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132. 払うべき代償

 五月二十五日木曜日。

 黒い翼の天使の中に入っている僕は封印の間で静かに休んでいた。

 怪我をしているわけではないが、外にいると、食事をしていないので体力も気力もどんどん消耗している。唯一、この封印の間では、老いることも怪我や疲労が悪化することもなかった。

 自分には向き合わなければいけないものがある、とはわかっているが、あえて見ないふりをしていることがある。

 それは、今、隣の玉座に座らされている自分の体の中にあるという小さな命だ。

 本当だったらもうかなり大きくなるはずだが、この封印の間にいる間は成長もしない。

 そして、僕は怖くてそれを見ることが出来ないでいた。


 たくさん眠ったし、次の行動に移るとしよう。

 僕は百四十七年ほど前のドイツに転移した。

 先週もマルクス関連で来たばかりだがアズラィールの住んでいた小さな町だ。町の様子は全然見なかったが、一番最初に転移した先がここだった。

 写真立てを触ってこっちに来ちゃったときはびっくりしたな~。

 などと思い出しながら、屋根の上で待っていると、五人の若者がたいまつに火をつけて歩いてくるのが見えた。

 それを察したのか、裏庭の方でガサガサと草がすれる音がする。

 逃げたんだな、まぁ、自分がやっていることだから、今更違う結果にはならないと思うが…。

 目の前で「魔女を殺せ~」と叫びながらたいまつをアズラィールの家に投げ込んでいる男たちを見つめる。

「そろそろいいかな…。君たち。」

 その男どもの後ろにすっと降り立ち、話しかける。

「な、なんだオマエは。」

「名乗るほどの者ではない。…さあ、こっちを見ろ!」

「あ、悪魔…。」

「さぁ、お前たち。せっかくだから今やった様に、自分の家にも同じことをしてはどうだ。」赤い目を使って指示を出す。

 男たちは木の棒を探しはじめ、燃え盛るアズラィールの家の炎から棒に火を移すと、「魔女を殺せ~」と言いながら、自分たちの家にも火を放って行った。

 みるみる家は灰になり、けが人はいなかったものの、火を放った当人たちは放火の重罪で厳しく罰せられた。


 そして、次に僕は隣町の薬屋へと転移する。

 いきなり中に入ると、中ではこの魔女騒動の請負人が報酬を受け取っているところだった。

「ほほぉ、ずいぶんとたくさんもらったものだな…。」

「誰だ、貴様。」

「名前を言っても覚えていられないだろう?さあ、せっかくもらったその金は、今すぐ孤児院にでも寄付してきたまえ。」

 赤い目を使って指示を出し、もう一つ付け加える。

「魔女騒動を起こした理由を役所に言いに行け、そして罪を償え。わかったな。」

 金を受け取った男は頷き、瞳に赤い輪を浮かび上がらせた。

 薬屋の店主はそれを見て、剣を抜いて僕に切りかかってきた。

 僕は転移して距離をとる。

「オマエの作る薬のせいで、今後たくさんの死者が出る。この店は今すぐ廃業し、お前も魔女騒動の罪を償え。この店はお前が燃やした家の家族に無償で提供しろ。いいな。」

 薬屋の主人の目に赤い輪が浮かび上がった。

 さぁ、これくらいでいいだろうか…。

 僕は、僕の親族を命の危険にさらした奴らに、代償を払わせることで自分の気持ちに折り合いをつけた。

 これで、疫病で死ぬ人もかなり減るだろう。そして、それはこの地域のためにも役立つはずだ。

 今日のところはこれくらいか…。

 疲れた体をかばいながら、封印の間に戻った。

 そのまま、またしばらく眠りについた。


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