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138. 救出

 十か月もの間行方不明になっているアンドレとリリアナを探すため、僕は一人で過去に転移した。それは、二人が多分日常的に訪れていた時期のアンドレが二十歳になる前の時代だ。ただ、アンジェラとの約束があるため、なるべく危険の及ばない場所をと考えた。

 封印の間だ。僕はそこで恐ろしい光景を見た。

 血が、床一面に飛び散っている。

 今まで、どんなに怪我をした者がそこにいても、この封印の間は汚れたりしたことはなかった。その者がここから去る時に、血液だって消えていたはずだ。

 血液に混ざって羽が落ちている。

 きっとアンドレかリリアナに違いない。

 あの二人がそろっていて、一体何が起きているんだろう。

 意識があれば、絶対にどんな状況も回避できるはずだ。もし、自分もとらわれたら…そう思うと恐怖を感じずにはいられなかった。

 しかし、リリアナは僕の一部だ。アンドレはアンジェラの一部だ。その二人を決して見捨てることなど出来ない。

 そして、僕は今まで感じたことのないような怒りが体の中から湧き上がるのを感じた。


 僕はまず、床に飛び散っている血に触れた。

 僕の指先から順に体が光の粒子になり砂のように崩れて消えていく。

 一瞬の後、僕はアンドレの体の中に入っていた。意識は失っていない。

 どこだ?僕は、以前意識がない者でしか体を動かすことができなかったことを思い出し、少し失敗したと思った。しかし、今回は少し違った。目線を変えることもできる。指を動かすことも…。

 そこは、大きな大聖堂とも呼べる教会の祭壇の上だった。

 体が麻痺するような毒を盛られているのか…、首など、動くことは動くが鈍い動きだ。

 十字架に貼り付けにされている。天使を十字架に張り付けるなど、どういうことだ。

 あぁ、なんか嫌な記憶が蘇ってきた。天使を殺して、その血肉を食らえば、永遠の命が手に入るとかいうデマが書かれてたな、あの本に。

 そういう俗説を信じている奴らに捕まってしまったのか…。

 先に毒を盛られ、動けなくしてから拘束したのだろう。

 横には、リリアナも同様に張り付けられている。リリアナは意識がないようだ。


 この状況から、アンドレが攻撃する能力がないことを知っていると伺える。

 話を聞くために、眠らせていないのだろう。

 僕はなるべく小さく視線を動かし、周りを確認した。

 この場にいるのは合計八人。ほとんどが五メートル以上離れている。

 いっぱいエネルギーを補充してきたので、暴れるのには十分だろう。

 僕は何の躊躇もなく、張り付けられている右手を外した。一部だけの転移とでもいうのだろうか、あまり動くと目立つだろうからね。外した腕を軽く振り下ろす。一瞬でその場にいた男たちの体を雷の十字架で床に縫い付ける。地面から茨が這い出てきてそいつらの腕を、首を、足を十字架に巻き付ける。

「ギャー」

「助けてくれー」

 叫んだ男たちの声に反応し、別の男たちが入ってきた。

 飛んで火にいる害虫達っていうのは、お前らのことだ。と脳内で吐き捨て、同じように雷の十字架に張り付ける。

 僕は容赦なく、大聖堂に何発も雷を落とし、火をつけた。

 そして、リリアナのところに行き、胴を掴んで封印の間に転移した。

 さっき僕が行った時より数か月前の封印の間だった。

 僕が中に入っているアンドレはかなり出血していた。

 封印の間に入ったことで、僕がアンドレから分離する。

 出血の多いアンドレから傷を癒す。拷問されたのか、剣で斬られたような跡や、鞭で打たれた傷がある。

「あぁ、かわいそうに、アンドレ。しっかりして。」

「…リ、リ…。」

「わかってる。大丈夫。リリアナも治すよ。ここにさえいれば悪化はしないから。」

 ある程度癒したところで、次はリリアナだ。

 剣でつけられたような傷はないが、首に、内側に向って針が突き出ている輪がはめられていた。くそ、何てことするんだ。

 僕は、その首輪だけをつまんで少し後方に転移した。よし、外れた。

「痛かったね。ごめんね。遅くなって。」

 そう言いながら、首や、擦れたあとなどを次々と治していく。

 あとは、毒とか睡眠薬みたいなものか…。

 やはり、そういったものは手をかざしても患部があるわけでもなく、体全体が黒ずんで見えるだけだ。

 どうしよう…。そう思いながら、アンドレの傷をまた丁寧に癒しているときだった。

「本当にごめんね、僕には力が足りないみたい…。」

 そう言って、思わずアンドレの額にキスをした。

 キスした個所からアンドレ全体に、眩い真っ白な光があふれ出て、アンドレを包んだ。

 その光が、あたたかくアンドレの内側にも浸透していく。

「なんじゃこれ?」

 思わず馬鹿っぽい声を漏らしてしまったが、次の瞬間アンドレが目を開けた。

 僕の膝に乗せられてだらしなくぐちゃぐちゃになってたアンドレが、目を開けて言ったんだ。

「リリィ、言葉遣い、悪いですよ。」

「えっ?えーっ。そこつっこむ?痛いな~もう。」

 慌てて、ぐちゃっと下ろしちゃったじゃないか…。スマン。

 もしかしたら、これってマリアンジェラの女神の能力?

 すぐにリリアナにも額にキスをして試す。ピカーとキスしたところから白い光があふれ出て、アンドレのときと同じで体全体を覆い、その後内側に浸透していった。

「う、ううっ。ん。げほっ。」

 リリアナも目を覚ました。

「よかったー。リリアナ。どうなるかと思った…。」

 僕は思わずまだぐったり気味の二人を両手で抱き寄せてむぎゅっとしたのだった。

 アンドレは「ぐえっ」って言ってたけど、出血が多くて言葉は出せなかったのかな…。

 ちょっとぎゅっとしすぎて、羽も少し抜けちゃってた。ははは。


 とりあえず、家に帰ろう。

 僕は二人をぎゅっとしたまま、現代のアトリエのど真ん中に転移した。


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