥えて、スマホのスクショを撮ってスマホをポーチにしまった。そして、もう一つサンドウィッチを手に持ってホールにダッシュした。

「おい、こら待て、瑠璃リリィ。」

 父様が言う声を遠くに聞きながら、消火器を発見した。

「あるじゃん。」

 消火器の取り扱い説明を読みながらサンドウィッチをもぐもぐ…。

 読み終わったところで、消火器を脇に挟み、サンドサンドウィッチを左手に持ち、ポシェットの中に右手を突っ込んでアンジェラの髪の毛を触る。

 瑠璃リリィは金色の光の粒子になって消えた。


 視界がはっきりしてくると、目の前に王様コスプレのアンジェラがいた。背が高いので瑠璃リリィは翼を出し飛んだ状態で頭を触った感じである。周りでどよめきが聞こえる。

「あれ?なんかのイベント?」

 周りをきょろきょろ見回すと、そこは舞台の上だった。

「ゲッ、マジ?まずかった?ひぇ~。」

瑠璃リリィ…。」

 アンジェラは、こんな時なのにとろけそうな瞳で瑠璃リリィを見つめた。

 その時だ、舞台の脇の照明器具から火の手が上がった。

 舞台の幕に燃え移り、黒い煙が上がった。たくさんの客がいる劇場で、火の手が上がったのと逆の方に観客が押し寄せている。

「あ、ちょっと、これ持ってて。」

 アンジェラにサンドウィッチを渡す。

 消火器のストッパーを外して、火元の辺りめがけてレバーを握った。

 プシュー……ッ。勢いよく消火剤を噴出し、すぐに火の手を止められた。

 しかし、室内は黒い煙で咳が出る。

「ちょっと空気とかどうにか、げほっ、なんないの?げほ…」

 手のひらで顔の周りの空気をかき混ぜると、ちょっと強めの風が会場のドアを押し開け場内に入ってきた。おかげで数秒で息苦しさから解放された。

「うわ。すごいじゃん。見た?」

 アンジェラがコクコクと頷く。重たい消火器を下に置いて、自分も床に降りた時、アンジェラが跪いて、手の甲にチューしてくれた。

「うひょ~、王様にチューされたみたいでうれしい。」

 王様コスのアンジェラと自撮りした。サンドウィッチを返してもらい、もぐもぐ食べながら、自撮りに満足し、消火器を持ち上げた。

「これ、こんなところに置いておくと騒ぎになりそうだから、持って帰るね。

 アンジェラすごいね、俳優さんもしてるんだ。かっこいいよ!じゃ、またね。」

 バイバイして、その場から消えた。

 騒ぎのおさまった劇場では、拍手が鳴りやまなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