111. 復讐の鬼
病院で徠夢と未徠の前から姿を消した徠人は、朝霧邸の自室に転移し、服を着た。
そして、目を瞑り何かに集中すること数分、急に目を見開きどこかに去った。
その者は、朝霧徠人の体と体の中に残る負の念を自分の糧とし、これから遂行しようとする事柄に対して貪欲に計画を練っていた。
「まずは、私利私欲のために他人を害する鬼畜の排除と行こう。」
そう独り言を言い、翼を広げた。
最初に出たときよりも翼の色が濃く、漆黒の翼になっている。
黒い翼の天使は薄く笑って転移した。
転移した先は、江戸時代の朝霧の領地だった。
上空から音を出さないようにその場を見守る。
来た。五人の賊に扮した男達だ。その男たちはあっという間に朝霧城の中に侵入し、緑次郎の父、母、姉たち、仕える者達までもを斬り殺していった。緑次郎はたまたま厠に行っておりその場には出くわさなかった。厠から戻ってきた緑次郎が目にしたのは、一家の惨殺された凄惨な状況と、城に放たれた炎の赤い色だった。
「復讐されても文句の言えない所業だ。」
黒い翼の天使は朝霧城に火を放ち、緑次郎の家族を惨殺した者達の後をつけた。
さほど時間をかけず、その男たちは依頼主のところへ報酬を得るために戻って行った。
男たちが行ったのは朝霧の領地の北側に隣接する別の領主の治める城だった。
そこの領地は朝霧の領地の三倍もの土地を所有しており、豊かな土地であったが、領民に課す税が高く、領民は度々その土地を離れ、朝霧の領地へと救いを求め移っていくこともあったようだ。朝霧は地元の民に愛されていた。
単なる逆恨み、妬み、そういう理由での惨殺、そして放火だった。
黒い翼の天使は、これらの情報を数人の家臣の記憶を読むことで知り、その復讐をどのように行うか、計画を練った。
その城には領主の他に、妻と子供が四人いた。
一番末の娘に目を付けた。その子が一番心が優しかったからだ。
黒い翼の天使は、その娘の夢に入り込み、緑次郎の家族が惨殺される様子を見せ、そして最後に自分の姿をさらし、『天の報いを受けさせろ。家族、家臣全員の首を斬って、火を放て。お前だけは生き残り、いつか朝霧の役に立て。』赤い瞳でそう言った。
そして、十年後、その娘が十二歳になり刀を扱える力を得たとき、家族の食事に毒を盛り、次から次へと家族の首を落とし、城へ放火し、娘は姿を消した。
もちろん、その惨殺や放火が娘の仕業だと知る者はこの世にはいない。
その領主には跡を継ぐ者がいなくなったため、領地は朝霧の領地へと統合された。
朝霧の城は燃えてしまったが、緑次郎の叔母が嫁いだ商家で息子が保護されていることは届け出ていたため、領主としての地位は維持しつつ城を持たずに領民を支えることとなったのだった。




