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117. 徠夢と徠人

 四月十五日土曜日。

 特にこれといった予定もない週末、徠夢は朝霧邸の地下書庫で、整理をしていた。

 他のボックスと色の異なる整理用のボックスを見つけ、ふと過去にこのボックスを開けた記憶があることにハッとする。

「なんでこれを開けたんだっけか?」

 独り言を言いながら、ボックスを棚から引き出し、中を確認する。

 あっ、これは徠人が子供の時に使っていたおもちゃの自動車が入っているボックスだった。

「これを触ったらライルがどこかに消えたんだったな。」

 なんだかものすごい遠い昔の記憶のようだ。

「ん?ちょっと待てよ。なぜ、誘拐された徠人がこの車のおもちゃを持っていたんだ?

 なぜ、それがここにあるんだ?おかしくないか?」

 一度は疑問に思ったものの、すっかり忘れていた。

 もし、誘拐されたときに持っていたとしても、ここにあるのが変だ。

 そういえば、朝霧の当時の従者が一人、一時重体になるほどの怪我を負ったと誘拐事件の資料に書いてあったな。

 家の中に共犯者がいたのではないかという可能性に思い至った気がする、そうだとすれば、それは誰なのか?自分があまりに非力で落ち込むな。ライルなら、その場その場で危ない橋を渡ってでも解決していくだろう。僕は何を考えてるんだ…。

 そんなことを思いめぐらし、ふとリリアナのことを思い出した。

 あの子だったらこのおもちゃの車がどうしてここにあるのかを調べることができるのか?

「いや、危険な目に遭わせることはできない。」

 独り言がやたらと口から出てしまう。最近、家にたくさんの家族がいてにぎやかではあるが、そのにぎやかさとは逆に徠夢は孤独を感じていた。

 どんな姿でもいい、ライルが帰ってきてくれるなら…。いや、ライルが僕の元に帰ってくることを望んではいけないのだった。思わず目頭が熱くなる。

 馬鹿みたいだな、今頃こんな気持ちに毎日落ち込むなんて…。

 背中に、誰かが手を置いた。ゆっくり、とんとん…となだめるように。

 ゆっくりと振り返った先に、大きな黒い翼を広げた徠人がいた。

 真っ赤な瞳、蒼白な肌、髪は銀髪へと変わっていた。

「徠人…。どこに行ってたんだ。心配したんだぞ。体は大丈夫なのか?」

 彼の手を掴んで思わず早口でまくし立てた。

「オマエでもそういうこと言えるんだな。ふふっ」

 何だか、全てを見透かされた様な言葉に恥ずかしくなった。

 彼はボックスの中のおもちゃの車を手に取るとニヤリと笑うと青い光の粒子になって消えてしまった。コトッと音を立てて、おもちゃの車がテーブルの上に落ちた。


 僕、徠夢は、ぼーっと書庫でそのおもちゃの車を眺めていた。

 五分ほど経っただろうか、目の前にまた徠人、彼が現れた。テーブルに腰かけ、足を組み、僕の顔を細めた赤い目で見つめて言った。

「金に目がくらんで、俺を誘拐した男にはぎりぎり死なない程度の感電で手を打っておいた。これ、親父に返しておいてくれ。」

 そう言って三億円の入ったアタッシュケースをテーブルに置いた。

「あ、あとな、緑次郎の家族を殺した奴らと、徠牙を斬ったやつも処分しておいたから、アズラィールに教えてやってくれ。」

「徠人、お前いったい何をやっているんだ?」

「俺の中に溜まりに溜まった怒りと苦しみ、そうだな怨念とでも言うべきか。そういうものを浄化してるのさ。やったやつらにやり返すことでな。」

「し、しかし…、それは…。」

「気にするな、今起こっていることではない。過去に起きたことだ。全てすでに終わっていることだ。」

「…。」

「オマエ、ライルに帰ってきてほしいとさっき願っただろ?」

「なんで、そんなこと…。」

「それは、叶えられない。残念だが、あいつはもうここには戻らない。」

「どういう意味だ?」

「さぁ、どういう意味かはそのうち分かるさ。たまには会いに行ってやれ。」

 そう言うと、彼は跡形もなく消えてしまった。


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