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104. 後悔

 十分ほどで救急車が到着し、リリィが搬送されて行った。アンジェラが付き添って行った。リリアナは青ざめた顔で、まだ震えが止まらず、アンドレはリリアナを抱きしめるしかなかった。リリィが死んだら、リリアナも消える可能性がある。

 リリアナはアンドレにだけ聞こえるよう小さな声で言った。

「私たちも行かなきゃ。アンジェラとアンドレに言っておかなきゃいけないことがある。」

 アンドレとリリアナはアンジェラとリリィの着替えを部屋から持ち出し、病院へ追いかけることにした。その時に、本来だったら父親の徠夢も一緒にいてもらう方がいいが、今回の原因になっている徠夢は少し距離を置いた方がいいからと、アズラィールに同行を頼んだ。


 病院でアンジェラに合流した三人は医師からの説明を受けることになった。

 医師は、残念ですが、と前置きしたうえで「現在の状態は脳死状態と考えてください」と言った。

 アンジェラは「身内だけにしてください」と言い、医師や看護師を退室させると、リリアナにリリィの状態を聞いた。

「リリアナ、教えてくれ。リリィはどうなってる?」

 リリアナは目を伏せて言った。

「さっきの医師の言う通り。植物状態だと思う。」

「もう目覚めないということか?」

「違うの。リリィは絶望したんだよ。生きることに。リリィでいることに。」

「どういうことだ…。」

 アンジェラが見たことないくらい怖い顔をしている。

「元の姿に戻れって言われてた。リリィは幸せになっちゃいけないのって言ったら、父様が怒って…。」

「リリアナ、その時の様子を見せてほしい。」

 リリアナはリリィの体に触ったときに得た記憶を三人にコピーした。

 アズラィールがアンジェラの肩に手を乗せた。リリアナが小さい声で言った。

「あのね、リリィの赤ちゃんを助けて。」

「「どういうことだ?」」

 アンドレとアンジェラが同時に言った。

「リリィが黒い核をおなかに入れた時に、体の中に黒い核が留まれなかったのは、赤ちゃんがいたからなの。そのおかげで、私が分離できたんだけど。」

 リリィは妊娠に気づいていない。リリアナは続けた。リリィが死んでしまったら、リリアナの肉体も消える可能性がある。

 アンジェラは震える声を絞り出した。

「どうしたら戻ってきてもらえるんだ!」

 誰も答えを見つけられなかった。


 アンジェラとアズラィールは朝霧邸に戻り、徠夢につかみかかっていた。

「おまえ、何てことしてくれたんだ。自分の子供だぞ。」

「ちょっとぶつかったくらいで大げさだな。」

 徠夢は自分は悪くないとでも言うような口ぶりだ。

「植物状態が大げさって、どういう神経してるんですか?」

 アズラィールも声を荒げて徠夢につめよる。

「植物状態…。何、言ってるんだ。」

「そうだ、意識もない。自発呼吸もできない。このままだともうダメだ。」

 アンジェラは怒りに震えながら言葉を絞り出した。

「嘘だろ?担ぐのはやめてくれよ。僕が傷くらい治してやるよ。」

 徠夢はそういうと車を出しリリィの入院先の病院へ移動した。

 三人が病室に入ると、アンドレが徠夢に敵対心むき出しで、叫んだ。

「とどめでも刺すつもりか?」

 アンジェラがそれを抑えて、徠夢を病室へ入れる。

 喉に呼吸器の管を挿管されたリリィが半開きの目で横たわっているのが見える。

 さすがにそれを見て徠夢も冗談ではないと悟ったようだ。

「ど、どうして…?」

 徠夢は頭の傷や、体中を探ったが、どこにも悪いところはなかった。

 しかし、もうその体のどこにもリリィの意識が見当たらないことは理解した。

 リリアナが泣きながら言った。

父様とうさまのせいだ。リリィが悪いわけじゃないのに。全部リリィのせいにした。ずっと、たった一人で皆を助けるために頑張ってたのに。ひどいよ。」

 アンドレがリリアナを抱きしめた。

 徠夢はこの時初めて理解した。自分がひどく愚かな人間だと、今まで親としての自覚が足りなかっただけではなく、どこかライルに嫉妬する自分もいた。

 自分だって皆を支えるために努力している、それなのにライル、ライルといい大人がライルを奪い合う。そうか、自分は命をかけてまで皆と関わっていない。

 幾度となく目にしてきた。他の者を救うために身を投げ出すようなやり方で危機を顧みず他の者を助けてきたライルを…。そしていつの間にか自分の手の届かないところに行ってしまったと思っていた。

 だが実際には、自分がライルを避けていた。そして自分の感情的な行動が原因で本当に手が届かないところへ行ってしまうのだ。

「僕は、どうしたら許してもらえるだろうか…。」

 徠夢がぼそりと言った。リリアナは泣きはらした目をこすりながら言った。

「リリィを返してよ。」


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