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168. 夢の日記

 アンジェラが目を覚ましたとき、僕は彼の頬にキスをした。

 その時、僕の心は幸せでいっぱいだった。

 彼の事を救えたこと、一緒に居られたこと、彼に触れることができたこと。

 もう、これで十分だ。

 そう思ったら自分の体が消えていくのが見えた。


 瑠璃リリィが目を覚ましたのは病院のベッドの中だった。

 あれ?夢だったのかな?大きい天使のお兄ちゃんの夢だった。

 目を開けて周りを見ると、父様があわてて看護師を呼んだ。

『あ、そうだ…、頭にできた腫瘍を取り除く手術をしたんだった。』

 父様の話では、手術は成功していたけれど、私は三週間も目を覚まさなかったらしい。

 そして、目が覚める数日前に忽然と消えて、三日間行方不明になっていたんだとか。

 でも、怪我はなかったけど、パジャマの背中の部分が破れた状態で血とかでひどく汚れていて、病院の廊下に突然倒れているのが見つかったと教えられた。

 意識を回復し、一週間の入院を経て、私瑠璃リリィは自宅に戻った。

 しばらくは、手足も自由に動かないかもしれないということで、車いすで生活することになった。

 この前は手足は自由に動いたのにな。やっぱりただの夢なのかなぁ…。

 家に着いて驚いたことがあった。

 玄関から入って、エレベーターで上り、三階の自分の部屋まで車いすで父様が押してくれた。部屋のドアを開け、中に入ると…そこには知ってる女性がいた。

「北山先生…。どうしてうちにいるんですか?」

 担任の北山先生が私のベッドを整えていた。

瑠璃リリィ、何言ってるの?自分を生んだ母親にそれはないんじゃない?」

「え?母親?」

 私は混乱した。頭が割れるように痛かった。

「う、うわぁぁあああ…。」

 頭を押さえ、もがき苦しんだ。父様と北山先生は慌てて鎮静剤を私に飲ませ、ベッドに横になるように言った。

 薬を飲んで横になり、ゆっくりと息をして自分の気持ちを落ち着かせる。

『母親?うそでしょ…。』

 私は、二人が部屋を出た後、部屋の中を見渡した。

 何か違和感があった。私は、確か中学一年だった。机の棚に並んでいる教科書は小学三年のものだ。机の上に乗っていたのは自分のスマホだった。充電したまま置きっぱなしになっている。

 スマホを開くとインターネットで検索したページが開いていた。

 あれ?こんなの検索したかなぁ?

『アンジェラ・アサギリ・ライエン』

 その名前を見て、とても胸が苦しくなった。涙があふれてきた。なんだかよくわからないけど、とても大切なことを忘れているんじゃないかと感じた。

『…著名な画家であったが、戦争で被弾し即死。』

 涙が止まらなかった。

 よたよたと壁づたいに歩いて、クローゼットまで行った。

 クローゼットのドアを開けて自分の姿を見る。自分はこんな小さい女の子だったっけ?

 クローゼットの中にある一番お気に入りのブルーのワンピースに着替えた。


 机のところへ一度戻って、何かもっと情報がないか確認した。

 ピンクの表紙の日記帳があった。全然覚えていないけど、朝霧瑠璃と書かれているから自分のものだとわかる。

 内容を確認すると、一年くらい前から頭が痛くなったことが書かれていた。

 頭がすごく痛い日は、天使さんの夢を見ることが多かったみたいだ。

 天使さんのことばっかり書かれていた。

 天使さんは絵が上手。天使さんはお歌が上手。天使さんは泣き虫。天使さんは羽の形の黒いネックレスをしている。

『え、黒い羽のネックレス…この前夢で見たやつだ。』

 この前の夢はもっと具体的だった。そうだ、日記に書いておこう。

 日にちはあいまいだったけど、夢の中の体験は覚えている。

『目を開いたら天使さんの羽のネックレスを掴んでいた。大きな木でできた十字架に手のひらを打ち付けられて血が出ていた。

 天使さんが助けてって言ったから、瑠璃リリィは周りを睨んだ。やめてーって心の中で叫んだら雷がいっぱい落ちてきて、風が強くなって砂が巻き散らかされて、火をつけようとしてた人たちがいたから逃げなきゃって思ったら、白い壁の大きなお部屋に一瞬で行けた。

 絵を描く道具が置いてあるお部屋だった。

 怪我しているところを「痛いの痛いの飛んでけ~」ってやったら治った。

 うれしくって、天使さんにチューしちゃった…。』

 あっ、あれ?あ、あぁぁ…。大切な事、忘れちゃいけない事、思い出したんだった。

 私は、ずっとずっと前からあの天使さんの事が大好きで、天使さんも私の事を大好きで、いつも一緒にいようって約束してた。

『アンジェラ…。』

 天使さんの名前だ。でも、さっき戦争で死んだって書いてあった。

 うそ。もう死んじゃってるの?


 日記を書き終えて、引き出しにペンを仕舞おうとした。

 その奥の方に黒い何かが見えた。引き出しをもう少し手前に引いた。

『あっ。』黒い羽の形のネックレスだった。

 迷わずにそれを手にした。

 自分の手の先が金色の光の粒子になって、サラサラと崩れていく…。

「キャーッ」

 私の体は、悲鳴だけ残してその場から消えた。

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