144. 楽しい日常
翌年三月三十日土曜日。
子供達も生後十か月を過ぎ、つかまり立ちや一メートルくらいなら飛んで移動できるようになった。しかし、この翼を出して飛べるのが微妙に面倒である。
危ないところでも、どこでもふらふらと近づいていく。
捕まえていないと危険だ。
マリアンジェラはやたらと活発で、動くものに興味を持つ。
そして、今彼女の最大の興味を引いているのが『パパ』だ。
とにかく背が高いので、パパの頭にしがみついていれば、普段見られないような景色を見られるということに気づいてしまった。
アンジェラも過保護というか超甘いので、許してしまうのが良くないと思うが…。
その時は突然やってきた。
風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながらアンジェラが子供たちの前に来ると、さっそくアンジェラの頭めがけてマリアンジェラがよじ登り始めた。
絶対将来スポーツクライミングのチャンピオンになれそうな感じがする。
でも、濡れてるところにくっつかれるのが嫌で、僕が途中でマリアンジェラを引きはがして床に座らせた。
「マリー、パパは今濡れてるから、あとにしよう。ね。」
そうしたら、絵にかいたような駄々をこね始めた。ひっくり返って手足をバタバタ。
そして、「ぱぁぱ~」と言った。
うひゃ~。これは、アンジェラさん泣いてしまうんじゃないでしょうか…。初めての言葉が「パパ」ですもん。
アンジェラを見ると、うわっ。こういうキャラだっけ?と思うような顔面崩壊的な号泣。
その顔は世の中のアンジェラファンを減らすかもしれませんよ。
いいもの見させてもらいました…。
その次の日に今度はミケーレがリリアナに離乳食を食べさせてもらっていたのだが、意外に好き嫌いが多く、次の一口は自分で指さしたものを指定する感じだ。
「ん。」と言って指さす。お前はどこぞの社長か?
リリアナも面白がって、わざと違うものを食べさせようとしたりして、様子を見る。
二回目までは間違えても首をぶんぶん横に振るだけで大丈夫そうだったが、三回目には
スプーンを奪い取って自分で食べていた。できるなら最初から自分で食べようよ。
ミケーレはまだ単語は出てこないようだ。
記憶を辿って、そういえば僕じゃない子供が、あの朝霧邸のグランドピアノで少しピアノを弾いてる記憶を見たことがあった。後から思い起こせば、あれは徠人だった。徠人がお婆様とキラキラ星を弾いていたんだ。
思い出すといてもたってもいられず、ミケーレをサンルームのピアノの前に連れていき、抱っこして一緒にピアノに触れさせた。
僕がキラキラ星を右手だけで簡単に弾くと、ミケーレも一本指だけれど、マネして弾いてくれた。それを見ていたアンジェラは親ばか丸出しで「天才だ」と言っていた。
言いたい気持ちはわからなくもないけど、ちょっと恥ずかしい。
こんな楽しい日常が、これからも続きますように。




