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120. アンジェラ親孝行する

 四月二十日木曜日。

 県内の医学部に合格し、春から医学生になったアズラィールが、ゴールデンウィークにヨーロッパに旅行したいとアンジェラに言ってきた。

 アンジェラは快く承諾すると、せっかくなのでアンジェラの持っている別荘に泊まればいいと言って手配した。

 アンジェラがアズラィールに確認する。

「それで、何で移動するつもりだ?飛行機?リリアナ?」

「実は、航空券がものすごく高いんだよね。リリアナに頼めるかな?」

「大丈夫だろう…。特に予定は入っていない。いい機会だから一緒にアンドレとリリアナも旅行したらいいと思う。」

「ありがと。助かるよ。」

 普段使っていないスペインとフランスの別荘を管理している従者に予定を知らせ、部屋と食事の用意をするよう連絡を入れる。

 そういえば、リリィと一緒にいるようになってからはあまりあちこち行かなくなったな。

 今の方が簡単に行けるのに…。


 アンドレとリリアナに旅行の事を知らせて、予定を調整する。

「ついでに次のジュリアンの動画も撮っておきたいんだ。」

「はい。大丈夫です。衣装を用意していただけるとありがたいです。」

「幻想即興曲を練習しておいてくれ。」

「はい。わかりました。」

 オフの時間も有効活用しなければ…。


 すぐに出発の日になった。

 衣装はいくつか用意されたが、リリアナは、その中でもロリィタ系の中性的なスーツがお気に入りの様だ。

 最初に宿泊するのはフランスの田舎町にあるシャトー・ド・エールダンジュ「天使の翼城」という名前のシャトーホテルだ。

 そのホテルの会議室に転移すると、スタッフにスィートルームに案内された。

「アンジェラ、宿泊は別荘って言ってなかったか?」

 アズラィールがスィートルームに動揺して、アンジェラに聞く。

「あぁ、ここは私が所有しているんだが、居室が多いので遊ばせておくのも勿体ないから、ホテルとしても営業しているんだよ。ちょうどスィートが空いていたから、今日と明日はここに滞在して、ワイナリーや遺跡を見て回るといい。」

 金には困っていないと言ってはいたが、どれだけの規模で実業家としてやっているのか…。アズラィールは自分の息子ながら、少し恐縮した。

 部屋に入ると、アンジェラがアンドレとリリアナに早速、衣装に着替えてホテルのロビーにあるグランドピアノを弾いて撮影をしたいと言った。

「そうですね、じゃあ、先に撮影しちゃいましょう。」

「父上、あ、いやアズラィールは撮影を手伝ってくれ。」

「あ、あ、うん。オッケー。」

「今回は貸し切りではないので、一般客もいる。なるべく映り込まないように配慮してほしい。」


 撮影が始まった。

 最初にその場にいたホテルの客たちに撮影をさせていただくが、なるべく大きな音は控えていただくようにお願いした。

 値段の張るホテルらしく、キャーキャー騒ぐような人はいなかった。

 逆に、ただで話題のジュリアンを生で見てピアノを聴けて、みなうっとりとしていた。

 ジュリアンのピアノもどんどん上達している気がする。もちろん、クラシックのプロにはさせるつもりはない。

 ピアノの演奏を撮り終わったら、入り口の前に広がる薔薇の庭園での散策の様子を撮影した。今回は同行したアズラィールと一緒に回って花を愛でている様子を撮影した。

「最後におまけで、アズラィールとジュリアン、背中合わせにくっついて目を閉じてくれないか?」

「うえ~、恥ずかしいよ。」

 アズラィールはそう言ったが、タダで旅行に連れてきてもらっている手前、拒否はできそうもない。渋々承諾する。

「なんか、こう言っちゃなんだが、左徠にやっぱり似てるな。」

「当たり前だろ。今更言うな。」

 あっと言う間に撮影は終了し、データを東京の事務所に送った。


「今日のメインはレストランでの食事だな。」

「楽しみ~。」

 アンジェラの言葉に、アズラィールはウキウキである。

「フランスは十八歳以上飲酒オッケーだからな、お前たちも飲んでいいぞ。とっておきのワインを出してやる。」

 そう言って地下の蔵から数本ワインをアンジェラ自ら持ち出してきた。

 すでに合体を解除しているアンドレとリリアナはお上品にコース料理を堪能していた。

「さすがにリアル王子とお妃様は違うな…。」

「そんなことはないですよ。こっちの方が断然おいしいですし。」

 腰が低い、リアル王子である。

「ところで、この旅行ってみんなには言ってあるのか?」

「あ~、徠夢には言いましたけど、他には徠神しか言ってないですね。」

「大丈夫なのか?」

「え?何がですか?」

「一人だけずるい、とか言いそうな小娘がいるだろう?」

「あ、まぁ大丈夫ですよ。僕とアンジェラは親子なので、親子の旅行にまでは割り込んでこないでしょう。」

 その日は、四人で普段言わないような愚痴をこぼし、楽しく一日を終えたのだった。


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