146. 誕生日パーティーと消えた日記の行方
四人で階段を下りてゆくと、左徠、徠輝、ライラ、アズラィールなどが立食パーティー用の台と食べ物を運ぶのを手伝っていた。
アズラィールがアンジェラに抱かれていたミケーレに駆け寄ると、ミケーレが嬉しそうに微笑む。
それを見た左徠が、僕に抱っこされてたマリアンジェラに近づいてニンマリしていった。
「お姫様みたいだね。」
それを聞いたアンジェラがぼそり…。
「みたいじゃなくて、うちの子お姫様と王子様だよ。ユートレアの。なぁ?アンドレ。」
数分前に到着して後ろに控えてたアンドレにアンジェラが話を振る。
「確かに、百年前に行けば王位継承権第一位の王子ですね。継承する王子がいなくて国を統合したので、今頃王様になってますよ。」
まぁ、そんなこと言ったらここにいる全員が王子様なんだけどね。
実際の王太子殿下に言われると、皆シーンとなってしまった。誰だよ、地雷踏んだのは。
そんな空気を一掃するようにミケーレがピアノを指さして弾きたいとアピール。
おっ、いつもの仕込み芸を披露するのかな?
ミケーレはパパに抱っこされたまま、キラキラ星を弾き始めた。
その可愛さにみんなメロメロ…からの~強烈な現象を引き起こす…。
自分で弾いた時に出したのは初めての、青い薔薇…。しかも、これは薔薇の枝じゃないっていう木や柱にまで花が咲いた。
弾き終わったときの皆の拍手にご満悦のミケーレ。
その中でもお婆様は涙を流して崩れ落ちていた。徠人がこのピアノで弾いていたんだった、キラキラ星…。
一瞬盛り上がったところで、未徠からお祝いの乾杯の音頭が取られた。
それぞれの飲み物を用意して、全員がお誕生日のこの日にみんなでそれぞれを祝う。
たくさんのお料理と、大きな四角いケーキ。
かえでさんが作ってくれたそれらは、とてもおいしかった。
二足歩行ができるようになったミケーレとマリアンジェラは自分の好きなところに行っては興味をそそるものをチェックしている様だ。
パーティーが始まって二時間ほど過ぎた頃、飽きてきた二人がアンジェラによじ登り始めた。その速さに皆、目が点だ。
「あははは、将来はスポーツクライミングの選手かな…。」と僕が笑って言うと、横から冷たい言葉がそれを遮った。
「行儀が悪いぞ。」
はぁ…やっぱりきたか、難癖をつけに…。それは、徠夢だった。
アンジェラは何も気に留める様子もなく、「かわいいだろ?」と頭からマリアンジェラをはがして抱きかかえ徠夢に見せる。
マリアンジェラは絶対作ってるであろうあざと可愛さを全面に押し出したキョトン顔で、徠夢をのぞき込み目をそらすと、アンジェラに向ってぼそりと呟く。
「マリーはぱぁぱとけっこんするの。ね。」
アンジェラ、破顔状態。しかも、自分から振ってないのに一発芸を披露した娘にメロメロだ。
そのスキに僕は少し徠夢から距離を取ろうと二歩ほど引いた。
引いたのだが、徠夢の手が僕の手首を掴んだ。
「ちょっとこっちに来い。話したいことがある。」
出た~。デジャブ?また暴力?殺される?
