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106. 凶行

 四月二日日曜日。

 ちょうど一年程前、朝霧邸の裏庭でお花見をした。

 当時はまだ全員がそろっていたわけではないが、楽しい思い出として記憶している者も多いだろう。

 翌日以降の天気が悪いらしく、桜を見るなら今日が一番適している。

 アズラィールに誘われて、アンジェラとアンドレ、リリアナは午後から日本の朝霧邸に来ていた。


 久しぶりにアンジェラはアダムをいじり倒している。

「アダム~、もうすっかり成犬だな。」

 そうアンジェラが言うと、アズラィールも「そうだね。」と頷いた。

「白蛇はどうなった?」

 アンジェラが問うとアズラィールは少し考えた様子で言った。

「そういえば、十二月の終わり頃から見ていないな。裏庭のどこかで冬眠でもしているのかも知れない。あの白蛇は自由気ままにどこにでも移動してたからね。」

「そうか…。」


 日本の朝霧邸をアンジェラが訪れたのは、クリスマスパーティーの時以来だ。

 アンドレとリリアナはニコラスやアズラィール、徠神を連れてしばしば過去に行っている様だ。あとでリリィと自分に与えられている自室を見てから帰ることとしよう。

 依然として、リリィの手がかりは掴めないままだ。


 夕食を兼ねた庭での夜桜を見ながらの食事が始まった。

 昨年の花見のことを思い出し、アンジェラは胸が苦しくなった。

 あんな楽しい日々があったなんて、今では信じられない。ただただ夢を見ていただけなのではないかと、そう思いながら桜を眺めた。

 そういえば、桜が散った後に、この裏庭に連れて来られ、リリィがくるくる回ると、桜の花びらの形をした光の粒子が舞い、すごく楽しい気分になった。

 思い出して、涙が溢れる。

 寂しい、悲しい、空しい。でも絶対に帰ってくると信じているよ。アンジェラは心の中でそう言いながら桜を眺めた…。

 夜八時過ぎ、そろそろ外の風も冷たくなってきた。

 そろそろお開きということで片付け始めた時、アンジェラは不思議なものを目にした。

 草むらから、暗い庭であるからこそわかるような青い粒子をまとった、小さい蛇が弱々しく蛇行し、家の方に向かっている。

 リリィの白蛇か…冬眠から覚めたのだろう。

 腹に卵を飲み込んだような丸い形をした膨らみがあった。

 自由に生きているんだな。そう思った。


 その時だ、家の中から泣き叫ぶような男の声が聞こえた。

「なんだ?」皆、そう思った。

 家から出てきたのは、サバイバルナイフを手にした徠人だった。

 全員が徠人から距離を取る。

「逃げろ!」

 そう叫んだのは、徠夢だった。

 徠夢はリリィが書いた日記で、この日起こることを知っていた。

 本来ならば、リリィはこの日徠人の手により刺殺される運命だった。

 しかし、四か月も前に徠夢のせいで今は植物状態であり、封印の間で魂を見つけ出すのを待っている。リリィがいなくても徠人の暴挙は起こるのか…。

 リリィの日記によれば、徠夢以外を道連れに、徠人が何人も殺すのだ。

 しかし、それはあっけなく終わった。

 リリアナが雷の矢を放ち、地面にそれを打ち付け、徠人の体を拘束した。


 徠人はそれにあらがいながら、言葉を発した。

「ライルはどこだぁぁぁぁ?ライルを返せぇぇぇ。」

 その狂った目に皆恐怖を覚えた。四か月もひっそりと行動を起こさずにいたのに、どうして、今夜そのような暴挙に出たのか?

「ライルはもういないよ。あんたがそうやって殺そうとするからライルも生きてるのが嫌になったんじゃない?」

 徠人の目玉がギロリと言葉を発したリリアナを見た。

 雷の矢で地面に固定された徠人が皆を一人ずつ見て不気味に笑った。

「ははははっ、ははは…。」

 徠人は笑いながら、自分の胸に何度もナイフを突き刺した。

 雷の矢はナイフの刃先に感電し、バーンと大きな音を立てて雷を消した。

 そして、徠人を固定していた雷の矢が消えると、彼は大きな水しぶきをあげて池に落ちて行った。


 皆、声を出せなかった。恐怖と嘆きと絶望の空間で、徠人が自殺を図った場面に直面したのだ。徠人はまだ刃物を持っている、見ていた者も助けるには躊躇ちゅうちょしてしまった。


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