113. 遭遇
四月九日日曜日。
徠人が消えてもうすぐ一週間が経つ。
この日アンジェラはリリアナに自分を封印の間へ連れて行き二時間したら迎えに来てほしいと頼んだ。
リリアナは快く引き受けすぐにアンジェラを連れて転移した。
そこは、相変わらず、寒くも暑くもなく、空気の流れも感じない空間で、意識を失っているリリィは心音もよく聞き取れないほど全てが静寂に包まれている。
アンジェラは玉座に座らされているリリィの体を抱きかかえると、自分が玉座に座り、リリィを膝の上に抱いた。
抱きしめると、ほのかに体温が伝わってくる。
髪の乱れを直し、指先で頬を撫で、やさしく口づけをした。
無反応なその体からは、何も返ってはこなかった。
目を瞑り、アンジェラが小さな声で歌を歌う。リリィが好きだと言ってくれたアンジェラの歌だ。
アンジェラはいつの間にか眠ってしまっていた。リリィを膝に乗せ抱きしめたまま。
眠っているアンジェラの頬を優しく指がなぞった。
「リリィ…。」
リリィが触れたのかと思い目を開けた。
「なっ…。」
目の前に黒い翼の天使が、跪いてアンジェラの頬を触っていた。その瞳は赤かったが、とてもやさしい目をしていた。
「どうやってここへ来た?」
思わず、アンジェラは黒い翼の天使に聞いた。その能力はリリィとリリアナしか持っていないからだ。
「…。」
黒い翼の天使は無言だった。無言のまま、アンジェラの髪を触り、微笑んだ。
「何か用か?徠人だろ?リリィは渡さないぞ。」
アンジェラがそういうと、黒い翼の天使は小さい声でつぶやいた。
「まだ帰れそうにないよ。」
「えっ?」
アンジェラはかなり動揺した。
なぜならば、そんなことを言う立場の人間は一人しかいないとわかったからだ。
「ま、待て!お前は、リリィなのか?」
慌てて聞いたが、黒い翼の天使は音もなく立ち上がりその質問には答えずに青い光の粒子を体全体に纏うと少しづつ消えて行った。




