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165. 変わってしまった過去

 ライルは、その前日、自分自身に赤い目で暗示をかけたことを覚えていない。

 彼は、過去に戻り、自ら由里拓斗を始末していた。

 そして、その日あったことを自分自身に全て忘れるように鏡を見ながら暗示をかけた。

 アズラィールが部屋に入ってきた後に起きた出来事だった。

 それにより、全ての運命が変わっていった。


 ユートレア小国の二人の王子のうち、一人は誘拐された。誘拐されたニコラスは、馬小屋に火を放たれ焼け死ぬ寸前、通りがかりの人物に助け出され、その後その家で大切に育てられた。ニコラスは、薬を調合する民族であり、変化へんげの能力を持つ民族の一人であるカイルに命を助けられ、拾われたのだ。


 ニコラスは成人し、カイルとシェリルの娘レイナと結ばれ、双子が生まれた。

 フィリップとルカと名付けられた二人は、母方の血を継いでいるのか、成人後年齢を重ねても老いることがなかった。

 同じころ、ユートレアの王が流行病で亡くなり王位についたアンドレは、五年間王として国を治めた後に、隣国の刺客に毒を盛られてこの世を去った。


 ニコラスは、四十代で仕事中の怪我が元でこの世を去った。

 フィリップは変わってしまった過去と同様に幼くして覚醒し、その能力が原因で弟のルカを未来に置き去りにしてしまった。

 フィリップは母方の親族から妻を娶ったが、自身の子は持たず、弟ルカを自分の息子として大切に育てた。

 ルカは大人になり、住んでいる地区に流れる大きな川を利用した輸送を行う船を買い商売で大成する。ルカも母方の親族の中から妻を娶り、双子の男児に恵まれた。

 それがマルクスとアズラィールだった。

 しかし、フィリップは未来で何かを見てきたようで、アズラィールをもっと先の未来に置いてきてしまった。そして、マルクスにアズラィールを息子として育てるようにと指示をした。

 その後フィリップは、度々未来に行き未来の様子を伝える預言者として王族に仕えた。

 しかし、ユートレア小国の反逆分子らに邪魔者として暗殺されてしまう。

 マルクスは家業の薬草を調合する仕事をやりながら、父のルカの船での運送業も手伝い、家業は大きく繁栄していた。

 マルクスも母方の親族から妻を娶り、過去から連れて来られたアズラィールの他に女児をもうけた。

 ルカは、自身のもつ天候を操る能力を隠していた。

 マルクスとアズラィールは覚醒していなかった。アズラィールは子供の時に、祖父ルカが船での運送業を拡大した際、その外国への輸送に初めて同行した。訪れた日本という国で薬草を仕入れに港に来た日本人の親子と知り合い、家に招かれた。滞在はわずかな期間であったが、その時体調を崩したその家の娘をルカの船で来日したドイツの医者が手術することになった。

 幸運な運命により、命を取り留めた娘は十代半ばになった頃、ドイツへ留学したいと懇願し、当時は珍しかった留学を果たす。


 責任者として船に乗ったアズラィールは二度目の外国航路の際に、復路に乗っていたその娘と再会し、恋に落ちた。娘の名は朝霧鈴。

 二人は、その後ドイツで結婚するのだが、船がドイツに着いた時、アズラィールの実家は魔女狩りと称した暴動で火を放たれ、ルカとマルクスは亡くなっていた。

 幸い、商船を何艘も所有しており、商売を立て直すために半分の船を手放し、商家を建て直した。どうにか火災から逃げ延びた妹を見つけ出し、近くに住まわせた。

 成人後、ドイツで大学を出た朝霧鈴と結婚し、二人の息子をもうけた。

 二人はライディーンとアンジェラと名付けられた。

 アズラィールは三十代半ばで癌を発症し、あっという間に亡くなってしまった。

 ライディーンは薬学を学び、家業の薬局を継いだ。アンジェラは芸術に長けており、自身も絵を描きながら、大学では芸術系の教鞭をとった。

 商船事業は、アズラィールの妹のアンナおばさんの娘婿が切り盛りしてくれた。


 傷心の母を気遣い、ライディーンは母と共に日本へ渡ることを決意する。

 母・鈴の実家も薬局を営んでおり、自分の開発した薬も定期的に船で運んでいた。

 ライディーンは少しの期間を日本で過ごし、ドイツに帰るつもりでいたが、日本で母方の従妹に会い、恋をした。

 母とそのまま日本に残り、息子が二人生まれた。二人は徠央と徠輝と名付けられた。

 ライディーンは日本名を徠神と名乗り、薬局の仕事をうまく拡大した。

 ライディーンと徠輝、そして鈴、鈴の両親は第一次世界大戦の空襲で死亡した。

 生き残った徠央は、一時母方の親族に引き取られ、成人してから焼けてしまった実家の跡地に戻った。最初は小さい離れに住んでいたが、役人となり、面倒を見てくれた親族の娘と結婚し、双子の男児が生まれた。未徠と左徠である。

 徠央は両親の残してくれた財産で医者になった未徠のために医院を建て、膨大な敷地に大きな屋敷を建てた。

 左徠は未徠と同様医学を志した。大学を卒業後、研究所で病原菌の研究をしていたが、研究所での感染事故で帰らぬ人となってしまった。

 未徠は勤務医時代に勤めていた病院で看護師をしていた亜希子と結婚し、双子の男児が生まれた。二人は徠夢と徠人と名付けられた。徠人は五歳の時、身代金目的に誘拐され殺害された。未徠は妻との間にもう一人男児を授かった。その子は母ににた黒髪、茶色い瞳で、名を徠太という。

 徠夢は動物が好きだったことから、獣医を目指し、大学在学中に幼馴染で三歳年下の女性と彼女の妊娠を機に結婚した。

 生まれたのは、女の子で名前を瑠璃と書いてリリィと読む。彼女の瞳が瑠璃色だったからだ。

 リリィは父親に似た金髪、碧眼の活発な子だったが、小学三年の夏休みに突然倒れ、脳腫瘍が発見された。

 開頭しての大手術を受け、意識が戻らないまま病院で眠り続けた。

 その時、一度不思議なことがあった。

 徠夢の三歳違いの弟徠太も大学卒業後にすぐ結婚した。子供は女の子で、父と同じ黒髪と黒い瞳のおとなしい子だった。名前を麗佳れいかという。

 父徠太は実家の朝霧の家からは独立し、東京都内のマンションで暮らしていた。

 数か月に一度は実家に帰り、両親や兄徠夢夫婦と食事をする程度だが、実家との関係は悪くはなかった。

 徠太は姪の瑠璃リリィが脳腫瘍で病院で手術を受けた数週間後に、妻と娘を連れ実家を訪問した。

 その時、幼稚園の年長だった麗佳は祖父母の家の地下書庫で、一つだけ色の違うボックスに興味を持ち、ボックスを引っ張り出した。

 中には封筒に入った首飾りが入っていた。

 麗佳はその首飾りをポケットにしまった。


 徠太夫婦と娘の麗佳は、実家から瑠璃リリィが入院している病院に見舞いに行った。徠太夫婦と徠夢夫婦が別の場所で病状について話しているときに、麗佳は瑠璃リリィが寝ているそばで、ポケットから先ほど見つけた羽を模した首飾りを取り出し、瑠璃リリィの手に握らせて言った。

「リリィちゃん、ほら、天使の羽見つけたよ。これで、お空飛べるよ。」

 その首飾りは、アンジェラが戦死した際に身に着けていたものだった。

 遺品としてライディーン宛に送られてきたものだった。


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