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160. 夏休みの企み(二)

 僕はユートレア城の王の間で寝るふりをして、ちゃっかりアンジェラの家に行った。

 僕とリリィはいつでも元通り、融合して一人の人間リリィに戻れるのだ。

 子供たちを寝かしつけてから、アンジェラがワインを飲んでいるリビングへ行った。

「リリィ、こっちにおいで。」

 あれ、僕がリリィの中に入っていることに気が付いてないのか?

 アンジェラの横に座ると、アンジェラは優しく抱き寄せてくれた。

 あぁ、やっぱり元に戻りたいな…。ちょっとバツが悪い気がして、僕は一度リリィから抜けて、今転移してきたようにキッチンの辺りに出現する。

「ん、ライル、眠れないのか?」

 アンジェラがやさしく聞いてくれる。

「まぁね、日本じゃまだ昼間だしね。それよりさ、おいしいワインとグラスを2つ父様のところに持って行っていいかな?」

 アンジェラがニヤニヤしながら、パントリーの中のワイン用貯蔵庫からおすすめのワインを持ってきてくれた。

「これも、持って行っていいぞ。」

 そう言って、コールドプレートを冷蔵庫から出してくれた。

「うわ、めっちゃうまそ。」

「ライル、夏休みの間だけでも、ずっとこっちにいられないのか?」

 アンジェラがそう言いながら、僕の腰に手を回す。ぶれないな、アンジェラは…。

「そりゃ来たいけど、父様が許さないよ。」

「相変わらずか?」

「まぁね、人間そうそう変わらないよ。それにわかったんだ。あの人、恋愛経験ゼロだからさ、アンジェラにべったりくっつく僕を理解できないんだよ。そのくせ嫉妬深い。」

 リリィが、うんうんと頷いている。

「あ、そろそろ行くよ。じゃ、また。ありがと。」

 僕はそう言ってその場を後にした。ユートレア城の父様の泊っている客室のドアをノックする。『コン、コン』

 ドアを開けると徠夢が機嫌の悪そうな顔でこちらを見る。

「父様、どうしたんですか?顔、こわいですよ。」

「どこに行ってた?」

 どうやら、王の間に行ったが、僕がいないことに腹を立てているらしい。

「あ、あの。アンジェラにおいしいワインとコールドプレートを父様と北山先生に持って行ってほしいと言われて、取りに行ってたんです。はい、これ。おすすめのワインらしいです。コールドプレートもおいしそうですよ。」

「え?そうなのか…。私はてっきり…。」

 そうそう、そのてっきりは当たっているとも。僕はリリィとして一晩過ごそうと思っていたよ。悪かったよ。心の中で呟いた。

「父様、一緒に北山先生の部屋に行きましょう。ちょっと話したいこともあるんで。」

「お、おぅ。」

 父様の泊っている部屋の隣の客室をノックする。

「あ、北山先生、今って入っても平気ですか?僕と父の二人なんですが…。」

「はい、大丈夫ですよ。」

 ドアが開くと、短パンとTシャツに着替えた先生がいた。似合わねぇな、古城と短パン。うはは、父様の顔が赤い。ウケる…。

 テーブルの上にワインとグラス、コールドプレートを置いて、わざとらしく言った。

「あ、僕の飲み物とお皿とフォーク持ってきます。」

 言い終わると同時に城のキッチンに転移する。皿とフォークとジンジャーエールとグラスを持ち部屋に戻る。

「うわっ。う、うそ。」

 北山先生が白目がちで後ずさっている。

「ですよね~。目つぶってもらうの忘れてました。ハハ…」

 とりあえず、これが僕の能力の一つだということを説明した。


 そういえば、ちゃんと話してはいなかったんだよね。今後のことを考えてもう少し説明しておくことにした。

「まぁ、ワインでも飲みながら聞いてください。」

 そう言って、二人のグラスにワインを注いだ。

 たまたま偶然、バロンを介して北山先生の血液に接触してしまい、助けることになったこと、僕には血液に触れると、その血液の持ち主が命の危機に面している場面に転移してしまうことから話し始めた。さらに、傷を癒す能力があり、北山先生のお腹の刺し傷は、傷がないと立件できないと思い、傷は深いところだけを治し、警察に電話をかけたこと。バロンの記憶から、犯人が見えたこと。などを順を追って説明した。

