161. 夏休みの企み(三)
朝、ゆっくりしてから起きようと決め込んでいたが、思いもよらぬ方法で起こされた。
ベッドの中がモゾモゾ動き出した。ん?ホラーみたいな…ヤバいのが出てくるのか?
寝ぼけた頭で目の焦点を合わせる。ブランケットの隙間から出てきたのは…。
「ぷはぁ~。」
マリアンジェラだった。そして、後ろから、ミケーレも出てきた。
「きゃははは、まっくらだった。」
実に楽しそうだ。こっちまで笑っちゃうよ。
「どうしてベッドの中から出てくるんだよ。」
「目覚ましサービス。」
そう言って二人で僕の体を触りまくる。
「ちょ、や、やめてっ、くすぐったくて…ぎゃはははっ。やめ、っやめてよ。」
「じゃあ、やめるからあそんで~。」
「わかった。シャワー浴びたら遊んでやるよ。でも、リリィに言ってきたのか?」
「きゃはは~、言うの忘れたね。」
「忘れたね~。」
仕方がないので、パジャマのまま父様の部屋に子供たちを連れて行き、十五分でシャワーを浴びるので、ちょっとみててとお願いした。
寝起きの徠夢は二人を抱っこさせられて固まったいた。
「おじいちゃん、あそぼ~」
「あそぶよ~」
二人にせがまれ、言いなりになっている徠夢だった。
「何してあそぶんだい?」
「かくれんぼ。」
「いいね~、かくれんぼ。」
「じゃあ、おじいちゃん隠れていいよ。」
徠夢は客間に二人を置いて、別の部屋にどこか隠れるところがないか、考えながら移動した。あ、そうだ!今ならライルがシャワーを浴びているうちに、王の間に隠れられるんじゃないか?そう思った。
そーっと廊下を歩いていき、王の間へ入る。
他の部屋とは違い、歴史を感じる造りだ。調度品も絵画も全て古いが手入れが行き届いているようだ。
カーテンが閉まっていて、部屋全体が暗い。部屋を入ってすぐの壁にいくつかスイッチがあったので、触ってみた。窓のカーテンが自動で開いた。室内の間接照明が点く。部屋の壁面の真ん中に下がっていた幕が左右に分かれて開いた。
そこには、この城の最後の王の肖像画がかけられていた。アンドレの肖像画だ。
その横には二人の天使の結婚式の絵がかけられていた。アンジェラとリリィだ。
徠夢は隠れるのを忘れて、その絵をぼーっと眺めていた。
「おじいちゃん、みっけ。」
ミケーレが言った。なぜか、北山先生に抱っこされている。
「あ、北山先生、おはようございます。」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「あ、あの…かくれんぼをしてて、隠れようと思って入ったら昨日ライルが言っていた王の肖像画がありまして。圧倒されちゃいました。」
北山先生が、半開きのドアを開けて中に入ってきた。
「あっ。えっ?王様ってアンジェラさんですか?」
「ちがうよ、王さまはアンドレ。あっちの絵はパパとママ。」
マリアンジェラが後ろから入ってきて説明している。
そこに、シャワーを終え着替えたライルがタオルで頭を拭きながら浴室から出てきた。
「にぎやかだな。どうしたの?」
「かくれんぼ。」
「おじいちゃん、次、おにだよ。」
「ミケーレ、おじいちゃんお風呂入るから、次は僕とチェスやろう。」
「うん、いいよ。持ってくるね。」
ミケーレは北山先生に床に下ろしてもらうと、マリアンジェラと一緒にどっかに走って行った。
「ライル、この絵は?」
「あぁ、こっちはアンドレが王様やってたときに有名な画家に描いてもらったやつ。で、こっちはアンジェラとリリィ。アンドレは自分のじゃないけど、同じ顔してるアンジェラのでいいからリリィとの結婚式の絵が欲しいって言って、飾ってるんだよ。」
「すごい、似てますね。アンジェラさんとアンドレさん。」
「まぁ、似てますよね。さすが、血縁恐るべしです。」
そこへ、アンドレとリリアナが廊下から入ってきた。
「あ…。」話題の主が登場してしまった。
「ライル、マリアンジェラ知らないか?」
「チェス探しに行ったよ、どっかその辺にいると思うけど。」
「朝食の途中で逃げたんだ、あの二人…。」
部屋から出て行ったアンドレとリリアナを見て、北山先生が固まっている。
「驚かせてすみません。今のアンドレとリリアナです。」
「王様?とリリアナ?」
「はい、王様とリリアナ。」
「…ん?」
頭にいくつもの?をくっつけながら北山先生は部屋に戻って行った。
結局、ミケーレとマリアンジェラは城のダイニングで朝食のイチゴをもぐもぐ食べているところを捕まって、強制連行されていた。
騒がしい一日の始まりである。




