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167. 記憶

 瑠璃リリィが今日は翼が生えていない背の高い男の天使にキスをした時、瑠璃リリィは頭に痛みを覚えた。

『うううっ、痛い。頭が痛いよー。』

 痛みをこらえようと、目を瞑った瞬間、瑠璃リリィは彼にしがみついた状態で、真っ白な壁の広い部屋にいることに気づいた。

『ここはどこ?』

 瑠璃リリィは周りを見渡した。部屋には描きかけの絵がイーゼルにのせられていて、絵の具が散乱している。

 手を放して、お兄さんを床に寝かせる。

 体中傷だらけで、手のひらは杭で打たれて穴が開いていた。

「うぇええ~ん。死んじゃいやだよ~。」

 慌てて、手を握り「痛いの痛いの飛んでけ~」と泣きながら何回も言った。

 気が付くと、手のひらの穴がふさがっていた。

 反対側の手も、お腹の切られた傷も全部「痛いの痛いの飛んでけ~」と言って手をあてたら、白っぽい光があふれて少しずつだけど、治った。

 夢にまで見た天使のお兄ちゃんが近くにいるのがうれしくて、瑠璃リリィは唇にキスをした。

 頭の中に、全ての記憶が蘇った瞬間だった。

「あ、アンジェラ…。」

 涙が滝のように流れ出て、言葉なんか出てこなかった。

 目の前で、死にかけていた僕のアンジェラ。思いだした。

『僕には色々な能力ちからがあったんだ。君を助けるために、生まれてきた僕が。君のために使う能力ちからが…。』

 瑠璃リリィはアンジェラをベッドの上に転移し、三日三晩つきっきりで彼の看病をした。

 時々口に含んだ水をキスして口移しで飲ませた。

 他にどこか悪いところがないか、全身くまなく調べた。

 服を脱がせ体を拭いて、きれいな下着に取り換えた。

 まだ、小学三年生の体の瑠璃リリィは、たいしたことはできなかったけれど、一生懸命にアンジェラのために何かをすることで、自分が生きていた証を残したかったんだと思う。


 食べるものが無かったので、瑠璃リリィは家の近くの草原で、キイチゴをたくさん摘んできた。

 キイチゴを洗ってカップに入れ、ベッド脇のテーブルにの上置いた。

 四日目の朝、ようやくアンジェラは目を覚ました。

 眩しそうに眼を開けたアンジェラの瞳が、朝の光を反射してとても美しかったのを、瑠璃リリィは絶対に忘れないと思った。

 アンジェラは、少しだけ目に涙を浮かべて、瑠璃リリィの方に手を差し伸べた。

 瑠璃リリィは、アンジェラの手を握り、頬にキスをした。

「早く元気になってね。アンジェラ、愛してるよ。」

 その瞬間、瑠璃リリィは金色の光の粒子になって空気中に消えて行った。


 アンジェラはテーブルに置かれたキイチゴを食べ、どうにか自力で動けるまでに回復したのだ。

 アンジェラは自分を助けてくれた天使を探した。

 彼女が消えた時の様子を何枚も絵に描いた。絵を見た人が自分もその天使を見たと情報を提供してくれるかもしれないと思ったのだ。

 狂ったように天使の絵を描き続けた。

 天使を見たという人は現れなかったが、絵は飛ぶように売れ、アンジェラの画家としての地位は確立されていった。

 ある日、絵を買ってくれた貴族の男が、知り合いが魔女狩りの日に現れた天使の話をしているのを聞いたと教えてくれた。


 火をつけられる直前に、現れた小さい子供の天使は、落雷で会場をパニックに陥れ、嵐を呼び、視界を遮ったかと思った時に、張り付けにされていた青年を抱きかかえ消えたというのだ。

 そうだ、あれは夢でも幻でもない、現実に自分に起きていたことだったんだ。

 アンジェラは大学で芸術系の講義をしながら、自分でも絵を描いていたが、大学に勤めて二十年経っても容姿が変わらないことを、陰で噂されていた。

 もっと早く見切りをつけて、違う土地で人生をやり直しておくべきだった。

 眠り薬を盛られ、意識がないままにどこかに拉致され、十字架に張り付けにされ、燃やされて命が消える直前だった。

 殆どない意識の中で、濃いラピスラズリの様な美しい瞳が覗き込んできたことが思い出される。

 もうろうとする記憶の中で、何度もキスをされた。

 私、アンジェラ・アサギリ・ライエンのために涙を流してくれた…小さい天使。

 私は、名前も知らない小さな天使の事ばかり考えて残りの人生を歩むこととなる。

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