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112. 徠牙を斬った男達

 黒い翼の天使は遠くから朝霧の旧邸を眺めていた。

『もうすぐ、来る頃か…。』

 彼の視線の先には、子供同士でふざけ合い兄が投げたお守りが塀を超えて外に出てしまい、それを拾おうとして塀の外に飛び出してしまった子供を捕らえた。


 お守りを一度手に掴んだ子供の前に馬二頭に乗った中年と青年の侍がいた。

「おいっ。」

 髷を結った侍の青年が飛び出してきた子供に声をかける。

 町民が侍に理不尽な殺され方をすることもよくある時代のことだ。うかつに飛び出してしまった。しかし、その青年は子供の瞳を見て驚いた。

 今まで見たことのない碧眼だったからだ。

 美しく、澄み切ったその瞳に一瞬で魅了され、青年は子供を連れて帰ろうとした。

 ところが、同行していた中年の男は「それは鬼の子に違いない、ここいらで噂になっている人をさらう鬼の子だ。」そう言って、馬から降り、子供を足蹴にし、距離を取ると刀で斬り捨ててしまった。

 そして、証拠隠滅とばかりに少し先の崖まで運び、崖から投げ捨ててしまったのだ。

 青年は目の前の悲劇に抗うことが出来なかった。中年の男は自分の叔父にあたり、たてつけば自分も殺されるかも知れないからだ。

 しかし、青年の心の中にはその時の後悔がずっと残るのだった。


 黒い翼の天使は子供の天使がその子供を助けるのを見守ってから二人の侍を追った。

 その二人は、たまたまこの場所を通りかかった地方の領主の護衛などを仕事としている男達だった。

 他の領主の息子を斬り捨てただけでも大罪なのだが、その言いがかりも酷いものだ。


 黒い翼の天使は、二人の家の場所を特定すると、中年の侍の息子と娘、そして妻の目が碧眼に見え、自分に襲い掛かってくるように見えるよう男の精神を操作した。

 そして、青年の侍には昨日叔父が手にかけた子供が他の領主の子息であったことを夢の中で暗示し、告発を仕向けた。そして、目の色や髪の色で差別を行わない世の中になるよう尽力せよと命令した。

 妻子を自らの手で殺した中年の侍は、青年の侍の告発を受け、他領地の子息を殺害した罪と自分の家族を殺した罪で斬首処刑された。

 青年は晩年、役人になり差別のない世の中になるよう力を尽くした。

 そして、度々あの崖を訪れては、献花していたのだ。


 黒い翼の天使は献花に訪れたその男に、あの崖で一度姿を見せたことがある。

 男は驚き、恐怖に固まっていたが、天使の姿を見て安堵の色を見せた。

 瞳の色は違うが、あの殺された男の子がこの天使になっていると思ったのだ。

「オマエはこれから先、自分の子孫に朝霧のために決して裏切ることなく、命ある限り尽くすよう指示しろ。」

 黒い翼の天使は赤い目で命令した。

 男は黒い翼の天使からの命令に、何故か喜びさえ感じて首肯した。

「この身が尽きても、必ず子孫にも尽くすように伝えます。」

 男の顔は晴れやかだった。この男の子孫が川上かえでだということは誰も知らない。


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