166. 瑠璃(リリィ)
麗佳は度々瑠璃から夢で見た話を聞いていた。
『背のとっても大きな、すごい顔のきれいな男の天使さんが、すごく泣き虫でメソメソするの。』
『その天使さんは、絵がとても上手で、リリィの絵も描いてくれるの。』
『その天使さんは、お歌も上手なの。』
『その天使さんは、黒い羽の形のネックレスをしてるのよ。』
リリィはいつも背の高い男の天使の話ばかりしていた。その話に出てきた黒い羽の形のネックレスを麗佳がリリィの家の地下書庫で見つけた時は、本当に驚いた。
それを手に取って届けなければ、と思ったのだ。
麗佳が「これで、お空飛べるよ。」と言い終わったときに。
瑠璃の体に異変が起こった。
瑠璃の体が黄金に輝き、羽の形のネックレスを持たせた手の先から、サラサラと砂のように崩れ落ち、消えてしまったのだ。
ネックレスだけが病院のベッドの上にポトリと落ちた。
麗佳は慌ててネックレスをポケットにしまい、両親の元へ走った。
「パパ、ママ、瑠璃ちゃんが、消えちゃった。」
泣きながらそう伝えた。
麗佳の両親と瑠璃の両親が病室に駆け付けた時には、瑠璃はその場におらず、消滅してしまっていた。
警察を呼んでの大騒ぎとなった。
病院の廊下に設置されているセキュリティカメラには何も映っていなかった。
忽然と消えた娘に、瑠璃の両親は泣き崩れるしかなかった。
その時、瑠璃は意識のない状態であったが、夢の中で十字架にはりつけにされているいつも夢で見る天使のネックレスを触った状態で宙に浮いていた。
すぐ近くで、今にも足元の木材に火を放とうとしている男たちが、瑠璃の出現に驚き、数歩下がった。
今日は翼が出ていない天使のお兄ちゃんは、弱々しい声で、『助けて…』と言った。
瑠璃が周りを見渡すと、たくさんの人々がそれを見物していた。
『魔女を早く殺せー。』と言っている人もいる。
瑠璃は頭に来た。とにかく腹が立った。
何も悪いことをしていない天使さんを、殺そうとするなんて…。怒りで頭が爆発しそうだった。怒りを込めた目で周りを見ると、次々と雷が落ちた。
かわいそうな天使さんに抱きつくと、嵐が起こり見ている人たちをなぎ倒した。
瑠璃はずっと本当に会いたいと思っていた天使さんに触れている喜びで、思わず彼の頬にキスをした。
夢だったら覚めないで欲しい。瑠璃はそう思った。




