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123. 父と息子の休日と実験

 いよいよアズラィールの親子旅行も残り二か所の滞在となった。

 と言っても父が連れていくのではなく、息子が色々手配してくれているのだが…。

 スペインのイビザ島にある海が見える別荘に着いた。

 アンジェラ自身もここに来るのは久しぶりらしい。

「すごいいい景色だな~。どうしてここにはあまり来ないんだ?」

 アズラィールのその問いに、アンジェラはあっさりと答えた。

「家でリリィと一緒にいた方が楽しいからに決まってるだろ。」

「あ、そういうことですか…。」

 そういえば、一昨年には日本の朝霧邸に入り浸って帰らなくなっていたっけ…。

 なんだかすごく昔の事のように思うが、まだ二年も経っていない。


「アンジェラは大学受験しなかったんだったよね?」

「あぁ、リリィと同じ大学に行きたくて勉強していただけだからな。一人で行っても仕方がないし。そもそも、私は大学の教授をしていたこともある。大学は三回くらい卒業しているから、勉強したいわけではないしな。」

「え?そうだったんだ…。」

 自分の息子の事ながら知らなすぎる…。

「暇な時間が多いとまた絵を描きたくなるな。ただ、私の場合は、見たものしか描けないから、モデルがいないとダメだが…。」

 そういえば、天使の絵ばかり描いて財を成したと聞いたことがある。

 自分にできることがあまりにも少なすぎて、消化不良を起こしそうだ。

「アンジェラ、僕に何かできることがあったら言ってくれ。」

「あぁ、そうするよ。」

 アンジェラは、昔アズラィールが、妻やもう一人の息子徠神を置いて、三年もかけて命がけでアンジェラのために日本からドイツに帰ったことを知っている。

 たとえ年齢が逆転しても、それは変えようのない事実で、起きたすべてのことが今の自分を形成しているとわかっている。

 逆に、あの時、アンジェラがドイツに来ていなければ、今のアンジェラの地位や財産や人間性は作られなかった。自分だけ長く生きて、その分辛いことも多くあったけど、その分幸せもいっぱい感じられる人生になった。

「ありがとう。父上。」

 そう言われて、赤面するアズラィールだった。


 突然、ドアがノックされた。ドアを開けると、リリアナとアンドレが手をつないで立っていた。

「これから、散策に行ってこようと思っているんですが、いいですか?」

「あぁ、もちろん。私たちも少し後から出るよ。」

 そう言って二人を先に行かせる。

「あの二人、仲いいね。」

「あぁ、見てると腹立つくらいイチャイチャしてるぞ。ハハハ」

「え?」

 一応、見えてはいたんですね。と思うアズラィールだった。

「私がアンドレと一緒に外に行くと騒ぎが大きくなるのが面倒なんだ…。」

 確かに、身長の差は少しあるが、横に並んでも同じ人にしか見えない。

「そういう時はどうするの?」

「ジュリアンになってもらうのが一番簡単だな。それとも、父上とアンドレで何か別の者になってもいいんだぞ。ふっ。」

「え、誰でも合体できるの?」

「アンドレもリリアナも多分できるよ。」

 アンジェラが、すごい興味ありそうな顔をしたアズラィールを後で実験台にしようと心の中で思ったのはここだけの話である。


 少ししてからアンジェラとアズラィールは散策に出た。

 温暖な気候もあるが、過ごしやすい季節で外の空気も気分がいい。

 アンドレからメッセージが来た。

 海沿いのレストランで昼食をとらないかというものだ。

 アンジェラは「そこに行くのでジュリアンになって入っていてくれ」と返信した。

 レストランの前に行くと、中ではなく入り口の外でジュリアンになって待っていた。

「どうした?中に入っていればよかったのに…。」

「子供だけじゃ入りにくくて…。」

「悪かったな。最初から来ればよかった。」

「いえ、大丈夫です。二人で歩きたかったし。」

 レストランに入ると、アンジェラの顔を見て、店の従業員は大慌てで一番いい席を用意する。頼んでいないのにVIP扱いだ。

 他の客にカメラを向けられることも多い。さすが、ヨーロッパが活動拠点のアーティスト…。とアズラィールは若干引き気味だった。


 ところが、夕方になりホテルに戻ったアズラィールに日本の左徠や徠輝、ライラからメッセージが大量に届いた。

「ひどい、自分ばっかり」by ライラ

「僕も行きたかった」by 左徠

「ぬけがけ!!!」by 徠輝

 などなど…どうやら今日の外出時にジュリアンとアズラィールの食事しているところがSNSなどに大量に出回ったようだ。

 しかも、アズラィールのことを年上の恋人と書いたネットニュースまで出ていた。

「恥ずかしくて、近所を歩けない。」

「やっぱり、アンドレとアズラィールの合体を試すべきだったか…。」

「どうしてアンジェラは書かれないのさ。」

「ジュリアンの事務所の社長で、親戚だと公表しているからだ。」

「そうだったのか…。」

「嫌じゃなければ、アンドレと合体してどうなるか、試してみないか?」

「なぜ、アンドレなんだ?」

「私が二人ると困るからにきまっているだろう?」

「あ、そうか…。」

「いや、リリアナとの合体も試してもいいぞ。見てみたい。以前、リリィも金髪組と合体したらどんな風になるのかって気にしていたからな。」

 アンジェラはアンドレとリリアナを電話で呼び出し、合体の実験を申し出た。

「面白いですね。」

 とアンドレは言ったが、リリアナは不思議そうな顔をして言った。

「同じ遺伝子が合わさっても同じにしかなんないんじゃないの?」

 リリアナとアズラィールの話である。確かに、その可能性はある。

「ますます試してみたくなるじゃないか…」

 アンジェラはちょっと半笑いで言った。

 リリアナがアズラィールに近づき、一指し指で唇をぷにっと押す。

 赤い光の粒子が二人を包み、一人の形を形成した。

「「えーーー?」」

 アンジェラもアンドレもひっくり返るほど驚いた。

 そこには少年ライルがいた。正確には十歳くらいのアズラィールというべきか…。

「なぜ小さくなる?」

「わからない、父親じゃなければ抱きしめるところだが…。」


 次に合体を解いたアズラィールにアンドレが近づき、唇を人差し指で押す。

 やはり赤い光の粒子が二人を包み込んだ。

「ん?」

「これは…金髪のアンドレというところか…。」

 あまりにもアズラィールの影響が少ない意外な実験結果に少し残念がるアンジェラとリリアナだった。

「他のも実験したくなりますね。左徠連れてこよっかな…。」

 マジ顔のリリアナが前のめりでそう言っていた。

 変な余興のような盛り上がりに笑いが途絶えない夜となった。

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