131. 罪と罰
五月十九日金曜日。
黒い翼の天使は、百五十年ほど前のドイツの田舎町に来ていた。
遠くから三人の若者を観察するためである。
若者たちは普段から賭け事や遊びに夢中で、ろくに仕事もせず、ゴロツキのような生活をしていた。
そこに、あのドクター・ユーリの手下がやってきて、この男を知らないか?と似顔絵を見せた。その似顔絵はマルクスだった。
若者たちはその男が町に戻ってきたら、拉致して引き渡すことで金を手に入れた。
拉致当日、男たちは建物の影に潜み、マルクスを確認すると袋を頭に被せ、棒で上から殴りつけマルクスの意識を刈り取った。
そのままマルクスを拉致した男たちは町はずれの農作業小屋にマルクスを連れて行き、ドクター・ユーリの手下に引き渡した。
男たちは悪魔の面をつけていた。マルクスを引き渡し、報酬の残り半分を受け取ると、面を作業小屋に放り込み、火を放ちその場を去った。ここまでは前回見に行った時と同じである。それを見ている過去の自分たちの姿も遠巻きに見ながら、慎重に時を待つ。
過去の自分たちがその場を去り、いなくなったところで、行動に移す。
マルクスを拉致した三人の男の前に翼を広げて舞い降りる。
「な、なんだおまえは…。」
「さあな、この国ではなんと呼ばれているのだろうな…。悪魔か、天使か…。」
「何?ふざけんな…。」
「おい、目が赤いぞ、黒い翼…、お前何者だ?」
「さっきオマエ達が売った男の親戚だ。対価を払ってもらおうか。」
彼は雷の十字架で男たちを地面に串刺しにし、地面から茨のツルを出し、男たちを貼り付けにした。
そして、男たちに近づくと、顔に手を当てた。顔の皮膚は増殖を始め、赤いごつごつとした硬いものへと皮膚が変化し、生え際からは角が一本、または二本生えてきた。
あごはしゃくれ、歯が牙のようにせり出し、男たちの容貌は先ほど脱ぎ捨てた面のそれと同じようになっていた。
しかし、それはもう脱ぎ捨てることなどできない。
「わー、助けてくれ。」
「命までは奪わない。ただ、その顔で一生悔いて生きるがいい。」
彼は、そのままその場を後にした。
その後、男どもは村の別の若者達に「悪魔」とののしられ、家に火を放たれ焼死した。
黒い翼の羽の色が少し薄く変わってきている。
あと少し、このまま僕のできることをやりたい。
僕は封印の間でしばしの休息を取った。




