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107. 何者かの痕跡

 徠人らいとが自殺を図り、池の中へと沈んでいくのと時を同じくして、白蛇のイヴは四か月ぶりに家の中へと入って行っていた。

 そして、リリィとアンジェラの部屋のクローゼットの中に入り込み静かに息をひそめた。


 徠人が池の底に到達するころ、一番遠くに座っていたアンジェラが翼を出し上空から池に勢いをつけ飛び込んだ。

 池の底から上を見上げる徠人は、肺の中に急激に入り込んでくる水で呼吸が止まり、自分で刺した傷からどんどんと血液が流れ出し水を血に染めていくのをただ見つめていた。

 視界がぼんやりとして、痛みは何も感じなくなり、心臓が止まった。

「終わるんだな。これで…。」そう思った。

 その時、青い光の塊に見えるそれは、徠人の目の前に迫ってきた。

 自分を怒りの眼差しで見つめるそれには、大きな翼が生えていた。

「アンジェラ…。」

 自分を憎んでいる男が、目の前にいる。そして、その男は自分の腕を掴み引き上げようとしている。水の中を飛ぶように、翼を広げて。

 徠人はアンジェラになりたいと思った。自分がアンジェラだったら、ライルは自分を愛してくれたはずだと思った。不思議と怒りの感情はそこにはなかった。

 怒りは体に置き去りにして、愛したい、愛されたいという感情が高ぶり、徠人は最後の力をそれを感じることだけに費やした。

 徠人の体の表面は紫色の光の粒子に包まれていた。誰もそれを見てはいなかったが…。


 アンジェラが池の表面に到達し、そのまま空中へと飛び出した。

 腕一本で持ち上げられた徠人を池の脇に下ろし、徠夢とリリアナに刺し傷を治すよう促す。未徠が人工呼吸と心臓マッサージを始めた。

 出血がかなり多く、傷を癒してもなお、心肺停止であり命の危険が無くなりはしない。

 アズラィールが救急車を呼んですぐに徠人は病院へ搬送された。

 未徠と徠夢が病院へと駆け付けたが、リリィの時と同じく植物状態であると医師から告げられた。


 アンジェラはリリアナとアンドレと共に一度イタリアの自宅に帰り、シャワーを浴びて着替えた後、再度リリアナに朝霧邸に連れて行ってもらった。

「リリアナ、すまない。また後で迎えに来てもらうよ。」

「うん、大丈夫。電話して。すぐ来るから。」

 そう言ってリリアナはイタリアに戻った。

 アンジェラは日本の朝霧邸の自室を確認したかったのだ。もう四か月も訪れていない、何かリリィに関する情報がないか…探そうと思った。


 アンジェラが自室のカギを開けて入ると、暗い部屋の中で、クローゼットの中から青い光が漏れていた。

「リリィか?」

 部屋の照明をつけ、勢いよくクローゼットに近づいたが、その時クローゼットの扉がバンと音を立てて開いた。血の匂いがする。開いたクローゼットの内側に血の手形がべっとりと一つついていた。

「なんだ?」

 ドスッと音がして、今度は床に血の足跡が付いた。

 それはアンジェラがいる場所を通り過ぎ、その先にまた血の足跡をつける。

「っ、誰だ?」

 今度はドサッと音がして、ライルの日記と書かれたノートを机の上に広げた、ノートがパラパラと開き、記入された最後のページの次のページに血の手形をつけた。

「リリィなのか?私にできることがあるなら言ってくれ。」

 アンジェラの叫びのような声を聞いてアズラィールが部屋に入ってきた。

「アンジェラ、どうした?わっ、なんだこれは…。」

 手形や足形をみてアズラィールは一歩引いた。

 次に、引き出しが開いた。ガンッ、引き出しにも血の手形が付いた。

 そこには以前から入れられていた徠人の髪の束があった。その髪の束にも血の手形がついた。

「どうするつもりだ…。」

 だが、その問いには誰も答えず、その後、部屋には静けさが戻っていた。



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