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158. ライルの新たな日常

 日本の朝霧邸では、リリィとアンジェラが使っていた部屋をライルが使うことになった。

 机の棚にはライルの日記が置いてあった。

 ライルはそれを一つ一つ読み返していた。

 悲しいことも、辛いことも、楽しいこともいっぱいあった。

 あんまりマメには書いていなかったけど、これは僕の歴史でもある。

 ここに書かれているすべての事を忘れてはいけないと思った。


 まだ体が本調子ではないが、数日様子を見ても急に女性になったり翼が出たりすることはなく、ちゃんとコントロールできるようになっていた。

 父様と相談して、六月から学校に行くことにした。

 小学四年から学校には病気で療養中ということにしており、その後イタリアに行ってからは、海外に留学中となっていた。

 今の年齢からすると、僕は中学一年に編入することになる。

 父様が徠輝達が通っていた私立の中学校に編入の申し込みをしてくれた。

 申し込み後学校から連絡が来て、編入試験を受けた。

 合格の通知をもらった後、担任になる先生と一度面談をするということで、父様と二人で中学校の校舎へ出向いた。


 二〇二五年五月三十日、金曜日。

 徠輝、左徠、ライラは、もう高校生になっており、同じ私立の高等部に通っている。

 僕も編入の許可が下りたので、前日までに制服を用意し、面談の日を迎えた。

 指定された午後一時に、父様と一緒に学校を訪問する。

 事務室の人に案内された応接室で待つこと三分、担任の先生が入ってきた。

「え?北山先生ですよね?」

「はい。ご無沙汰しています。」

 小学校の担任だった北山先生が、私立中学の教員に転職していたのだ。

 僕は、少し気まずいという感情が先にきた。

 北山先生の記憶は消していない。アンジェラから、僕が北山先生の傷を癒したりしたことを徠人が話した上で、能力の話も知っていると聞いている。

 どう出てくるのか…。最初に北山先生が口を開いた。

「あの、ライル君。あの時は本当にありがとう。おかげで競技が続けられるくらい傷は回復したの。でも競技は結局やめちゃったんだけど。」

「え、そうなんですか。でも体に傷が残らなくて良かったです。」

 ライルがそう言うと、少し顔を赤くして北山先生が頷いた。

 一応、決まり事なので、ということで面談が進められた。

 どこの国にどれくらいの期間留学していたのか、家族構成、得意な科目、苦手な科目、聞かれるままに答える。

「イタリアに三年、現在は父と祖父母と姉、その他に従兄弟や大叔父などが多数同居中です。得意な科目、苦手な科目は特にありません。」

「小学生の時もしっかりしていたけど、今もしっかりしているのね。」

「さぁ、どうでしょう。」

 六月二日月曜日から登校することになった。

 最後に先生に握手を求められ握手する。北山先生の瞳が緑色に燃えた。

「ん?」

 僕と父様はそれを見て、お互いを見て首を傾げた。

 一度能力をもらった相手でもまた何か受け取ることがあるのだろうか?

 北山先生は、最後に僕らに言った。

「今度プライベートでお家にお邪魔してもいいでしょうか?」

「よろしかったら、いつでもどうぞ。」

 父様が答えた。


 六月に入り、中学への登校が始まった。

 家からは少し距離があるので、徠輝たちと一緒にアズラィールが車で送ってくれる。

 学校の表門の前で四人も生徒を下ろしているのはうちの車くらいだ…。

 しかも、他の生徒たちがやたらとジロジロこっちを見る。

「おい、おまえら何かしでかしてるんじゃないだろうな?」

 僕が徠輝達に言うと、左徠が平然と言ってのける。

「ライラがアンジェラとジュリアンが親戚だってバラすから、校内の空気が変になったんだよ。」

「ライラ、おまえ…。」

 言われたライラは目が泳いでいる。

「ねぇ、ライルってなんだか以前とイメージめちゃ違うんだけど、どうして?」

 徠輝が地雷を踏んだ瞬間だった。静電気の帯電した空気が徠輝に触れ、バリッと音を立てる、徠輝はふらついて地面にしゃがみこんだ。

「や、やだ。何するの?徠輝が死んじゃうじゃないの!」

 ライラが慌てて徠輝を支える。

「僕はリリィじゃねーんだよ。お前らが見たことあるのは全部リリィだろが。」

 何の動作もせず、ライルは能力を使った。腹が立ったからだ。

 自分の命を削って助けたこいつらが、何も考えず、自分の家族であるアンジェラやジュリアンを危険に晒す原因になりかねないと思ったのだ。

「なーんてね。びびった?ちょっとさ、生まれたばっかりで、能力ちからの抑制がうまくできないんだよね。頭にくると色々やっちゃいそうで自分が怖いよ。ははは。ごめん、ごめん。」

 そう言いながらも、僕の目は笑っていない。これはこいつらへの警告だ。

 その時、誰かが頭の中に話しかけてきた。

『やめろって。そんなに感情を表に出すなよ。』

 リリィの思考が干渉してきたのだ。

『ごめん』

 今、ライルとして動き回ってるのは、感情のタガが外れた人格だった。

 常に気を遣い、他人のために尽くしてきた感情を抑え込んだライルとは真逆の存在だった。


 三人と昇降口で別れ、職員室に行った。

 初日は担任の北山先生と一緒に教室に入ることになっている。

 職員室の中のミーティングスペースに座らされて、先生を待っていると、教頭先生が来た。

「おはようございます。朝霧ライル君ですね?」

「あ、はい。おはようございます。」

「今までたくさんの生徒を見てきましたが、編入テストで全教科満点を取ったのはあなたが初めてです。期待していますよ。」

「恐縮です。」

 手を抜いたほうがよかったのか…やりすぎて注目を集めてしまいそうだ。

 ほどなく、北山先生が来た。

「ライル君、緊張してる?」

「イヤ、全く…。」

 顔色を少しも変えずそう言った僕に、少し驚きつつもやさしく微笑んでいる先生に僕は少し好感を持った。


 教室に着くと、あいさつの後、先生が僕を紹介する。

 ライラと従兄弟が高等部にいると先生が言うと、教室がざわついた。

 ここにも噂が広まってるのか…。

 まぁ仕方がない。自己紹介をしろというので、釘を刺しておこう。

「朝霧ライルです。イタリアに三年留学して戻ってきました。

 知ってる方も多いと思いますので、言っておきますが、アンジェラ・アサギリは義理の兄です。僕や家族に関しての私生活についての質問は一切お断りします。」

 クラスが静まり返る。いい感じだ。

 座席を教えてもらい着席する。


 最初の授業は数学で、簡単すぎて意識が遠くなりそうだった。そんな時は、もう一つの自分の方に意識を向ける。リリィ達は遅い夕食を食べているのか、ミケーレの食べず嫌いに手をやいていた。アンジェラが口にブロッコリーを大量に突っ込まれている…、ミケーレがやったみたいだ。

 まずい、面白すぎて顔がにやけてしまう。

 下を向いて息を殺して笑っていると、当てられてしまった。

 笑いをこらえていたせいで少し顔が赤い、黒板の前に出て式と答えを書く。

 くそ、面白いところだったのに…。

 そんな感じで、僕は上の空のまま学校生活を過ごしていた。


 小学校の時とほぼ変わらず、学校にいる間は、僕は一人での時間を過ごしていた。

 自分から話しかけず、避けているので、全く問題はないのだが、ある日、昼休みに窓際の自席で校庭を見ながら、もう一つの意識に集中しているとき、話しかけてきたやつがいる。

「朝霧君…。」

 女の声だ。振り返るとどっかで見たことのある女が近づきながら声をかけてきていた。

『橘ほのか』だ。

 同じ学校だったのか…、くそ。その時だ、急に橘がお腹を押さえ、動きがぎくしゃくしたかと思ったら、トイレの方向へ消えていった。

 う、マジ?ウケる。徠人のかけた暗示が、本人が死んでも有効って、すごいな。


 家での生活は以前よりは父様と関わることが多くなった。

 父様は毎日夕食後に勉強を教えてくれる。

 全然教わる必要はないのだが…わからないふりをして教えてもらっている。

 なので、編入試験で満点とったとかいうのも全部、父様は自分のおかげだと思っているのだろう。そうしておけば、機嫌がいい。

 夜遅い時間は左徠の部屋へ行って勉強を教えてやっている。

 左徠はアズラィールが通っている医大を目指しているらしい。何気にしっかりしている。

 徠輝とライラは平均的な成績らしい。しっかりしている雰囲気はまるでないな。


 授業が終わる時間が高等部と異なるため、僕はトイレの道具入れなどからいつも転移して帰ることが多かった。

 何も変わらないまま、あっという間に夏休みになった。





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