 傷がなかなか良くならず、トライアスロンを断念すると聞いて、お見舞いに行ったときに傷を完全に癒したこと。朝霧の家に橘ほのかを連れてきたときには、僕は女性になっていたことなども説明した。

 北山先生は驚きながらも真剣に僕の話を聞いていた。

「ライル君、どうしてこの話を私にしてくれるの?」

「先生は誰にも僕のこと話さず今まで心に留めてくれてたでしょ。それに、不思議だと、知りたいと思っていたから、うちに遊びに来たいって言ったんじゃないですか?」

 北山先生は、僕が言ったことを否定しなかった。

「先生が知りたがってたこと、教えますよ。」

「ライル、でも、それは…。」

「大丈夫ですよ、父様。先生はこれからも僕たちの味方でいてくれると信じていい人だと思いますから。」

 僕は小学校を休んでいるときに北山先生が家に来た時の話をした。

「あの時、僕は女性になっていたと、さっき言いましたが、それは少し事実とは異なります。」

 僕は、壁に向かい「ちょっと来て」と言い、リリィを呼び出した。リリィが僕の横に現れる。

 僕は父様たちの方へ振り向き、出現したリリィへと歩み寄ると一人のリリィになった。父様が悲鳴にも似た声をあげる。

「ライル!どこに行ったんだ!おい、出てこい。」

 今度はリリィからライルに見た目を変更する。

「父様落ち着いて、僕はここにいますから。」

 そして、また二人に分離する。ライルで父様の肩を抱いて、話を続ける。

「まぁ、父様がさっきみたいになっちゃうんで、分離してでも僕が戻る必要があったというところでしょうか。ねぇ、父様。」

「だって、諦められるはずがないだろう。たった一人の大切な息子が急に女性になって十歳以上も成長して、男と結婚するって、許せるはずないよ。」

 父様が動揺しながら震えてそう言った。

 僕は、まだ女性としての個体もあり、並行的に存在していることを説明した。

「リリィ、忙しいのにごめん。」

「大丈夫。呼ばれると思ってたから。父様、先生、おやすみなさい。」

 リリィはお辞儀をし、その場から消えた。

 北山先生は、少し微笑んで父様に向って言った。

「ライル君の事、本当に大切に思ってるんですね。」

 父様が少し赤面しながらも頷いている。


 事情を話したことで、父様と北山先生は少し距離が近くなったようだ。

 その後は世間話に花を咲かせ、北山先生は、僕の学校での超クールな態度について、女子生徒は僕を「王子様」と呼んでいて、男子生徒は「魔王」と呼んでいるらしいと教えてくれた。

「うちは、元々この城の王族の家系だから、王子は間違ってないよね。でも魔王は言い過ぎなんじゃない?」

 僕がふざけた感じでそう言うと、北山先生が目を輝かせて言った。

「このお城って、ライル君の…。」

「えぇ、今はアンジェラが所有していて、元は五百年くらい前の先祖がここの王様です。王の間に肖像画がありますよ。明日、見てみます?」

「え?いいんですか?」

 すごくうれしそうだ。


 深夜三時を過ぎた頃、そろそろ翌日のために寝ましょうと言って父様と一緒に自分の部屋に戻る。まぁ、ちょっと機嫌を取るつもりもあったのだが、父様に抱きついて頬にチューをして「おやすみなさい」と言ってあげた。

 ものすごくうれしそうだ。ちょっと罪悪感を覚える。

 その後は静かに就寝した。


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