無言で引っ張られる僕、掴まれている手首が痛い。
そこへ、ミケーレが走ってきて、徠夢の足にしがみついた。
「いたくしちゃ、だめ。リリィが泣いちゃう。」
徠夢は一瞬立ち止まり、僕の方を見てからまた目をそらし、開いている方の手でミケーレを足から引きはがした。
「危ない…。」
よろけるミケーレを支えようとするが、手首を掴まれていて動けなかった。
僕は転移した。掴まれている手を振りほどくために。
ミケーレが転ぶ前に抱きかかえることができた。
「ミケーレ、大丈夫?痛いところない?」
「うん。」
「危ないから、パパのところにいてね。」
「やだ。」
いやなのかーい。そこで徠夢が一言言って立ち去った。
「地下書庫にいるから、来い。」
また、元に戻れとか言われるのかな?はぁ…。胃が痛い。
アンジェラのところにミケーレを連れて行った。
「父様に地下書庫に呼ばれたから、ミケーレをお願いできる?」
「私も一緒に行こう。」
「でも、ミケーレとマリーを置いておけないし…。」
「一緒に行けばいい。」
アンジェラはそう言って、二人を抱っこしてついてきてくれた。
地下書庫に入ると徠夢が椅子に座って待っていた。
アンジェラの方をちらっと見るが、それには何も言わなかった。
「用はなんですか。父様。」
鋭い視線で徠夢が僕を見る。こ、怖い…。段々体が震えてきた。
「これについて、説明しろ。」
徠夢は僕の日記ノートをテーブルの上にバサッと置いた。
父様が持っていたんだ…。
「何を説明して欲しいんですか?それは僕の日記です。」
「作り話を書いて楽しいか?」
「作り話ではありません。僕達に実際起こったことです。忘れちゃってる人もいるようですが…。」
「お前には虚言癖もあるのか?」
「…。」
そこでアンジェラが口を挟んだ。
「徠夢、おまえどうしちゃったんだ?」
「アンジェラ、お前が言ってることの方がおかしいだろ。」
全く話がかみ合わない。
「父様、もうやめてください。僕に何も期待しないで下さい。僕には何もできることはありません。日記に書いてあることの真偽なんて、そんなに重要じゃないですから。」
僕は、自分の思いを吐き出した。それを言い終わったとき、徠夢が僕を殴った。
しかも、グーで。脳が揺れた。僕はその場に倒れ、意識を失った。
ミケーレとマリアンジェラが泣き出して、僕の体にすがりついた。
アンジェラが未徠をホールに呼びに行った。
未徠が僕の脈を取り、意識がないことを確認し、救急車を呼んでいる。
僕は、それを少し離れたところから見ていた。また、体から魂が出てしまったようだ。
僕の魂はクローゼットの中に引きこもることにした。
本当にもう、僕にはできることが無くなってしまった。
数分後救急車が僕の体を乗せて走り去った。
アンジェラはマリアンジェラとミケーレをリリアナとアンドレに託し、救急車に一緒に乗って病院へ行ってしまった。
「リリアナ、リリィが泣いてる。」
マリアンジェラがそう言って徠夢の方を見た。床に下ろしてもらい、自分の足で歩いて徠夢のところに行った。ミケーレもアンドレに抱っこされていたのを下ろしてもらい、徠夢の方に行った。
「さっきのところにいっしょに行こ。」
マリアンジェラは徠夢の右手、ミケーレは左手をとり手を繋いだ。
そして地下書庫に転移した。
「えっ?お前たちまでこんなことができるのか…。」
二人はそれには答えない。
マリアンジェラは徠夢の右手を握ったまま、日記に手を触れる。
「マリーが見せてあげる。」
マリアンジェラの腕が金色の粒子になってサラサラと崩れ落ち、その手と繋いでいる自分の手まで崩れていく…。
「なっ…。」
目の前が一瞬真っ白になった後、徠夢は視界に入っているもの、聞こえているものが自分の体ではなく、自分の息子ライルの中に入っていると気が付くまで、数分かかった。
自分の意思に関係なく体が動く、自分の意思に関係なく頭で考えていることが流れ込んでくる…そして、自分が今いる場所は、移動させる前のライルの部屋だ。
リリアナとアンドレが書庫に少し遅れて転移してきた。
そこにはミケーレが一人で立っていた。
「ミケーレ、マリーと徠夢はどこに行った?」
「それ触って、キラキラになっていなくなった。」
ミケーレは日記を指さす。
「過去に行ったんだわきっと。それだと追えないわ。」
二人はミケーレを連れ、日記を持ってリリィの部屋に行き、棚に日記を仕舞った。
アンドレはアンジェラに電話をかけて経緯を報告する。
「後でミケーレを連れてこっちに来てくれ。」
アンジェラはそう言って電話を切り、リリィの手を握った。




