表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/696

136. 消えた二人

 僕が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

 腕に点滴のチューブが繋がれて、心拍を図るための計器も接続されている。

 僕の寝ているベッドに突っ伏して疲れた顔をし、眠るアンジェラがいた。

「アンジェラ…。」

 彼の手を握ると、目を覚まして僕を見た。

「リリィ、よかった。五日間も眠っていたんだよ。」

 アンジェラの話では、僕はストレスと摂食障害による貧血で倒れたらしい。

 点滴で少し回復しているが、栄養のあるものを食べて休養をして、無理をしないようにと医者から言われたそうだ。

 数日後、僕は退院してそのままイタリアの家に帰った。


 気を失う前に自分の記憶があいまいになってとても不安になった。

 アンジェラにそのことを言うと、アンジェラは真面目な顔で僕を諭した。

「もし記憶が変わってしまっていたら、それはもう真実なんだろう。

 でも、二人がお互いのことを想う気持ちは今までも、これからも変わらないと信じてる。」

 それには僕も同意するほかなかった。そんな中、僕は、家にアンドレとリリアナがいないことに気づきとても不安になった。

「アンドレとリリアナはどこにいるの?」

 僕が聞くと、アンジェラは少し間をおいて言った。

「彼らは、三日前に過去のユートレアに行ったまま戻って来ていない。」

「えっ、どうして?」

「わからない、私には確認することもできないからな。」

「僕、行かなきゃ。」

「ダメだ。今は行くな。」

「どうして?」

「動き回るとお腹の子供によくないと医者から言われているんだ。」

「でも…。」

「大丈夫だ、城はちゃんと存在しているし、城を私が所有しているのも変わっていない。肖像画も確認させたから、アンドレの存在はちゃんとここにもいた証明にもなるだろ?

 彼らの部屋もそのままだ。何か事情があるんだろうが、何年前に行っているかもわからない。」

 確かに、何年前に行っているかわからなければ、やみくもに探し回っても見つけられるはずがない。僕は、アンジェラの言う通り、今は動くべきではないと考え従った。


 二人からの連絡がないまま、月日が流れていった。

 アンジェラが僕の心情に配慮してくれて、なるべく僕の日本の両親には関わらないようにしてくれていた。

 今までが、転移で簡単に行っていただけで、転移を使わずに行こうと思うとそんなに簡単にはいかない。

 そんなわけで、彼らからもこちらに訪ねてくることはなかった。

 電話やメッセージは完全に無視した。時々アンジェラはアズラィールと未徠には近況を報告していたようだ。

 世の中との関わりを断っているせいか、時間がゆっくり過ぎていった。

 家の事や食事の世話はアントニオさんと従者の人たちが全部やってくれた。

 アンジェラは仕事の拠点をイタリアに移し、出かけても二時間後には必ず帰宅してくれた。アンドレとリリアナが不在でジュリアンの仕事ができない事を心配したが、僕が七か月間徠人の体に入り復讐に奔走していた時に、何本もの映像を撮りだめしていたらしく、しばらくは大丈夫だとアンジェラが教えてくれた。

 今はゆっくり体を大事にしなければ…。

 僕は一日のうち半分以上を眠って過ごした。


 やはり、あの宗教団体や、テロリストの脅威は去ったのか、誰も連れ去られたりするような被害はないようだ。

 これでアンドレとリリアナがいてくれたら、穏やかな日々なんだろうな…。

 やっぱり、寂しい。僕の一部が無くなってしまったようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